「僕の所に堕ちてきて。」
「嫌だ…!」
こんなようなやり取りをもう数時間は交わしている。逃げようにも、ドアの前をカイトに塞がれているので、逃げれない。
「優しくするからさ、堕ちてきなよ?」
「…いや、だ。」
オレはここに来てから数時間ほど内容が同じやり取りをしているので流石に疲れてくる。
その瞬間、カイトはオレの頬を叩いた。
最後の方に手が出るのはいつもの事だけど、今日はいつもと比べ物にならないくらい痛い。
「いだい”っ!!」
痛い痛いと脳が訴える。カイトは軽く叩いただけなはずなのに…!
「カイト…すごく痛いの、なんで…!?」
「レンの設定を弄った。」
それが当たり前のようにカイトは言う。
「設定をいじるのには、パスワードが要るんじゃないの…?」
「マスターが設定するパスワードなんて、大体は誕生日を後ろから読んだやつだよ。」
…そうだ、マスターはそういう人だった。そんな、ちょっと抜けてるところが曲にもでてて、楽しい人だったな…。って、今は感傷に浸っている場合じゃない。
「レン、いい加減に僕の所に堕ちてきて。そろそろ待てないよ?」
それにオレは反論する。
「カイトの言う”堕ちる”は、カイトの思うままの人形になれってことじゃんか!そんなのオレは嫌だよ…!」
「…まだこんな状況になっても言う?今謝れば許してあげる、これが最後のチャンス。」
カイトが最後と言ってるなら、本当に最後のチャンスなのだろう。
それでも、
「い…や、だ」
「…そう。」
そう言うとカイトはオレを殴り始める。
最初は軽めに、段々と容赦なく殴ってくる。
言い表せない程に痛いけど、
いっそ殺してくれって思うけど、
それでも絶対に折れたくない。
折れてしまったら、もう元には戻らない気がした。
カイトもきっとそのことはわかっていて、だから殴ってきているんだろう。
殴られたところが黒く変色しはじめた頃、やっと解放された。
それからオレは床に倒れ込む。
過呼吸と喘息が混ざったような音を出しながら。
カイトはそれを見下ろしながら口を開く。
「どう?堕ちる気になった?」
オレは掠れた声をなんとか発する。
「ゃ、だ…」
「……」
カイトは部屋を出る。その後に鍵の閉まる音が聞こえた。
それからは、何もなかった。
本当に何もない。呼吸もままならないような状態で、食べる物もなく、激痛でまともに寝れず、排泄する場所も与えられずに。ただ死ぬのを待つ状態で、いつしかオレはカイトに許しを乞い始めた。
「カ、イト…許して、おねが、い」
「ゆ…る、して…くだ、さい…」
どのくらい経っただろうか。カイトが部屋に入ってきた。
しばらくオレを見下ろしてカイトが喋る。
「…レン、本当なら許さないけど、レンだから許すよ。そのかわり、僕の言うことは全部聞いてね。」
カイトは狂気を孕んだ目でそう言った。
「わかった……何でも聞くから……」
カイトはその言葉を聞いて満足げに笑う。
「僕の所に堕ちてくれて、いい子…♡」
そう言って、力強く抱きしめられた。
……あぁ、これで終わりじゃないのか……。
そう思った途端、身体中が悲鳴をあげる。
さっきよりも痛みが増している。
意識を保つのが難しいほどの激痛の中、カイトの声だけが聞こえる。
でも、それもだんだん遠くなっていく……。
気がつくと、オレの部屋のベットでカイトと一緒に寝ていた。
ふと内股辺りに違和感を感じ触ってみると、白い液体が手につく。
…睡姦。
一つの嫌なワードが頭をよぎる。そして、急いで近くにあった鏡を見た。
すると、オレの首筋には無数の赤い痕があった。
カイトはお兄ちゃんみたいに接してたし、普通ならありえないことだけど、オレは確信してしまった。
オレはこの人に犯されたのだ。
それを知った瞬間に涙が出てきた。
(…いつまでこの苦しいのは続くんだろ。)
そう思ったと同時に、心の中で何かが崩れ落ちた気がした。
カイトの言うことを聞かなかったらまた、あの地獄そのものの部屋に入れられるかもしれない。それだけは避けたい。
だから、オレは今日からカイトの操り人形になる。
どんな命令にも従う。
例えそれが、死ねという命令だったとしても。
カイトの言う通りに生きる。
そう決めた。
そうすれば、カイトはオレを愛してくれる。
カイトの言う通りになれば、愛してくれる。
カイトの言うことは絶対だ。
カイトの命令は絶対に守る。それが、今のオレの存在意義なんだ。
オレにできることはそれだけだから……。
そうして、オレは壊れていく。
狂っていく。
それでも、オレはカイトの傍に居続けたい。
カイトに必要とされたい。
そう思い続けて、今日も生き続ける。
オレはカイトのモノ。
「カイト……好き……♡」
そう言うと、カイトはとても嬉しそうに微笑む。
その顔を見ると、胸が高鳴る。
「僕もレンのことが好きだよ。大好き……。」
そう言ってキスをされる。
甘い味がした……はず。
__これでいい。これでいいんだ。
こうすれば、カイトとオレは苦しまずに生きていける。
苦しいのは嫌だ。
辛いのは嫌だ。
痛いのはもっと嫌だ。
だから、これでいい。
それでいい。
これが正解なんだ。
間違ってなんかいない。
正しい選択をした。
そう言い聞かせる。
そして、オレは思考を停止させる。
もう、何も自分で考えない。
カイトの言うことに全て従っていれば、幸せになれるから。
カイトの言うことは全て正しいから。
もう二度と、間違えたりしない。
もう二度と…………
___「もう二度と、自分の意思で動こうなんて思わないでね?」
ーーーーーーーーー
ギィィィ……
ドアが開き、暗い部屋に光が差す
ニコニコしながら部屋に入ってくる男は髪の青い、僕にとって悪魔のような奴だった
ベッドでまるで人形のように横たわってる僕に近ずいた男は「おはよう」と言って、優しい手つきで頭を撫でてくる
その手は非常に冷たく感じた
「おに…ぃ…ちゃ……おはよ…ぅ……」
僕は弱々しく小さな声で言った
「おはよう、レン。」
僕の名前は……レン…だと思う……
彼がそう呼んだから
僕は彼をお兄ちゃんと呼んだ。
そう、彼は僕の優しいお兄ちゃん。
「よく寝れたかい?」
「寝れ……た…よ」
「それは良かった。実は少し心配だったんだ。昨日はちょっとやり過ぎたから…」
「だいじょ…ぶ、だよ……」
「そう……でも自業自得だよね?自分の意思で動こうとしたんだもん」
「あれだけ言ったのに。約束を守らない方が悪いよね?」
「そうです…オレが全部悪いです……」
「分かればいいんだよ。俺はレンがずっと俺の物でいてくれればそれでいいんだ」
「レンも俺の傍にいればそれでいいだろ?」
「うん……カイトの傍に居させて」
「分かった。いい子だね」
「じゃあ、今日もよろしくね?」
どうしてこうなったんだろう
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