コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「そ・・・そのワクチンは・・・安全なのか?まさか・・・この町の住民を実験台に、するなんてことは無いだろうな 」
咄嗟に佐原の頭の中で計算が働いているのだろう、空っぽだと思っていた頭は意外と働くらしい
「もちろんですよ!この町の住民には無料で何回も接種できるようにしますし、もし万が一の事があっても、葬儀場も中国と組んで良い葬儀場を設営するつもりですよ、金のかからない「小さなお葬式」というヤツですね」
だから安心して実験台になって死んでくれ、そう言いかけたが鬼龍院は思い直した
もはや佐原の首のカッターシャツには、汗が滲み出てきている
そしてこの話の落ち着き先は何処だろうと、必死に考えているはずだ
「き・・・貴様は・・・・島の住民を食い物にするつもりかっっ!」
マダムも扇子を口元に持っていき、じっと鬼龍院の表情を伺っている、その目には明らかに恐れが映っている
鬼龍院はいやいやと首を振った
「食い物になんて!まさか!責任や義務というものを私がどんなに、大切に考えているかおわかりですか?、この周防町から素晴らしいウィルス対策ワクチンが、出来上がり多くの人の命が救われるんですよ」
その頃には周防町の住人が三分の一に減ってるがね・・・
そう言いたかったが鬼龍院はなんとかこらえた
この島の住民の5割は老人だ、あとは死んで行くしか価値の無い人間達ばかりだ、それが少しばかり早くなったところで誰が困ると言うのだ
佐原は感情を抑えようとしているが、鼻孔がふくらんで、その周辺の皮膚が引っ張られて青白くなっている
そうとうショックを受けている、自分はなんて事態に加担したのだろうと、後悔しても、もう遅い
「さぁ・・・議長・・・息子さんを取り戻したかったら、あと一仕事してもらいますよ、非常に有力で財力のある支援者達に私を推薦してください、もっとも今のままでも私が議長になりますけどね、私は当選後の事をもう考えているんですよ」
「それが・・・・ 」
今まで空気のように、気配を消していたマダムが口を挟んだ、すっとテーブルに滑り込ませたタブレットを二人に見せる
二人が「何だ?」と覗き込む
しばらく二人がそのタブレッドを見たまま、身動き一つしなくなった
その場の空気が凍り付く、佐原は唖然とした顔でタブレッドを見つめている
マダムはそっと人差し指で、二人が見入っている動画の音量をMAXまで上げた
タブレッドから選挙報道アナウンサー「報道田法堂ほうどうだほうどう」の声が響く
「たった今!選挙管理委員会から、周防町会議長の立候補者が出たと発表されました!」
報道田が叫ぶ
「成宮北斗候補者です!!周防町の北の端にある広大な牧場のオーナー!35歳、無所属です!!」
動画の中の報道田はマイクをきつく握りしめ、目は血走り、唾を飛ばしながら叫んでいる
「これで周防町の議長選挙区は、鬼龍院忠彦候補に続いて成宮北斗候補!!!どうやらこの二人の一騎打ちのようです!!選挙です!!皆様!!選挙が始まりますよ! 」
すると動画のカメラは黒いセダンから降りて来て、兵庫行政評価事務所に入って行こうとする、北斗をとらえていた
ブラックのスーツにブラックのネクタイ、そして髪はオールバックの北斗が、颯爽と評価事務所の入り口に入って行く所を記者団に無理やり止められる
北斗はにこやかに少し戸惑いながら、事務所のエレベータ付近のオレンジ色の、スポットライトの照明の下でピタリと足を止める
前回の放送の鬼龍院が、インタビューを受けた場所と同じ立ち位置だ
あそこの場所なら動画映りが良くスポットライトで輝いて見える
「周防町に在住の皆様のためにも、この選挙戦で勝利に向けて全力を尽くします」
沢山の記者から録音機を向けられる北斗がそう応えた、新人らしく初々しく恥じらっている
「対立相手となった鬼龍院候補のことは、どう感じられていますか?」
北斗は困ったなという表情をして、約1分たっぷり記者たちを引き付けてから、カメラ目線で言った
「鬼龍院候補はとても聡明なお方だと伺っています、この困難な時期に議長に立候補されるのは、とても勇気のいることです、私も彼も正々堂々と選挙戦で戦う良きライバルとなる事でしょう」
報道カメラのフラッシュがバシャバシャ光り、北斗の体が連続写真のように浮かび上がる
北斗が事務所に入って行こうとするのを、さらに記者団が囲もうとした時
「おっと!ここからは関係者以外は、入れませんよ!」
直哉が同じくブラックのスーツに、オールバックで記者団を止める
なぜかヤケに見栄えがする、北斗をもっとハンサムにした、この男を暫くカメラが何者だ?とらえる
首から「成宮北斗選挙事務所委員」と、顔写真入りのIDカードをぶら下げている
女性の報道記者に向かって直哉が映画スターのように、バチンッとウィンクする、女性記者がポッと頬を染めて睫をはためかせる