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〇繁華街(深夜)
紺のビジネススーツを着て、黒縁眼鏡を掛けた木下梨紗(19)が歩いている。
梨沙は黒髪でストレートのセミロング。年齢より年上に見える。
電柱にもたれて、中年男が泥酔している。
男の隣に座り込む梨紗。
男の身体を優しく揺する。
梨紗「大丈夫ですか? こんな所で寝たら身体に悪いですよ」
男は ぐっすり眠って反応がない。
梨紗「知らんで。ホンマ」
男の上着の内ポケットから、財布を抜き取る梨紗。
すぐに立ち上がり、前と同じ歩調で歩き出す。
交番の前を歩く梨紗。
交番の掲示板に『起こし屋に注意!!』『路上寝窃盗 増加中!!』
と書いたポスターが張られている。
× × ×
車道に面してベンチが並び、酔った会社員がゴロゴロ寝ている。
梨紗「平和やねぇ」
鞄を枕に寝る会社員(30)に近寄り、身体を揺する梨紗。
梨紗「大丈夫ですか?」
警察官「どうかしましたか?」
警察官が怪訝そうに見ている。
梨紗「先輩が酔い潰れて。(会社員に)また奥さんに怒られますよ」
会社員を無理に立たせる。
梨紗「お巡りさんも怒ってますよ。会社に報告されますよ!」
会社員がフラフラ立ち上がる。
会社員「社への報告は、お止め下さい」
梨紗が車道に向いてタクシーを捜す。
会社員「(泥酔状態で)この度、御社にー、大変ー、ご迷惑をー、申し訳ございません」
警察官「(微笑んで)気を付けて下さい」
梨紗「はい、ありがとうございます」
タクシーが止まり、ドアが開く。
後部座席に会社員を押し込める梨紗。
梨紗「どこでした?」
会社員「御影」
梨紗「(ドライバーに)お願いします」
走り出すタクシーに向かって、男物の財布を振る梨紗。
× × ×
辺りを見回す梨沙。
高級ブランドの鞄を投げ出し、大鼾で寝る田辺(43)。
梨紗「大丈夫ですか?」
寝込む田辺の鞄を、梨沙が掴む。
梨紗「え!?」
寝たまま拳銃を持つ田辺。
梨紗の頬に銃口を押し付ける。
梨沙は顔面蒼白で声も出せない。
田辺がムクッと起き上がる。
田辺「ネェちゃん、煙草吸うか?」
拳銃の引金を引く田辺。
銃口から小さな火。
梨紗「ラ、ライター」
田辺「ほんまもんやったら、パクられるやんけ」
梨沙「(声が出ず)……」
田辺「パクられたら終わりや。ネェちゃん、牢屋入ったことあるか?」
梨沙が首を左右に振る
田辺「あそこはアカン。人の入るトコちゃう」
田辺「そやけど、真っ当なコトばっかりしてたら、シャバでも人生つまらんやろ?」
梨沙が首を上下に振る。
田辺「見さしてもろたで――。ネェちゃん、『起こし屋』か」
梨沙の顔を見ながら、
田辺「スーツいうんが賢いな。機転も利くし、見栄えもエエ」
拳銃型のライターで煙草に火を点ける。
田辺「どや、ワシの仕事、手伝わへんか? エエ金になんで」
田辺は、梨紗に名刺を渡して立ち去った。
梨沙は名刺を捨てかけて……、上着のポケットに入れた。
歩き出す梨紗。
獲物の財布を確認する。
キャッシュレス化で〈空の財布〉も多いが、今日は〈あたり〉だ。
万札が2枚も入っていた。足取りが軽い。
街には監視カメラは増えたが、死角は調査済み。
軽やかに歩く梨沙の足が、美容院の前で止まった。
深夜で閉店しているが、オシャレな店だ。
梨沙は(美容師になって こんな店で働きたい)と思っている。
でも、高校中退、住所不定、お金もない。
美容専門学校に3年通い、高等課程を卒業すれば[高校卒業資格]と[美容師試験受験資格]を取得できる。
だが『その日暮らし』の身には、夢のまた夢だ。
梨沙は雑居ビルに入った。
4階に『ネット・カフェ』の看板がある。
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