やっと描き終わったんですが罪悪感が凄まじいです。なんで同じ日にほのぼのと不穏書いてんだろ。
布団の上に絡まる手と手。
乱れた枕元に、どちらのものとも知れない汗がシミを作る。
湿った空気の中、部屋の隅で回る扇風機だけが風を素肌に送り込んでいた。
仰向けになったまま、もう何も感じたくなくて目を瞑る。
「……日本………どうした?」
低く掠れた陸兄さんの声が耳元に落ちる。
答えたくなかった。
口を開けば、喉奥からあの気色の悪い声が出てしまうとわかっていたから。
まぶたをおろした暗闇の中、ふと優しい感触が伝わる。
妙に甘い、だからこそ残酷な手つきで頭を撫でられている。
「気持ち悪いか?」
何か返さなければ。
脳の奥で警鐘が鳴る。
この人の全てを肯定する言葉を紡がなければ。
問いの形を借りたそんな台詞に、粟気立つお腹の奥を必死に押さえながら口を動かした。
「……ぃ゛え………。」
「そうか。」
言わされていることが明白な所か、こう返すよう刷り込んだ本人のくせに、それだけで口角を持ち上げてみせられた。
「じゃあ、もう少し頑張れるな?」
答える代わりに、全てに拒もうとぎゅっ、と目を瞑る。
先程よりも激しくなった水音と律動に、終わりを願いながら必死に耐える。
朝が降りてくる頃、ようやく彼は離してくれた。
クラッシュする視界に満足そうに笑う彼の、奇妙な形に歪められた唇が妙に鮮やかに映っていた。
***
布団を跳ね除けた手が震えている。
パジャマにしてあるTシャツが、背に張り付いて気持ち悪い。
激しくなる動悸と止まらない冷や汗に、またあの夢を見たのだと悟った。
「……陸兄…………。」
時に甘く、時に暴力的に歪んだ愛を注がれた相手。
僕の、実の兄。
気持ち悪いと思った。拒絶もした。何度も泣いた。
けれど、それでも身体が求めてしまう。
気が狂いそうな後悔と自己嫌悪さえ、生活の一部になってしまうほどに。
彼が死んで何十年と経った今でさえ、夢に見るほどに。
***
寝苦しい夜が続いているせいだろうか。
最近、やけにあの夢を見てしまう。
しかもそれで跳ね起きるせいで、極端に睡眠時間が減っている。
そんな状況で飲み会なんぞ出たのが悪かったんだろう。
僕は無事、アルコールでハイになったように逆流する胃液を吐き出すという醜態を晒していた。
「日本、大丈夫か?」
そんな言葉が耳に触れる。
舌の根の動くままに適当な返事をすると、何やら心配そうに背中をさすられた。
「ゆっくり息しろよ。」
少し掠れた低い声に、背に温かく触れる骨ばった手。
何故だか酷く懐かしいもののように思えて、ぼんやりする頭で記憶を掘り返した。
あぁ、そうだ。
兄さんだ。
吐き気がおさまったので便器から顔を上げる。
「立てそうならタクシー呼ぶぞ。」
壁に手をついて何とか立ち上がる。
謝意を述べようにも、えづいて霞んだ目では誰なのやら判断がつかない。
だからこそ、こんなに心を揺さぶられているのだろう。
彼によく似た誰かは、肩を組んで店の外まで引きずってくれた。
突然感じた眩い光にまぶたを開くと、タクシーの中に押し込められる。
また、いなくなる。
そんな得体の知れない恐怖に突き動かされて、ドアを閉めようとする手を掴んだ。
逃げないで。離れないで。
あなただけ忘れるだなんて。
驚いたように固まる顔に、とびきりの笑顔でささやく。
「あなたも、いっしょに。」
***
暗い照明、うざったい蒸し暑さ。
どこかデジャブを感じる光景の中、あの日と同じ行為に溺れる。
舌に絡むようなねっとりとした甘い声。
背骨を駆け上がる快楽に震える腰。
「ね………もっかい……」
甘ったるい声でそう言って、腰をくねらせながら手を伸ばす。
すぐに次の快楽が身を突き抜けた。
こうやって乱れて欲しいんでしょう?
こうやって甘えて欲しいんでしょう?
反吐が出そうなほどに甘く甘く、媚びるように縋る。
目を瞑れば、あの人に触れられているような心地になるから。
果てれば、霞んだ視界の奥であの人が笑っているような心地になるから。
私が望むのは、私を望んでくれるのは、あなただけだから。
刷り込まれたこの事実だけは、一生消えてくれそうにないから。
だから今日も、僕は笑う。
あの人に教えられた笑顔で。あの人の好きだった笑顔で。
こうすれば、ずっとずぅっと一緒でしょう?
ね、兄さん。
(終)
コメント
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うわぁぁぁあちょうど、 「あー日帝日の不穏系読みたいわー」 って考えていたところだったんですぅぅうナイスタイミングだッツ! …え、にわかさん、私の心読んでます、?(???)