「無性にどこかへ帰りたいような気分になることはありませんか?」
手の中の小人は、優しげに笑った
「自分の本当の居場所、大切にしてくれる人、まだ見ぬ…でも懐かしい世界」
オペラの俳優のように、もこもこした手のひらが空に踊る
「でも私あなた達のこと知らないよ」
「それはそうでしょう!」
そう、知らない
知らないのに何故かこの得体のしれない、小人たちが怖くない
それどころか、ずっと昔から一緒にいたような親しみさえ感じるのだ
賑やかな音楽がピタリと止む
花のようにワルツを躍っていた小人たちが、一斉にこちらを見た
「さあ、時間だ。金平糖をくれないなら、早くしておくれ。御主人様におこられちまう」
柱時計がやれやれと電飾をふるい落としながら言った
口がないのに、何を言っているか分かるなんて、どうなっているんだろう
「そうだな。ウォールクロック。さあ!扉を開けてくれ」
しっかり握りしめていたはずの小人は、するりと私の手の中を抜けたると、光り輝いて普通の大人くらいの大きさになった
(大きくなれるの!?)
小人(?)はオーケストラを見て小さく頷くと、柱時計の扉を開け、文字盤を何度か動かした
針が物凄いスピードで回り始め、たちまち眩い光があたりを包む
「だって初めて会うんじゃもん
お嬢様は御主人様の魂の片割れ
この時をお待ちしておりました
御主人様をお救いください」
物凄い力で、がっしりと両手を掴まれた
「痛っ」
燕尾服が目を細め、にっと笑みを刷く
(え、これ夢じゃない)
「イヤイヤ待って!
他人救ってる場合じゃないの
迎えに来て欲しいっていうのは、そういうことじゃなくて…!」
全部説明する時間はなかった
光の渦に意識ごと吸い込まれる
脳天気な声が、私の意識に沈んだり浮かんだりした
「大丈夫!このレイモンドがお供しますぞ! レイと及びくだされー!」
「話聞いてる!?」
まぁまあ、そう安心させるように、逞しい腕が背に回るのを感じた
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