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ー『帰りたく、ないよ…』琥珀が泣いていた。

『・・・』

明日から、夏休みだ。

だから明日からはしばらく、1人になってしまう。

俺が、

この子を助けたんだ。

だから、

俺が、なんとかしないと。

家に帰っても、誰も歓迎してくれないのなら、

もう、あの家に帰る必要はないだろう。

いっそ、空き家にでもいた方が良いかもしれない。

あの家で、使わせてもらえるものなんてほとんどなかった。

だから、空き家でもたいして変わらない。

逆に、暴力を振るってくる人がいない空き家の方がいいくらいかもしれない。

でも、怖いな。

空き家は、やめとくか…

なら、

『なら、家に帰らなければいいだろ?』

『え?えと、どこに行くの?』

何も言わず、歩く。

たしか、この辺に…

あった。

倉庫だ。

人気の少ない場所にあるこの倉庫なら、

雨風も凌げる。

ここを、拠点にしよう。

『ここに住むの?』

琥珀は、心配そうだった。

最近、人が使っている感じはない。

『まぁ、家代わりににはいいと思う。』

もし何かあれば、他を探せばいい。

『しばらくは、ここにいよう。』

『ここ、暗いよ。怖い…』

琥珀が、抱きついてくる。

『1人じゃないんだし、怖いものなんてないだろ?家にいるよりは全然マシだろ?暗いだけさ。』

明かりになるものなんてない。

でも、家にいるよりは明るく感じた。

家には電気があるのに、闇の中にいるような感覚がしていた。

嫌な思いをすることばかりだった。

『怖いなら、散歩でもしてきたら?外の方が明るいだろう。』

『甘ちゃんもきて。』

『え?』

琥珀に、手を引っ張られる。

倉庫を出て、歩く。

夜に散歩をするのも、いいな。

静かで、誰もいない。

周りを気にせずに歩ける。

『ね、甘ちゃん、』

『ん?』

琥珀に、名前を呼ばれた。

『あの時の、ごめんね。助けてくれてありがとう。』

琥珀が言った。

『助けてなんかない。ただ俺のために、琥珀を苦しませる道へ無理やり行かせてしまっただけだ。そう、逆に苦しませただけだよ。』

助けたかった。

でも、その理由は?

酷いものだ。

『ちゃんと、助けてくれたよ?それに、今は苦しくないよ。甘ちゃんといる時だけ、苦しくないの。』

琥珀は、優しい声で言う。

『俺のために生きてくれって言ったろ?それは、自分のためなんだよ。琥珀のことを考えなきゃいけない時に、自分のことしか考えられなかった。だからこちらこそごめん、琥珀を苦しめることになった。責任なんて取れないのに…』

琥珀のことを考えなきゃいけない時に、自分のことを考えてしまった俺が、最低だと思った。

こんな俺に、琥珀を幸せにすることなんてできないだろう。

『全て口だけで、できもしない。考えもせず、希望を持たせてしまった。ごめん…』

俺は、頭を下げた。

利用、しようとしてるだけ。

最低だな、俺。

自分で自分が醜く見える。

『私には、甘ちゃんがちゃんと守ってくれてたように見えた。最近、学校で暴力を振るわれたこと、減ったの。でも、代わりにいつも、私の前に、傷つけられていく甘ちゃんがいたの。』

琥珀の頬が、線状に光っていた。

『私は、そんな甘ちゃんを見て、助けたいって思ったのに、怖くて助けられなかった。あの時言われる前からそうだった、ちゃんと守ってくれてた…』

気づいてたんだな。

『琥珀の身体中にあった傷を見た時、俺はまだまだ大したことなかったんだって思ったんだ。だから琥珀に、これ以上傷ついて欲しくなかった。だから守ったんだ。でも…』

『私は、それがすごく嬉しかったよ?でももう、甘ちゃんに傷ついて欲しくないの。私のことはいいから、自分を大切にして?』

『でも、それは…』

『ほんとはね?あの時のは、甘ちゃんに迷惑かけたくなかったからなんだよ?ずっと、私のために苦しんでたから…全部、私のせいだから…』

それはどういうことだよ…

そんなことは…

『甘ちゃんに傷ついてほしくなかったから、私がいなくなればいいんだって…』

『黙れ。』

そんなこと、聞きたくない。

『だから、私がしんじゃえば…』

『黙れよ‼︎』

俺は、大声で言った。

『俺が苦しんだのは‼︎全部アイツらのせいだ‼︎お前が苦しんだのも‼︎全部‼︎アイツらのせいなんだよぉっ‼︎』

『甘ちゃん…?』

『そしてぇっ‼︎…おれの…せい…なんだ………』

俺は、地面に膝をつけ、地面を見た。

同じ人狼で、同じ苦しみを知っていて、助けたいと思っていたのに、

俺が苦しめてしまった。

『そうだね。』

琥珀が、俺の前にしゃがんだ。

『でもね、最後のは絶対に違うよ?甘ちゃんは、最初は冷たかったけど、本当は優しくて、守ってくれて、助けてくれた。そんな人、他にはいないんだよ?本当のパパとママくらいしか、そんな人はいかったよ…』

琥珀の手が、僕の髪を揺らした。

優しく。

頭を撫でてくれた。

『一緒に、幸せになろ?』

『っ…ううっ…』

涙が止まらない。

『帰ろ?あの倉庫に。』

俺は立ち上がり、歩く。

本当に優しくしてくれるのは、本当の親だけだと思っていた。

でも、この子も優しいんだ。

人狼が、他にもいるということも、

優しくしてくれる人が、いることも、

初めて知った。

人狼同士だからこそ、分かり合えるのかもしれない。

琥珀なら、信じられる。

守ってあげたい。

傷ついて欲しくない。

助けたい。

手放したくない。

なくしたくない。

俺にとって、この世界は闇だ。

でも、琥珀さんは、

そんな闇を照らす光。

まだ、小さくても、

眩しいくらい光っている。

もう、暗くなんてない。ー

嘘をつかない人狼 (狼は寂し くならないように、夜空を見上げる)第3章

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