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“Barマスカレイドの歌姫[ディーバ]”━━━━。 それはこの街に棲む女の子なら誰でも1度は夢に見る憧れの存在。見習いスタッフであるアリシアも歌姫に憧れている女性の1人だった。幼少期に“Barマスカレイド”ここへ引き取られ、ずっと近くで観てきた歌姫リリアン。初めて彼女の舞台を観たとき、幼いながらもこんな風に舞台に立ちたい…!と感じたのだ。そして彼女にはもう1つ、歌姫になるという願いを叶えたい理由があった。それは、
「お待たせ致しました。ウィスキーのロックとカクテルです。」
「あぁ、ありがとう」
「ルイスさん、次こっちの配膳お願いします!」
「わかりました。」
そう返事をして忙しそうにカウンターと客席を歩き回るのは、アリシアの幼なじみで同じくスタッフのルイスだ。アリシアの歌姫という夢はこのルイスが関係していた。
「ねぇ、もし私が歌姫として舞台に立てるその日が来たら貴方の前で、“チェルシー”って名前で歌わせて。」
幼少期のある日、突然やってきた彼のことが知りたくて、後をつけてたどり着いたのは大きな桜の木。その日から少しずつ、彼と仲良くなってお茶会をしたりお昼寝をしたりした。そんな日常も、突然来た嵐に桜の木と共に消しさられたあの日。関わりが無くなってしまうのが怖くて、彼をいつも通りお茶会に誘って。
切られて無造作に整えられた桜の木の上にハタキをもって立って。
「アリシア?」
「ねぇ、ルイス。私夢ができたの!」
「夢?」
「そう!それはね、」
貴方の前で、歌姫として歌いたい。そんな夢をルイスは優しく微笑みながらきっとなれるよ。と応援してくれたのだ。
そんな幼少期の約束を叶えるためにアリシアは今までに沢山練習をして今日この日を迎えたのだ。
今日は、“Barマスカレイドの歌姫”リリアンの引退ステージ。そして、彼女に続いて花を咲かせる歌姫の発表の日だった。
「皆さん、今日は私の引退ステージに足を運んでくれてありがとう。今日まで親友たちと造りあげたこのマスカレイドの舞台で、沢山歌ってこられたことを私は誇りに思っている。それでは、このBarマスカレイドで私に継いで花を咲かせる歌姫[ディーバ]を発表する。」
ずっと夢に見た、「Barマスカレイドの歌姫」。
その辺の歌劇団や、舞台なんかじゃあダメ。
ここで咲かなきゃ意味がない。だって私には、絶対に叶えたい“夢”があるから。それはここでしか叶えられないもの。
貴方がバーテンダーをしている、この店じゃなきゃ。
そんなことを考えていたアリシアをリリアンを照らしていたはずの舞台ライトが照らした。
「……アリシア!」
「…!!!」
「さぁ、舞台[こちら]に。」
リリアンがこちらにと隣を指す仕草をする。それとほぼ同時に周りにいた同期たちもアリシアの背中を押した。
「おめでとう!ほら、いっておいで!」
「はやくはやく!!」
喝采の中、恥じらいながらも舞台へ上がる。
「おめでとう、アリシア。今までよく頑張った。次は君がこの舞台に花を咲かせてくれ。」
「…はい!」
再び起こる大喝采のなか、アリシアが下げた頭にはリリアンからBarマスカレイドの歌姫である証のティアラが贈られた。
「なんで雑花[アノコ]が歌姫に……!!!」
そんなリリアンの発表を快く思わない、一輪の花がいるとも知らずに。
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