「う~ん、困ったなどうして死ねないのだろう」
太宰は表情ひとつ変えずに頭を搔いた。
__“しゅっぱい”は
何時ものことだからだろう。
然し、首吊り、入水に身投げ等あらゆる自殺
方法を試しては失敗を繰り返してきた
流石の太宰も”自殺願望”とは
裏腹に己の生命力の強さを自負していた。
此処まで来ると生命力とは全く別物の様な
奇妙ささえ感じるなあ、なんてことを思いつつ
先程入水し損ねた川の横で目を瞑った。
______『……ぬな』『 死ぬな太宰。』
『 生きることを放棄するな。人は自分を救済
する為に生きてるんだ。だから死ぬな。』
、懐かしい声が何処からか聞こえてくる。
ずっと聞きたかった声の様な気がする。
「…!そうだ。君は織田作だろう……?
もう一度話そうじゃないか…!!
あれから沢山のことがあったんだよ!
君の示した通り人を救って…………織田作?」
__返事はない。
太宰が縋るように放った言葉は虚空を掴んだ。
____瞬きをした次の瞬間の眼は既に違う場所を
映しており、其処はもといた川の横にある
畔道だった。
目線を移すと、天色の明るい表情をしていた
空はいつしか茜色に変わっている。
どうやら眠っていたようだ。
太宰は何かを思い出したように起き上がり
ふふ、と優しく微笑んだかと思うと少し濡れた
髪をくしゃ、と掴んで俯いた。
「生きろ、なんて無責任な言葉__死んだ人に
言われたってこれっぽっちも説得力が無いよ、」
今にも沈みそうな夕日と川の流れる音が
その男の細い本音を飲み込んだ。
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