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睡蓮
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#異能力バトル
名無の男2
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水瀬葵
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異世界なんて言葉は、ファンタジー好きかサブカルオタクでもなければ先ず日常の中で取り扱う機会はない。
だから、普通に考えて「お前を異世界に送る」だなんて言われて理解ができるわけがないんだ。
異世界って、なんだよ?
みんな知ってて当然だよねって風に語るなよ、そんな不可思議なもんを……!
「誤解を避けるために念押しさせていただきますが、私は貴方の審判人、最終試験官でございます。 故に、今この場で私が貴方を騙して命を狙とうなどとは考えていないことを信用いただけませんでしょうか? 亡くなってしまっては、試験など出来ませんから……」
「信用? できるかよ! 異世界とかワケわかんねーハナシを持ってこられて、はいわかりましたって納得できるか!」
「貴方の命を狙っているのなら、それこそ妹御を誘拐する必要なんてなかったはずです。 遠回りでリスクのある手段を選ぶなんて、あまり賢明ではございませんよね? 信じてください、私は貴方を異世界に送り、そこから生きて帰ってこれるのかどうかを試す、ただの試験官なのですよ」
「でも、そんなの……! 信用できるワケねえだろうが!」
「……そうですか。 では仕方がありません、信用いただかなくても、信用するしかない展開を作らせていただきますよ……♡」
不敵な言葉尻に被せて、マリアの下腹部に膨らむ目玉から粘着質な音が発せられる。
黒目の奥から真っ黒な長尺の銃が生えてきて、それが引き抜かれると、銃口は礼拝の十字架に向けられた。
恐らく狙いはその中心、縛り付けられた女生徒。
「やめろっ!!」
「『最悪の奇跡』」
そして無慈悲に、発射された。
弾丸は目にも留まらぬ速さで理紗の胸部に着弾し、野蛮な残響が礼拝堂に木霊した。
「……彼女は、死にました。 しかし、好機が訪れます。 さあ、見ていてください……♡」
弾丸を受けたらしい黒い穴はあるというのに、 傷口から血が流れない。
不思議がっていると、それよりずっと不思議な異常が起きた。
理紗の背後に青黒い割れ目が開き、十字架の上半と共に落下したのだ。
「割れ目の向こうは異世界です。 彼女がご心配なら、貴方も後を追うしかありませんね?」
「お前どうして理紗を撃った!? なんで殺した!!」
「ふふ、確かに私は彼女を殺めましたが、罪悪感はございません。 彼女には『転生』の機会が与えられるのですから……♡」
割れ目の向こうに、無数の魔法陣みたいな図形や読めない文字が飛び交っているのが垣間見える。その先に、白い光が輝いている。
「私の『SL』で創られた異世界には、昨今の娯楽小説やアニメーションで形作られました固定概念通りの、世間一般の皆様が想像されます様な、剣と魔法の中世時代的な世界が広がっております。 そこから脱出し、この現実世界へ帰還することが叶えば、それは奇跡と言えるでしょう。 奇跡の報酬は『転生』。 死すら跳ね除け、新たなる命と共に一握りの栄光が与えられるのです!」
つまり……、こういうことか?
その異世界ってのから現実に戻ってこれたら、殺された理紗は蘇るし、オレは試験に合格したってことで『少数派』から強引な監視を受けたり殺されかけたりしなくなるってことか?
最終試験とまで言うんだから、そうじゃなきゃおかしいだろ?
「神無月煌さん。 お分かりでしょうけれど、貴方の大切な妹御はとても弱い……。 きっと一人では魔物の餌にされてしまうことでしょう。 もしくは、賊や悪漢に慰みものにされてしまうかもしれません。 彼女を救うためには――――、」
「ああもう分かったって! 下衆め……。 オレが異世界に行って、テメェの言う通りそっから出てこれりゃあ良いんだろ? ……乗ってやるよ、ワケわかんねえ世界にでも何にでも行ってやる。 だから約束しろよ、オレが試験に合格したら、もう妹には手を出すな。 オレの周囲の人には手を出すな!! 『少数派』の代表として来たんだろ? 約束しろ!!」
マリアはオレの覚悟を見定めるみたいにこちらを見つめてきた。
当然、覚悟なんて決まってねえ。
てか、覚悟の仕様がねえよ。
異世界ってもんがどんなモンなのか分かってねえし、どうすりゃあそっから出られるかも分からねえ。
それでも、もう選択肢はない。
何より理紗が心配で仕方がない。
今すぐあの異世界の割れ目に突っ込んでってでも、安否を知りたい。
「……いい目ですね。 ではお送り致しましょう、夢と希望、奇跡の溢れる異世界へ!」
マリアの黒いマスケット銃が向けられる。
どこかで虚を衝いて一気に近付き、仮面を剥がすことができればディオの時みたいに能力を解除させられるかもしれないとも考えたが、そんな隙は見当たらない。
何より、異世界ってとこに落とされちまった理紗がマリアの仮面の解除で帰ってくる保証がない。
結局のところオレには……、最初から反抗なんて何にも出来なかった。選択肢すらなかった。
全てはマリアと、『少数派』の手のひらの上で踊らされているんだ。
「『最悪の奇跡』」
直後、後ろに吹き飛ぶほどの衝撃が胸部に突き刺さった。
歪んだ重力が全身を押し付けてくるのを感じて、自分が青黒い割れ目の中に背中から飲まれ、落ちているのが分かった。
不思議と痛みはなく、重力落下への恐怖もない。
その代わりに、図書室で特に理由もなく雑食的に手に取った一冊のライトノベルの物語の回想が頭をよぎった。
主人公は冴えない普通の男子学生。
イジメに合っていたとまでは言えないレベルだが、クラスでは恣意的に無視されるような存在で、常に影に潜み、スクールカーストも最下位またはランク外の落ちこぼれ。これといった特技もなく、特筆点なしの才能なし。
それでも心では「僕だって」と唇を噛む彼が、ある日の登校中に居眠り運転のトラックに轢かれかけた美少女をかばって死んでしまう。
痛みの中、女神を名乗る謎の存在に特殊能力を与えられ……、主人公が目を覚ましたのは病院のベッドではなく、剣と魔法の世界だった。
死んだはずの彼は女神から与えられた、チート級に強いがピーキーな性能を持つ唯一無二の特殊能力を活用して、異世界で無双しハーレムを築いていく……、なんてあらすじだったか。
「――――煌。 神無月、煌よ」
理紗が誘拐されて、救いてえなら異世界に行けなんてワケわかんねえこと言われて。何もかも急展開で……、ワケわかんねえまま殺されて……、
「こちらを向きなさい、私を見るのです」
これじゃあまるで、本当に……、あのライトノベルで読んだベタベタの転生モノのお約束みてえじゃねえか。
「さあ、私の、この美しい女神としての姿を!」
落下の中で身を翻して見た先にいたのは、空間にはっきりとした存在感として浮かぶ、菌類に寄生繁殖された穢れし女神を模した巨大な銅像。
「……自由の、女神?」
しかしそれは女神と呼ぶにはあまりにも醜悪だった。肌の代わりに藻が広がり、血管の代わりに枯れた植物の根が伸び、荒廃している。
背後にアーティファクト地味た転輪こそ回っているものの……、何者にも整備されず、何者にも崇められず、放棄され続けた古代遺産のようにも捉えられるビジュアルだった。
「私は女神、マリア。 貴方のように未来有望な死者に生還の好機を与える、希望の橋立です。 これより、『選ばれし者』への導きの儀を取り扱います……」
マリアの背後でゆっくりと回転していた転輪が、ガコリと音をたてて動きを止める。
「貴方がこれより向かわれます異世界には、度重なる苦難が待ち受けております。 そしてその最奥には悪の限りを尽くす魔王ジャギゼロと、その者が指揮する魔王軍が世界征服を目論んでいる。 貴方には、その魔王を倒し、世界を救う使命が与えられます。 それは容易なことではございません。 ですが、もしジャギゼロを退けたその暁には、妹御と共に現実世界へ帰還する出口となる『窓』が開くでしょう!」
「……魔王を倒せ? 随分と安っぽい目標だな」
「そう息巻いていられるのも今の内ですよ、あの者はこれまでに立ち向かった『選ばれし者』を全て葬ってきた、歴戦の戦王。 その周囲には、六柱と呼ばれる魔王軍の将校が待っています。 無謀では傷つけることすら敵いはしないでしょう」
他の『選ばれし者』?
それがマリアの顕現を受けて異世界に飛ばされた奴のことを指している言葉なら……、まさかこいつ、オレと理紗以外にも現実世界から異世界へ、誰か人間を送り込んだことがあるっていうのか?
「しかし、そのような戦乱の釜底へ無力な貴方を黙ってお送りすることは無慈悲というもの……。 ですから、今回は特例措置として……、女神の顕現の力を使い、貴方の望む力を一つだけ与えてあげましょう」
……マリアは言っていた。
『SL』で創られた異世界には、昨今の娯楽小説やアニメーションで形作られた固定概念みたいな剣と魔法の世界が広がっていると。
こいつの顕現がそういう、所謂『転生モノ』の世界を再現し、自身を女神役として世界の神に仕立て上げる能力だとしたら。
オレの役目は女神に導かれる『転生者』。現実世界で死んで、異世界に送られちまった特筆なしの冴えない男子学生ってことかよ?
「さあ、如何様な力を何を望まれますか? 慎重に考えた方がよろしいでしょう、魔王を倒し、世界を救い、愛しの妹御を助けるために必要な力を考案しなさい。 強力で、異常で、即効で、弱みなく、応用が効き、壊れていて、チートで、インフレーションした力を思い付くのです! 死に戻りの力? 何でも吸収する盾の力? 魔物の血を吸い進化するアンデッドの力? アイテムを鑑定する力? 存在しないはずのアイテムを生み出す錬成の力? スマートフォンを持ち込む力? 法律を持ち込む力? 自分だけレベルアップする力? 何でも捕食するスライムの力? 醜悪な容姿を代償に最強の魔法を扱う力? レベル上限を取り払う力? 無限にチュートリアル報酬を貰える力? 究極の自動回復を常時発動する力? 好きな物品を貯蔵できるアイテムボックスを開く力? ネットスーパーに接続する力? 薬学を極める力? 時間を操る力? さあ、望みなさい。 さすれば与えましょう!」
……死んでしまった主人公の前に唐突に現れ、雑な説明で風呂敷を広げて、どうしてか急に加護を与える。『転生モノ』の冒頭に挿入されるお約束。
それを再現するのがマリアの言う導きの儀ってやつなら。
オレはこんな奴の思い通りにさせねえ。
少しでも反抗して、反逆して、こいつが想像してる『転生モノ』のテンプレ展開みたいな導線をぶっ壊してやる……!
「……必要ねえ。 お前から貰う力なんてたったのひとつも要らねえ! オレはオレの力で、理紗を取り戻す!」
「――――ふふ、ふふふふふふ。 意外なご返答でした、必要ないとは。 しかし、何の力も持たず、武器も持たない空手では、魔王を討つ素質を持っていようと、何年、何十年、何百何万何億年かかることか。 これは見物、ですね。 世界各地に点在します大聖堂の女神像に泣いて祈れば、力の再付与《リロール》をしてあげますよ。 私の機嫌が良ければ、の話ですけれど、ね……♡」
すると、転輪が急速に回転を初め、マリア像が発光すると同時に、オレの胸に痛みが走った。
「では往きなさい、『選ばれし者』よ。 世界を救うのです!」
その声が空間を乱反射してすぐに落下が加速し、白い果てに向かって身体が飛び込んでいく。
スポーツカーの背にロープで張り付けにされたみたいに、身動きの取れない身体が超速の中を直進していく。
光の点がもうすぐそこにと思った次の瞬間にはもう、全てが、白飛びしていた。
オレは、異世界に、落ちた。
コメント
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第111話、ついに異世界転生か…! でも主人公が「お前の力なんていらねえ」って啖呵切るところ、めちゃくちゃ痺れたわ。テンプレ転生モノを逆手に取って、与えられる力を拒否するスタイル、好きすぎる。マリアの不気味な魅力もヤバいし、「転生モノのお約束」を自覚しながらも抗おうとする姿勢が熱い。素手でどう戦うのか、めっちゃ気になる🔥