コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
俺はカレールウを入れ、とろみが出るまでかき混ぜると、味を確かめる。
いつもと同じ、良い味だ。
俺は大きめの皿にご飯とカレーを盛り付ける。
「麒麟、水とスプーンを出して」
「は~い」
重い腰を上げ、麒麟は最後になって俺を手伝う。
「私も手伝います」
咲は布巾を手にすると、座卓を綺麗に拭いた。そこに、麒麟がスプーンと水を並べていく。
少し前までは、祖父母がいたから食卓は賑やかだったが、今は麒麟と二人きりだ。麒麟が部活で遅くなるときは、一人で食べることも多い。
寂しいと痛感するときは、一人の時ではなく、麒麟と二人でいるとき。あるべき物が無い、大きなピースを失ってしまったかのように、食卓を囲んでいるときが、一番寂しいと感じてしまう。
だが、今日は咲がいるため、賑やかで楽しい食卓だった。
食事を終え、俺がシンクの前に立っていると、咲が来た。
「手伝うこと、ありませんか?」
「ん? 大丈夫だよ。座って休んでいてよ」
「そうですか……」
そう言いながらも、咲は横に立って俺の手元を見ている。
「お兄さん、あの……」
「なに? どうかした?」
何かを言いたそうに、咲はモジモジとしている。
麒麟は、座卓に片肘を突いて、バラエティ番組を見て笑っている。
どうしたのだろうか。麒麟と何かあったのだろうか。
俺は咲が心配になった。
普段から物静かな子だから、もしかすると、活発で豪毅な麒麟に振り回されて困っているのではないか。
「えっと、その……」
皿を洗い終えた俺は、手を拭くと咲に向き直った。
「どうしたの? 麒麟と何かあった?」
麒麟に聞こえないよう、小さな声で尋ねる。
咲はブンブンと首を横に振る。
「違うんです、麒麟のことじゃなくて」
胸に手を当て、咲は深呼吸をする。普段は白い顔が、今はピンク色に染まっている。
「お兄さんを、お兄さんと呼ぶの止めて良いですか?」
「え? 俺の事? 別に、構わないよ」
俺は面食らった。
小さい頃からの付き合いで、咲は俺の事を「お兄さん」と呼んでいたが、確かに、今はもう高校生だ。友人の兄を「お兄さん」と呼ぶことに抵抗があるのだろう。気の優しい咲のことだから、呼び方を変えて俺が気を悪くすると思ったのかも知れない。
「構わないよ。何とでも呼んでよ」
「本当ですか? じゃあ、『白鳳さん』でいいですか?」
「良いよ。あ、じゃあ俺も『咲ちゃん』じゃなくて、『咲さん』の方がいいかな?」
「いえ、お兄、じゃなくて、白鳳さんはそのままで結構ですから」
「そう?」
「はい」
ニコリと、咲は満面の笑みを浮かべた。
「ねえ、二人とも話し終わった?」
いつの間にか、テレビの前から麒麟がキッチンに移動していた。
探るように、麒麟の視線がこちらに注がれる。
「ああ、終わったよ。そろそろ時間だろう? 麒麟、送ってあげなよ」
「うん。分かってる。咲ちゃん、帰ろうか」
「はい。白鳳さん、ご飯ありがとうございました」
腰を折って頭を下げた咲に、俺も笑みを浮かべた。
彼女は本当に良い子だった。見ているだけで、心が癒やされる。
「ニーニ、お風呂入れておいてね。私が先に入るからね!」
そう言い残し、麒麟と咲は出て行った。
言われたとおり、俺は風呂にお湯を張ると自室へ戻った。
暗闇の中、枕元に置かれたタマゴはボンヤリと輝いていた。