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「線上の年越し」
1次元の世界は、ただ1本の線でできている。上も下もなく、右か左にしか進めないこの世界では、時間もまたその線上を進むだけだ。この世界に住む者たちは「線民」と呼ばれ、彼らの暮らしもまた単純そのもの。だが、年越しの瞬間だけは特別だった。
「線の端にたどり着くこと」が、この世界における新年の幕開けを意味するのだ。
12月31日、線民たちは一斉に右へ進む。線の端までの距離は毎年異なり、今年は比較的近いと言われていた。だが、1次元の世界では誰も他人を追い越すことができないため、進む速度は一番遅い者に合わせられる。そのため、年越しは全員で達成する共同作業だった。
最前列を歩いていたのは老いた線民の「フレッド」。彼の後ろには、若いエネルギッシュな線民たちが続いている。
「早く進めよ!」
若者の一人が不満げに叫んだ。
「急ぐ必要はない。年越しは全員そろってするものだ。」
フレッドはゆっくりと答えた。
線民たちは、フレッドの歩調に合わせて慎重に足を進めた。途中で転ぶ者もいれば、疲れを訴える者もいたが、誰もが励まし合いながら進む。
やがて夜が更け、遠くに線の端が見え始めた。線民たちは緊張と興奮を隠せない。
「もう少しだ!あと数歩で新しい年が始まる!」
だが、そのとき、列の後方から声が上がった。
「待ってくれ!ついていけない!」
振り返ると、小さな子どもが転んでしまっていた。後ろにいた数人が助け起こそうとするが、全体の進行が止まる。
「どうする?」
若者たちは焦りの表情を浮かべた。
フレッドは深い息をつき、ゆっくりと歩みを止めた。
「全員で年越しをする。それが線民の掟だ。誰か一人でも欠けたら新しい年を迎える意味はない。」
彼の言葉に若者たちは反論できなかった。
全員が再び歩き始めたとき、遠くの空がかすかに明るくなり始めていた。新しい年の兆しだ。
ついに線の端にたどり着いたその瞬間、1次元の世界にまばゆい光が走った。すべてが新たな始まりを告げる音とともに、線民たちは一斉に歓声を上げた。
「明けましておめでとう!」
線民たちは新年を祝福しながら、再び日常の生活に戻っていった。右へ進み続けるその道のりに、今年もまた新たな物語が生まれるだろう。彼らは知っていた。1次元の世界でも、協力と絆が未来を切り開く鍵だということを。
それは、単純な線上に広がる、無限の可能性の物語だった。