テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「放課後の屋上で」
夕暮れの風が、校舎の屋上をやわらかく撫でていた。
うちはフェンスに背中を預けながら、オレンジ色に染まった空を眺める。
「ふわぁ……眠い。椎名、はよ帰ろ~や」
欠伸を隠そうともせずに言うと、椎名は苦笑を浮かべた。
「笹木、あんた授業中も寝とったやろ。これ以上寝たらほんまにバカになるで」
「うっさいなぁ。椎名がおるから安心して寝れるんや」
「……はぁ? なんであたしがおると安心なん?」
問い返す声は、わずかに照れを帯びていた。
うちはニヤリと笑い、彼女の方へ身体を寄せる。
「だって、椎名は絶対にうちを起こしてくれるもん」
「……そんなん、ただの世話焼きや」
そう言いつつも、椎名はうちの髪にかかった風をそっと手で押さえる。
「風強いから、風邪ひくで」
「……なぁ、椎名」
「ん?」
「うちな、こうやって二人でおる時間、めっちゃ好きやねん」
思わず椎名の心臓が跳ねる。
普段は冗談ばかり言ううちの、不意打ちのような真っ直ぐさに、椎名は言葉を失った。
「……なに急に、恥ずかしいこと言うてんの」
「照れてんの~? かわいいなぁ」
「うるさいわ!」
真っ赤になった顔をそらしながらも、椎名はそっとうちの手を握る。
指先が触れた瞬間、二人の間に静かなぬくもりが広がった。
「……笹木」
「ん?」
「……あたしも、笹木と一緒におるん好きや」
二話目
夕焼けに染まる屋上。
うちはフェンスに腰かけ、風に揺れる空を見上げながら、横にいる椎名をちらりと盗み見る。
「……なぁ、椎名」
「ん? なに」
「椎名の横、あったかいな」
「はぁ? なに言うてんの、あたし別にストーブちゃうし」
そう言いつつも、椎名は少しだけうちとの距離を詰める。
その仕草が、胸をくすぐるように甘かった。
「ふふっ。やっぱり椎名、かわいいなぁ」
「……あたし、かわいいとか言われるの慣れてへん」
「じゃあ、慣れるまで毎日言うたる」
「やめぇ! ……けど」
椎名は言葉を切り、もじもじと手を伸ばす。
その手がそっと、うちの指先に触れた。
思わず握り返すと、椎名は視線を逸らして、耳まで真っ赤に染まっていた。
「……笹木」
「ん?」
「……あたし、笹木が誰かに取られるんイヤや」
「……え」
胸の奥がじんと熱くなる。
普段の椎名からは想像もつかないような独占欲に、うちは思わず笑ってしまった。
「大丈夫や。椎名がおる限り、うちどこにも行かへん」
「……ほんま?」
「ほんまや。うちの一番は、ずっと椎名やで」
その言葉に、椎名は震えるように笑う。
「……もう、笹木ずるいわ。あたし、もっと好きになってまう」
夕焼けが沈む頃、二人の影は重なり合い、もう誰にもほどけないように寄り添っていた
三話目
夕焼けの光が屋上を包み、世界をやわらかく染め上げていた。
フェンスに並んで腰かけるうちと椎名の影は、すでに寄り添うように重なっている。
「……なぁ、笹木」
「ん?」
「あたし、やっぱり笹木のこと……特別やと思う」
「……っ」
胸がぎゅっと締めつけられる。
普段は飄々としてる椎名の真剣な目に、うちは思わず息を呑んだ。
「椎名……うちもや。椎名は、誰より大事や」
「……ほんまに?」
「ほんまや。だって――」
言葉の続きを探すよりも先に、身体が勝手に動いていた。
うちは椎名の頬に手を添えて、そっと顔を近づける。
夕焼けに照らされた彼女の瞳が、驚きと戸惑いと、そしてかすかな期待に揺れていた。
「……笹木」
「ちょっとだけ、ええ?」
問いかけるように囁いて、唇を重ねる。
触れただけの短いキス。けれどその一瞬で、心臓が跳ね上がるほど熱くなる。
「……っ」
離れたあと、椎名の頬は真っ赤に染まり、唇がかすかに震えていた。
「笹木……ずるいわ」
「ふふっ。椎名も、ほんまは嫌やなかったやろ?」
「……あたし、嫌どころか……もっとしたい、って思ってしまった」
その言葉に、今度はうちが顔を真っ赤にする番やった。
でも、手は離さない。
二人の指先はしっかりと絡み合い、まるでこれから先を誓い合うみたいに。
夕陽が沈み、星が瞬き始める頃。
笹木と椎名の影はひとつに溶け、夜の空気の中で静かに寄り添っていた。
四話目
星が瞬き始めた屋上。
さっきのキスの余韻に、うちはまだ心臓がドキドキしていた。
椎名は頬を染めたまま、じっとこっちを見てくる。
「……笹木」
「ん?」
「さっきの……一回だけで終わりとか、あたし嫌や」
そう言うと、椎名は迷いもなくうちの肩を掴んだ。
強引に引き寄せられて、背中がフェンスにあたる。
不意を突かれたうちは、ただ瞬きをするしかなかった。
「ちょ、椎名……?」
「今度は、あたしからする」
椎名の顔がすぐ近くに迫ってくる。
夕焼けの残光に照らされた瞳は、冗談なんて一切なくて――ただ、まっすぐで。
そして、唇が重なった。
さっきよりも長く、深く。
椎名の手がうちの頬を包み込んで、逃げ場なんて与えてくれへん。
「ん……っ」
思わず小さな声が漏れる。
胸の奥まで熱が広がって、頭が真っ白になる。
やっと離れたとき、椎名は荒い呼吸を整えながら、口元に小さな笑みを浮かべていた。
「……なぁ、笹木。あたし、もう止まらへんかもしれん」
「……椎名、ずるい。そんな顔されたら……うちも、止まれへん」
互いに見つめ合い、また自然に唇を重ねる。
夜風が二人を包む中、もうフェンスの外の世界なんて気にならなかった。
番外編(四話目初々しいver.)
夜風が少し冷たくなってきた屋上。
うちはまださっきのキスの余韻で胸がいっぱいやった。
そんなうちを見て、椎名はふいに真剣な顔をする。
「……笹木」
「ん?」
「さっきのキス……今度は、あたしからしたい」
耳まで赤くして言うその言葉に、うちは一瞬固まってしまう。
「……っ、な、なんで急に……」
「だって、あたしばっかりドキドキさせられるの悔しいし……あたしも、笹木をドキドキさせたい」
そう言って、椎名はぎこちなくうちの両手を握った。
指が少し震えてるのは、きっと椎名も緊張してるからや。
「……じゃあ、目つむって」
「う、うん」
言われるままに目を閉じると、すぐに柔らかな感触が唇に触れた。
ほんの一瞬の、短いキス。
けれどその恥ずかしさと愛しさが、胸いっぱいに広がって、心臓が破裂しそうになる。
「……ど、どうやった?」
椎名の声はかすかに震えていた。
うちは思わず笑って、彼女の肩に頭を預ける。
「……反則や。めっちゃドキドキした」
「……ほんま?」
「ほんま。椎名にキスされるん、うち……すごく嬉しい」
顔を見合わせると、ふたり同時に真っ赤になって、笑い合った。
指先は自然と絡み合い、離れることなくずっと繋がっている。
初々しい甘さが、夜の校舎にそっと溶け込んでいった。