「なぁーにが、『俺にはお前を幸せにできる自信が無くなったんだ……』よ! 二股掛けてた相手が妊娠したから別れようって言えば良いじゃない、ねぇ? そう思わない?」
ある金曜日の仕事終わり、駅前の居酒屋で悪態をつきながら、私は同期の一之瀬 丞と飲みに来ていた。
「まあ、そりゃそうだな。しかしお前、二股されてんの知ってて付き合ってた訳?」
「そんな訳無いじゃない? 振られた直後、女の方がSNSで教えてくれたのよ、わざわざね」
「マジか……そりゃまあ、相手の女もスゲェ奴だな」
「何も知らなかったのは私だけ。きっと一緒になって嘲笑ってたに決まってる! あー悔しい!」
私、本條 陽葵はつい先日、付き合ってもうすぐ一年になろうかという彼氏に別れを突き付けられた。
しかも、彼には私の他にも女が居て、相手の女が妊娠。そればかりか実は私の方が浮気相手だったという衝撃的な事実を知ったから驚きと怒りしか無い。
(……気付かなかった私も間抜けだけど)
彼は浮気が上手いのか、全くそんな素振りが無かったのだ。
「あーあ、何で私はいつも捨てられるの? もうこれで何度目になるか……」
テーブルに突っ伏して嘆く私に一之瀬は、「お前、男を見る目無さ過ぎるんじゃねぇの?」なんていいながら、ジョッキに残っていたビールを飲み干していく。
「まあ、否定はしない……けどさ、そんなん、付き合ってみないと分からなくない? だって、初めはみんな優しくて……私の事、大切にしてくれるんだよ?」
そう言いながら過去に付き合ってきた数々の男たちを思い返してみる。
初めて付き合ったのは高校一年生の時で、相手は一学年上の先輩だった。
先輩とは図書委員会で一緒になって、話しているうちに意気投合し、相手から告白されて付き合った。
初めての相手も先輩だった訳だけど、実はそいつはとにかくクズな男で、処女を好んで食う最低男だった。
当然、ヤッたらポイ捨て同然に別れを切り出されて捨てられた。
見た目真面目そうな顔して本当に最低だと思ったけど、事を荒立てても仕方が無いから諦めた。
それから大学に進学して、同級生とか先輩とか、バイト先の後輩とか、四人くらいと付き合ったけれど長続きせず、社会人になって合コンで知り合った年上男とか、年下バンドマンとかとも付き合ったけれどやっぱり上手くいかず、ようやく上手くいきかけていた美容師の元カレとも駄目になった。
「……やっぱり、私に問題あるのかな?」
ここまで誰と付き合っても長続きしないとなると、自分に原因があるのではと不安になった私が一之瀬にそう言葉を投げ掛けると、
「……そうだな……否定はしないかも」
なんて、いつになく真面目な表情を向けながら返してきた。