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かぴばら
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思えばあの時私が、彼が栄光に輝く姿を想起したのにも、それが影響しているのだろう。もはや私はパトロンではなくパペットだ。
「…凄い、ですね」
「あれストレート。イギリスはこういう芸術が好きなんだね」
「どう?僕のことはもっと好きになれた?」
「えぇ…というより、私は貴方に合っているということに気づきましたよ」
私の審美眼がこの絵を捉えたのだとしても、あの景色を思い起こさせたのに彼の力が影響しているとなれば、その後の私の行動はまるで操られたような踏み台に過ぎない。
この先世に出るであろう彼にとって、私は所詮長い長い道のりのタイル一枚と同等なのだ。
この数奇な出会いは、一方的な衝撃のままで静かに終わりを迎えるだろう。
「そう?僕は僕が君にぴったりだと思うけど」
「……私に?」
言われて、伏せていた目をさっと上げた。
「君ってさ、よく僕を見てるじゃない」
「その時、ほとんど僕を見て笑うんだよね。」
笑う…、
彼と出会った広場を思い返す。
最初にお互いが言葉を交わした時、確かに私は彼を見て笑った。
哀れな鑑定士だと自分に対してではなく、彼の絵と問答に対して。
「どうだ?とか、どうする?みたいに、僕を試してる…値踏みしてるような笑顔」
「その顔に僕はいつも応えたくなる。」
「望むところだって思っていざ話してみれば、君があまりに気に入ってくれたものだから、嬉しくって」
知っているフランスと違う、独特な雰囲気だ。
この数日で作り上げた認識と異なる、自信という本質らしきものを抜いたフランス。
街の通りで歌を口ずさんでいた際の表情に似ていて、私が関与していない。
言わば彼、そのもの。
「だから、君の笑顔は、僕を致命的なほどに自信家にさせるんだ。もし僕の自信を好んでくれたとすれば、それは君が引き出したものだよ」
「ね?そう考えると、僕って君にぴったり!」
「お眼鏡にかなえたかな?まあでも君を見れば、僕の一人勝ちみたいだけどね」
カンッ、カラカラ…カラン
窓から途端に激しく風が吹き込んで、落ちた衝撃から筆のガベルが部屋に響いた。
やはり私は、自分の値踏みは得意ではない。
魅了と披瀝。
お互いがお互いに同じく干渉し合っていただけの、平凡で退屈な事実に反して、私たち2人が感じて作り上げたストーリーの何と壮大なことか。
ただの古びたフラットの一室は、もはや一級のオークション会場だ。
参加者も、品物も一つずつ。
品物が求めるのは、そのたった1人からの賞賛と拍手のみ。それは、あの時の私のように。
あとは落札を宣言するだけの…
いわば、一人オークション。
その一瞬に、この場の全員、2人が息を呑む。
なんて楽しいことだろうか!
「___貴方は、」
「フランス、貴方という人は、どうして本当に…」
「私をどこまでも夢中にさせる!」
「好きになったか?お眼鏡にかなったか?そうに決まってるでしょう!あぁ落ち着いていられない」
何の起承転結もない見事な物語。
過大評価ではない。自己以外の値踏みは心得ている。
心が浮ついて、いきなり舞台に引き上げられたような浮遊感を感じさせる。
自分がどんな表情かなんて気にもとめずに思いのまま声を上げてしまった。
平静を取り戻してくると、どこか気恥ずかしくて軽く咳払いをした。
「あはっ!やっぱり君って面白いなあ…」
「それはどうも…貴方のせいというか、おかげというか」
「フフッ」
「すごいね、まだ出会って一月も経ってないんだよ?信じられない」
言いながら横にある椅子に腰を下ろすフランス。
まだ落ち着かない胸を撫で下ろして、つられるように視線をフランスに落とした。
その通りだ。最初にこの絵描きと出会った時から、外は何も変わっていない。
挙げるとすれば、いくつか花が咲いただけ。
ただ、それだけなんだ。
今度はフランスの前に歩み寄って、こんなことを聞いてみる。
「…貴方、ここで何の絵を描いているんです。」
出会った当初と同じ言葉をかけてみると、覚えていたのか、花が咲くようにフランスは笑う。
「不思議だなぁ、全然感じ方が違う」
「それは違うでしょうね」
「私も言っている相手がまるで別人のように思えますから」
「今やオモイビトだもんね?」
「私の恋愛対象は女性なんですがね」
ひどいと笑う彼をみていると安心する。
自分も随分と魅了…いや、絆されたものだ。
最後までこの絵描きから目を離すことができなかった。
まあ、それはきっとフランスもだろう。
同業異種と仮置きした関係性を表す言葉は、もはや見つからない。
友人でも、恋人でも、品物と落札者でもなく、
イギリスとフランス。
例えるならば、探し出されたパズルピースのような、ハマらないはずのない者同士。
そうでしょう。と得意げに笑って見せれば、呼応するように片割れのピースは目を開いた。
「…やっぱりいいね、決めた」
意味を含ませて文字通り一息つくと、フランスははっきりと瞳に私を捉えて溜めた声を吐き出した。
「僕の絵を、売ってみたいんだ」
「…絵を、」
「お金が欲しくないと言ったら嘘になるけど、それに重きを置いてるわけじゃなくてね」
「色んな意味でさ、僕の絵を誰かに受け取って欲しい」
「燻ってたものを、今日晴らせたから。
…君のせいで」
そう言って、穏やかに笑う。
彼もまた画家であり、絵を愛する者の一人だ。
彼が世に出れば、放っておかれることはないだろう。
タイルからしてみればどこか切ないような複雑さに襲われるが、自惚れてみればそんなことはない。
彼の根幹にあるのは私であり、ハマる形も私だけなのだから。
「ま、今すぐ君に売るのはなんだか違うから、まずはサロンに出してみるよ。まだまだ振り出しだ」
「…送り出すような立場から言うのはなんですが、お待ちしてますよ」
「そうして欲しいな。」
「イギリスはもうこれで国に帰るでしょ?」
「そうですが、何故それを?」
「僕だったら最終日にするから。」
「…確かに」
「絶対届けに行くから。 この『スポットライト』を、君に。」
「それ相応の価値で買い取ってよね。イギリス」
「フフッ、そんなに焦らないでください」
「むしろ買い取りに伺いますよ。立派なアトリエを探して」
「それは頑張らないとだな」
「期待していますよ。フランス」
「…約束だよ。その時まで___」
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