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想いに気付いたのはつい最近だった。
それなりに長い付き合いなのと、自分で言うのもなんだが感情を隠すのも上手い方なので、いつの間にか目で追うようになったとか声を掛けられてドキマギしちゃうだとかそんな恋愛初心者のようなことはしないけれど。ただ、あの太陽のように周りを明るく照らしてくれるハツラツとした笑顔に、前より愛おしさが増したのが何よりの証拠だと思う。いつまでもあいつの隣にいたいな、なんて思ったりして。
しかし最近、そんな思いだけでは収まらなくなっていることに非常に悩んでいる。
「…つまりは、太ちゃんのこと考えるとお腹きゅんきゅんしてえっちな気持ちになってまう〜♡ってことやろ?」
「ッそうだけどそんなド直球に言うなよ!!俺がせっかく回りくどく言ってやったのに…」
「いや〜、やって仁ちゃんの話長いんやもーん」
仁人の向かい側で机に長い腕を伸ばしているのがグループの可愛い可愛い甘え上手の末っ子。そして仁人が唯一太智への気持ちを打ち明けている相手だ。
本来自身の家に人を上げるのは好ましくない仁人も、人に聞かれたらまずいからと渋々迎え入れた。
「思い切って太智に好きだって伝えて一気に発展できたらいい話だけど、現実はそう上手くいかないじゃん。」
「そう?案外太ちゃんもおんなじこと思っとるかもよ?」
「そんなわけあるかよ」
冗談やめろよ、と言わんばかりの顔を向ける。
「なあ舜太、俺の代わりに太智の性事情とか聞いてきてよ、そしたら俺も満足できるかもしれないし」
舜太はガバッと勢いよく起き上がってブンブンと首を横に振る。
「嫌や!なんで俺が二人の関係に首突っ込まなあかんねん!」
「はあ…?じゃあどうしたら」
「どうしたらもこうしたらもないやろ!今から太ちゃん呼ぶから二人で話でもしいや」
「…は?ムリムリ、てか適当にあしらうなよ。人が真剣に相談してるってのに」
「真剣に相談されてるからこそ言うとるんやって」
舜太は呆れたようにため息をつくと、机の上に置かれていた仁人のスマホをひょいと取り上げた。
「ちょ、何してんの」
「太ちゃん呼ぶ」
「は!?返せって!」
仁人が慌てて手を伸ばす。しかし舜太はひらりと身をかわし、そのまま何かを操作し始めた。
「おい、ほんとにやめろって!」
「もう遅いで」
「…何が」
「送っちゃった」
てへ、とでも言いたげな顔を横目に仁人が恐る恐るスマホを覗き込む。
『太智今から俺ん家来れる?』
「…………お前」
「大丈夫大丈夫」
「何が大丈夫なんだよ!!」
「あ、返信来た」
「は?」
可愛らしくもなんとも太智らしいスタンプで「了解」の文字。
「お前まじでやってるわ……」
「でもこれで1歩進展ちゃう?」
「こんな強引にやって何が進展だよ!」
わーわーと騒いでいる内に、リビング中にチャイムが鳴り響く。
若干の冷や汗をかきつつインターホンを押し「入っていいよ」と一言。
数秒経って丁寧にドアを開ける音がした。
「お邪魔しまーす…うわ、仁人の家とか初めて来たわ!綺麗な家やなー…仁人ー?」
入ってきた太智と、目が合う。
「……」
「……」
仁人の動きがぴたりと止まった。
「……あれ、なんで舜太おるん?」
「いや、それは……」
「俺が太ちゃん呼んだから!」
舜太が悪びれもせず答える。
太智が首を傾げる。
仁人は頭を抱えたくなった。
「舜太、お前ほんと……」
「ほな、俺ちょっとこれから用事あるから!」
「は?」
「えっ」
「ちょ、待て舜太!」
呼び止める暇もなく、舜太は「またな〜」と笑いながら部屋を出ていく。
パタン、と扉が閉まった。静かになった部屋。それと相反するように、時計の針だけがやけにうるさく響いていた。
「……」
「……」
気まずい。
さっきまで舜太相手ならいくらでも喋れたはずなのに、太智という本人を前にした途端、言葉が出てこなくなった。
「仁人?」
「……ん?」
「その、相談かなんかあるんやろ?」
「……いや」
「やって、『俺の家来れる?』って」
「……」
「仁人」
太智が向かいの椅子を引いて座る。
「俺でよかったら聞くで」
その言葉が、妙に優しかった。
仁人は一度だけ目を伏せる。言ってしまえば楽になるのかもしれない。でも、言った瞬間に今までの関係が変わってしまうかもしれない。それが怖かった。
「……俺さ」
「うん」
「最近、ちょっと…いやめっちゃ変で」
「変?」
「太智のこと……前より、特別に感じるっていうか」
ひとつひとつ優しく丁寧に触れるように言葉を選ぶ。仁人の心臓がバクバクと音を立てていた。
「一緒にいると楽しいし、笑ってるところ見ると嬉しいし……できれば、ずっと隣にいたいなって思う」
太智は黙って聞いている。
「だから…かは分かんないけど…俺、太智のこと好きなのかもしれない」
言った。とうとう言ってしまった。その事実が脳を襲った途端に仁人は怖くなって、きゅっと縮こまった。太智の顔を見ることができなかった。
「……そっか」
返ってきたのは、思っていたよりずっと静かな声だった。
「……ごめん」
「なんで謝るん?」
「いや……困るだろ、こんなの」
「困ってへんよ」
「……え」
顔を上げる。太智は少しだけ困ったように笑っていた。
「俺、仁人がそんなふうに思ってくれてたん、知らんかったからびっくりしただけ」
「……」
「でも、嬉しいよ」
その一言に、胸の奥がじわっと熱くなる。それと同時に、自分の気持ちが単に”純粋な好き”ではないことも言わなければという思考に陥る。仁人は太ももを軽く叩き覚悟を決める。
「……でも、それで終わりじゃない」
「え?」
「太智のこと、好きだけど……それだけじゃなくて」
言葉が、喉で一度止まる。回りくどく話すのは得意なつもりだった。なのに、肝心のところで舌が動かない。
「最近、お前のこと考えると……変になる」
「また変、って…仁人、さっきも言ったけど、」
「ちがう……”そういうこと”、考えて、る…」
太智がきゅるきゅるとした大きな目を更に開いた。引いてるような顔ではない。しかし、仁人には一瞬それが拒絶の顔に見えた。それでも1度開いた口は閉じることが出来なかった。
「俺が、太智に……抱かれてる、ところとか。頭ん中、そんなんでいっぱいで…」
そう言い切ったあと、仁人は耳まで熱いのを強く感じた。舜太の前では遠回しでも言えていたし、なんなら茶化されていたような内容を、本人の前で、たったいま自分の言葉にしている。
「ごめん、引いたよな…」
「引いてへんよ」
太智の声は、意外なほど真面目だった。
「……好きって言ったあとに、それも言わなきゃ、と思って。中途半端に伝えて、あとで変になる方が嫌だったから」
リビングの時計の音が、また、やけに大きく聞こえた。
仁人は拳を握ったまま、続きを吐き出す。
「できれば……その、抱いてほしい」
勇気を振り絞って出した声は短く、酷く掠れた声だった。言った瞬間に、自分でも驚いた。あんなに長い前置きをしたくせに、最後はあまりに直球で。
「…俺が言うのも変かもだけど。好きって気持ちと、したいって気持ちが、いま同じ場所にある。……自分勝手でごめん」
太智はしばらく黙っていた。椅子の背に体重を預け、仁人の顔をじっと見る。困っているようで、困りきってはいない。
「……本気?」
「…うん、」
「ほな、俺も正直に言うで」
太智が前のめりになる。距離が、少し縮まった。
「…最初に、ごめん。正直、びっくりした。でも、なんか…不思議と嫌やないんよ。仁人が俺のことそういう目で見てたのも、別に不快やない、くて…」
「……」
「それに、抱いてほしいって言われて、いま拒否する気にならへんかった」
仁人の心臓が、また大きく鳴る。太智の指が、テーブルの上で一度だけ動いた。次に伸びてきたその手は、仁人の手の甲に重なった。
「でも、仁人、今めっちゃ震えてるし。」
「震えてない」
「嘘言うな、震えてんで」
否定しても、指先が熱い。太智は短く笑って、手をそっと握った。
「仁人が良かったら、今抱き締めてもええ?」
「……うん」
この時、他人事のようにふと思い浮かんだのは、紅白歌合戦への出場が決まったと公表された時。しかし、あのときのような仲間と掴んだ夢と喜ぶ感動のハグではない。ずっと感じたかった、仁人だけに与えられる温もりが、今目の前に、確かに存在するのだ。
まるで割れ物を扱うかのように優しく抱擁されてしまえば、自然と涙が溢れ出てくる。今まで張り詰めてきたものが一気に放出されるような、そんな感覚がした。
太智の腕の中で、仁人はしばらく動けなかった。
「……泣いてる?」
「泣いてない」
「いや、泣いてるやん」
「……うるさい」
掠れた声でそう返すと、太智が小さく笑った。「ごめんごめん」とからかっているのに、腕は少しも離れない。仁人は目を閉じた。こんなふうに誰かに気持ちを預けるのは、いつぶりだろう。ずっと、自分のことは自分でどうにかするつもりだった。好きだと思ったことも。怖いと思ったことも。太智のことを特別に思ってしまったことも。全部、自分の中だけにしまっておけばいいと思っていた。それなのに。
「……太智」
「ん?」
「……ちゅー、して」
「…ん」
短い返事。でも、それだけで十分だった。わざとらしく、ちゅっ、とリップ音を鳴らしてキスをした。しばらくして、太智がそっと唇を離す。
「仁人」
「……何」
「俺、」
「そんな顔されたら、襲ってまうよ」
仁人はすり、と太ももを擦り合わせ、少しだけ目を伏せ呟いた。
「…いいよ、」
「……今の、取り消しできひんよ」
「うん」
仁人の声は小さかった。でも、ふと合った瞳には決意と欲望が透けていた。そして太智の腕の中で、太ももを擦り合わせたまま、耳まで赤くしている仁人。
「…ほんまに、ええの?」
「……うん。太智がいいなら」
その答えを聞いた太智は、短く息を吐いた。次に仁人の頰に触れた指先は、丁寧で、少しだけ熱かった。
「ん……」
唇が、もう一度触れる。さきほどとは違って、深く、長く、甘い。仁人の思考がキスによってゆっくりと溶けていく。太智の手が背中を伝い、シャツの裾にかかる。
「止めたかったら、すぐ言ってな」
「……わかった」
返事をしたあと、仁人は自分から太智の服の端を掴んだ。まだ、本人も気づかないほど小さく震えている。それでも離さない。好きだと言って、抱いてほしいと言って、いまはその続きを身体で受け取ろうとしている。
「…あ、先に風呂入ってもいい?その…準備、も、あるし…」
仁人が熱を持ったまま呟く。言葉が並んでいくにつれどんどんと声が小さくなっていく。
「…それもそうやね、じゃあ俺すぐやし先でもええ?」
「うん、あ、着替え…俺のでもいい?」
今更何を恥ずかしがっているのか、申し訳なさそうに口を開く。
「仁人がええなら有難く着させてもらおかな」
優しく微笑み、浴室に消えていく後ろ姿に見惚れる。今の状況がなんとなく現実味を帯びずふわふわしていたが、段々と形を成していく。
言葉に表せないほどの高揚を感じながら仁人もタンスへ歩き出した。
「仁人、お待たせ」
「…じゃあ、俺入ってくるね。寝室で待ってて」
「分かった」
交わす言葉は少なく、今度は仁人が浴室に向かう。
浴室のドアを閉めた瞬間、仁人は長く息を吐いた。シャワーが流れる音が、頭の中の騒ぎを少しだけ遠ざける。鏡に反射した自分は、耳も頰も赤かった。
告白して、泣いて、キスして、いまは一人で風呂に入っている。
「……準備、か」
言葉にすると、恥ずかしさが増す。それでも、自分で言い出したことだ。シャワーで身体を洗い、浴槽に沈む。熱が肩まで上がると、ようやく肩の力が抜けた。指先が、水面の下で止まる。
当たり前だが、初めてのことだった。太智に触られる前に、自分の身体を受け入れられる状態にしておく。それが、今夜の最低限の誠意だと思った。
浴槽から上がり、まだ火照っている身体でローションのキャップを開ける。
慎重に、一本の指を沈める。
「んっ……」
異物感が、はっきりとあった。眉を寄せ、呼吸を整える。まだ湯船に浸かっているかのような感覚で、緊張しているのか、気持ちよさなどはうまくわからない。ゆっくりと動かして、内側をほぐしていく。
「はあっ……」
声が、壁に吸われる。二本目を入れたとき、腰がわずかに浮いた。痛くはないが、気持ちよくもない。なのに、ここにあとで太智が入るのかと思うと、腹の奥がきゅうと熱くなった。
「……大丈夫」
自分に言い聞かせるように呟き、もうしばらく時間をかける。
焦らない。受け入れられる形になるまで、丁寧に。3本目がきつくなくなってきた頃、ようやく指を抜いた。
もう一度身体を流し、タオルで水気を取る。鏡に向かって深呼吸を一つ。
寝室では、太智が待っている。
「……お待たせ」
出てきた仁人に、太智はベッドから顔を上げた。濡れた髪、赤い頰、視線の泳ぎ方。何をしてきたのか、聞かなくてもわかる顔だった。
仁人の前に立ち、手を差し出した。
「まだ、間に合うで」
「大丈夫、」
優しく首を振りながら短く返して、仁人は太智の首に腕を回した。
次のキスは、自分からだった。不器用で、歯が当たって、それでも夢中でかぶりつくようなキスを、何度も。そうしている内にベッドに押し倒された。同時に、仁人の心臓が大きく鳴る。太智の手が、丁寧に肌を伝う。浴室で一人整えた身体を、今度は相手の温度で確認していくみたいに。
「…あ、えっと、舐めても、いい?」
「え、」
太智がぴく、と動く。
「…なんやサービス旺盛やな」
「うるさ、」
とさ、と軽い音を立てて太智を押し倒す。太智のボトムスに手をかける。慎重に下ろすと、既に緩く勃ち上がっている中心が目に入る。ごくん、と喉を鳴らすと太智が頭を撫でる。
「…ごめん、もう限界やから、っはやく」
「…っ」
腹の奥がきゅん、と反応する。恐る恐る太智の昂りを両手で包み込み、何度かキスをした後、口で迎え入れた。
「…ん、っふ…」
じゅぽじゅぽと音を立てて慰めていく。仁人の中心もそろそろ限界だった。
「っはあ、仁人…」
「ッ…きもちい?」
「うん、っ…っは、」
太智が腰を引いて俺の口から先程よりも大きく反り立ったそれを抜く。そして、再度仁人を押し倒した。
「もう…ええ?」
「…っうん、」
ああ、今からほんとに太智に抱かれちゃうんだ、と他人事のように思う。でも、この先のことを想像するだけで、息が上がっていく。
「入れるで」
「……きて」
熱が、ゆっくりと内側を満たしていく。自分でほぐしたあとでも、やはり初めての感触は大きかった。仁人は息を止め、眉を寄せ、太智の背中に爪を立てる。
「はあっ……太智……」
「んー、?…可愛いなあ、仁人」
腰がゆっくりと動き始める。浅く、深く、仁人の呼吸に合わせるように。
「んっ……あっ……そこ……」
「気持ちええ?」
「ぅん、きもち……っ、なんか、変……あたま、おかし……」
太智が笑って、仁人の髪を梳く。襲う、と言った男の手が、いまはまた、壊れ物を扱うみたいに慎重だった。なのに熱だけは本気で、仁人の中を何度も擦っていく。
「仁人」
「……太智、好き……っ」
言葉が、吐息に溶ける。繋がったまま、額を合わせ、名前を呼び合う。仁人は、いつから自覚したかも思い出せないほどずっと一途に想っていた人とついに重なる感覚を、初めて感じていた。目を閉じて、後孔に意識を集中させる。
「っあ、…!?や、そこ…ッ」
ぐり、と掠められたそこに素直に反応すれば、何度も同じところを擦られる。耐えきれず達したとき、仁人は小さく背中を反らせ、太智の名前だけを呼んだ。太智も限界を感じていたのかすぐに続き、奥に熱を放つ。
余韻の中で、二人の呼吸だけが部屋に残った。しばらく、誰も動かない。
「……大丈夫?」
「……うん、大丈夫」
「ほな、よかった」
太智が仁人の額に、もう一度だけ唇を寄せる。仁人は目を閉じて、太智の首に腕を巻き付けた。時計の針が、相変わらずカチ、カチ、と時を刻んでいる。なのに今の部屋は、さっきまでの気まずさも、もう消えていた。
「……仁人」
「ん、」
「……遅くなってもうたけど、」
付き合おう。
仁人の耳にしっかりと届いたその声を、何度も反芻する。仁人は短く頷き、太智の指に自分の指を絡めた。
「…なんか、夢みたい」
「まだ信じられんの?」
「だって、…だって、」
堪らなくなって、抱きしめる。太智がバランスを保てずよろめいた。
「っうお、…どうした?」
「……嬉しいから、」
「…」
「受け入れてくれて、ありがと」
仁人の声は、太智の胸元に埋もれて少しくぐもっていた。太智は一瞬黙ったあと、ふっと笑う。
「……こちらこそ」
「何が?」
「俺のこと、そんなに好きになってくれて」
「……やめろよ」
「なんで?」
「恥ずかしいから」
「今さらやん」
「今さらじゃない」
仁人が顔を上げる。目が合う。二人とも、なんとなく笑った。ほんの少し前まで、同じグループの仲間なだけだった。くだらないことで笑って、仕事の合間に話して、何度も一緒に過ごして。それが今日から、ほんの少しだけ違う意味を持つ。
「……明日からどうしよ」
仁人がぽつりと言った。
「何が」
「いや……今まで通りにできるかなって」
「できるやろ」
太智はあっさり答えた。
「俺らやで?」
「……まあ、そうだけど」
「それに、急に何もかも変える必要ないやん」
「……うん」
仁人は頷く。それから少し考えて、ぽつりと呟いた。
「でも」
「ん?」
「二人きりのときくらいは……ちょっとだけ、特別扱いして」
太智が目を丸くする。
「仁人からそんなこと言うなんて珍しいなあ、甘えたさんなん?」
「キモイって……てか言わなかったら、お前気づかないだろ」
「いや、気づくよ!」
「嘘つけ」
「ほんまやって」
笑い声が重なる。さっきまで胸の奥を占領していた緊張が、少しずつほどけていく。身体が触れる。それだけなのに、今までとは違って感じた。
「……太智」
「ん?」
「これからも、よろしく」
「…こちらこそ」
太智が笑う。いつも見ていた、太陽みたいな笑顔。仁人はその笑顔を眺めながら、ようやく思った。
好きになってよかった。
そしてこれからは、この気持ちを一人で抱えなくていい。
そのことが、何よりも嬉しかった。
後日、改めて舜太に会って話をした。告白をしたこと、付き合うことになったこと。…初日に致したことは流石に言わなかったけど。
「え!? てことは俺、恋のキューピットなんちゃうん!?」
舜太が目を丸くしたあと、ぱっと顔を輝かせる。
「……まあ、そうなるわな」
「嬉しいけど、なんか複雑やわー」
「なんで?」
「やってさぁ」
舜太は頬杖をつきながら、少しだけ唇を尖らせる。
「仁ちゃんが俺に相談してくれたときは、その気持ちは俺しか知らんかったわけやん?」
「……うん」
「それが、今は太ちゃんと付き合ってるんやろ?」
「まあ……そうだけど」
「なんか急に、俺の知らん仁人が増えた感じして寂しいねんな」
思いがけない言葉に、仁人は一瞬戸惑った。
「……舜太」
「いや、別に嫌とかちゃうで!? むしろめっちゃ嬉しいし!」
慌てて手を振る舜太に、仁人は小さく笑う。
「分かってるよ」
「ほんま?」
「うん」
仁人は少し考えてから、穏やかに続けた。
「でも、俺が最初に相談したのは舜太だったし。それはこれからも変わらないよ」
「だから、そんな顔すんなって」
「……仁ちゃん〜!」
突然、舜太が大げさに机へ突っ伏す。
「…いや、やっぱ俺、キューピットとして有能すぎるかも……!」
「なに急に、あと自分で言うなし」
「だって俺がおらんかったら、まだ二人とも何も進んでへんかったかもしれんやん!」
「それは……まあ、そうかもな」
「ほらぁ!」
嬉しそうに顔を上げる舜太を見て、仁人もつられて笑った。
「……ありがとな、舜太」
「ん?」
「背中押してくれて」
少し照れながら言った仁人に、舜太はにっと笑う。
「どういたしまして。……まあ、これからも何かあったら俺に相談してや?」
「ありがとう」
「ただし!」
舜太が人差し指を立てる。
「惚気話はほどほどにな!」
「……そんなに話すつもりもないけど」
「ほんまか〜?デートとかしちゃって、あとで見せつけてくるとかやめてな!」
「うるさい」
仁人はそう言いながらも、少しだけ嬉しそうに笑っていた。
コメント
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読ませていただきました……すごく、ぐっときました。 仁人の「好き」と「抱いてほしい」が同じ場所にあるって伝えたところとか、ちゃんと誠実さが滲んでて好きです。太智の「襲う」発言から一転、壊れ物みたいに優しく触れるギャップにも胸がときめきました。 それから最後の舜太とのやりとり、「俺の知らん仁人が増えた」って台詞、めちゃくちゃリアルで……友達の複雑な気持ちも描いてあるのがいいなって思いました。 続きが気になります。二人の日常、もっと読みたいです🌷