初投稿である上に、私は普段よりあまり小説を書かない人間でありますので、短い上にあまり上手くはないとは思いますが、暖かい目で見てもらえれば幸いです。
所で私は冷戦を冷たい戦争と表記した人は天才的なセンスを持つと考えます。
注意:この作品に政治的な意図はありません。史実を含んだ一つのフィクションとしてお楽しみ下さい。
薄暗い東ベルリンの空は今日も曇っている。
その中の四角いアパートの一室。冷たい蛍光灯の灯りが散漫する中、東ドイツは自身の机の上で書類の整理を行なっていた。
ふと、顔を上げるととベルリンを二つに分断する壁が見える。その光景に何か心に引っ掛かるものを感じつつも、それを誤魔化す様に再び手を動かす。
作業がひと段落ついた所で、再び視線を壁に移す。毎日見ている光景のはずなのに、今日は妙に落ち着かなかった。
コンコンと扉を叩く音がする。と同時に聞き慣れた声がした。
「入るぞ」
視線を変えずに答える。
「ええ、どうぞ」
そうして入って来たのはソビエト連邦だった。
というのも彼は時折自分の部屋に寄ることがあった。それは大した目的や理由がなく来る時も少なくは無いけれども。
「何を見ているんだ?」
入って来てすぐ、一切視線を外へ移したままの東ドイツに彼はそう問いかけた。
「壁ですよ、ベルリンの壁」
私はそう答えたあと、ようやく体をソ連の方に向ける。
ソ連も自身の机のすぐ隣へ歩いて来た。
「最近は外を見るとどうも落ち着かないのです。集中が切れるから、一日中カーテンを閉めておいた方がいいのでしょうか」
正直いうのも迷ったが、自分の中では一つの悩みの種だったので一応言うことにしたのだが…
「壁の向こう側が気になるのか?」
ソ連は静かに問いかけた。
“そんな筈はない”そう答えろと言わんばかりの冷たくて重い声だった。
「いいえ。ただ….」
何かを言いかけた私の口はそれ以上何も言わなかった。しかし唯一確実である事を確かめる様に、また口を開く。
「私はあなたのものです。ここ以外には在りません」
気づけばそれが、壁を見た時の違和感を全て払拭してしまった様な気がした。
「そうだ、それで良い。お前は俺のものだ。」
ようやく落ち着いた、いつもの声でそう言う。
「そしてお前はあいつでもない。」
またいつもの口癖の様に呟く。お前はかつてのドイツでは無い、自分に従順な新しいドイツであると、言い聞かせる様に。
「勿論…。それで、今日はどの様なご用件で?」
「ただお前が順調か見に来ただけだ。今日は少し疲れている様にも見える。休息も大事だぞ。」
そう言って、少し微笑みながらも私の頭を軽く撫でてくれた。
暖かいのか、冷たいのか。よく分からないけれど、少し嬉しかったのかも知れない。
「また、時間があればこの部屋に寄って来てくれませんか?」
「ああ。勿論、また来よう。」
ソ連と仕事について少し話したあと、ソ連はそう言って静かに部屋を去っていった。
「…….」
再び静寂に包まれた部屋の中で、時計の心音だけが部屋に響いている。
そんな中、壁を見た時の違和感について、東ドイツはなんとなく察しがついていた。
…俺は独りだ。
西側諸国と馴染むことも無く、壁を挟んだ兄弟とは会うことすらも叶わない。
ただ、自分にはソ連しかいない。
自分はソ連から与えられた思想で、経済で、ソ連から与えられた全てで成り立っている。
もう一度小さく呟く。
「私は、あなたのものだ。」
「そして私は、あいつでは無い。」
かつての私。欧州…いや世界中を戦乱と混乱の最中へと導き、最後はベルリンを落とされ自決したナチスドイツ。
それを否定する事だけが自分の存在証明である様な気がする。実際ソ連はきっと…
そこで考えるのをやめた。もしくは考えたく無かったのか。
「はぁ…仕事中に考え事にふけるのは疲れているからなのか、全く。」
さっきから思う様に進まない仕事には軽く苛立ちを覚える。先程のソ連の助言を思い出し、休憩を取ろうと思い立ち上がった、と同時にやはりあの壁が目に映る。
それは間違いなく、この東ベルリンの硬質さと冷たさを象徴していた。私の中にある孤独感を引き立たせながら。
コメント
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なんかスゲェ!こうゆうミステリアス?みたいな小説すきなんです!