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「かんぱーい!」
思いのほか高額だった優勝賞金を手にした俺達は観戦していたジェリアも誘って酒場で祝勝会を開いた。
こんな贅沢はここにきて初めてだ。だが酒はほどほどにしておこう。この世界の酒場には飲み放題とかは絶対ないからな、多分。
「私、まだ信じられないです。一匹しか魔物を仲間にできなかったあの私達が、大会で優勝までして……うぅ、グスッ」
開始早々感極まったコルリスが泣き出した。この子も俺が弱いせいで色々と辛い思いをしてきたのだろう。
その隣ではプチ男とルーが黙々と食べ続けている。凄まじい食いっぷりだ。彼らの前に運ばれた料理は一瞬にして一枚の皿へと変わってゆく。
「確かに私もあの試合、正直勝てると思わなかったわ。クボタさん才能あるわよ。」
褒めてくれるのは嬉しいが……ジェリアは視線をプチ男から離そうとしない。やはりついてきたのはこいつが目当てだったようだ。
「いや、俺が勝てたのはルーの頑張りとトーバスさんのアドバイスがあったからで……」
「いやいや!それもあるでしょうけどクボタさんがルーちゃんをここまで育て上げたから優勝できたんですよ!もっと自信持ってください!」
俺の言葉を遮ったコルリスが肩をバシバシと叩いてくる。彼女は酒を飲んでいないはずなのだが今の絡み方は酔っ払いのそれと非常に良く似ていた。
「ん?クボタ?」
「クボタってあの?」
するとコルリスの声がデカすぎたのか、周囲の人々の視線が俺達のテーブルに集中した。
それを皮切りに酒場は静寂に満たされてゆく。なんなんだ?俺か俺以外のクボタさんが何かしてしまったのか?
「君って……あのクボタ?」
その静寂を断ち切って俺に話しかけてきたのは隣のテーブルにいたおっちゃんだった。
しかしこの人も皆と同じである。人に名前を聞く時はまず自分から、そしてそれよりも前に『あのクボタ』とはどのクボタなのかを説明するのが常識だと親に教わらなかったのだろうか。
「ええと、あの……」
「ええそうよ。この人が〝あの〟クボタよ。」
俺よりも先におっちゃんに返答したのはジェリアだった。しかも勝手に。
「ちょっとジェリアちゃん!人違いだったらどうするんだよ。」
「安心して。そもそもこの国にクボタさんは貴方しかいないわ。」
あ、そうなんだ。
「おお!君がクボタなのか!あの試合は見事だったよ!」
おっちゃんがそういった途端、俺達はそれを聞いていた群衆にもみくちゃにされた。
「こんな小さなトロールがあんなのに勝ったのね!しかもカワイイ!」
「このプチスライムもミドルスライム相手に勝利した奴らしいぞ!」
「なあなあ、あの凄い技俺の魔物にも教えてやってくれよ!」
どうやら酒場にはあの試合を観戦していた者達が大勢いたようだ。嬉しくもあるが……ここまで注目されると恥ずかしさが勝ってしまう。
そうして照れた俺が何もいえずにいると、人と人の間からさっきのおっちゃんが顔を出してこういった。
「ところでクボタさんよ。試合を見てからずっと気になってたんだが、なんでアンタの魔物はそんなに利口なんだい?トロールのお嬢ちゃんは完璧なほどアンタの指示通りに動いてたし、噂じゃそこにいるプチスライムまでそんな感じらしいじゃないか。」
「それは、う〜ん」
そんな事考えた事もなかった。もしそうなのであれば俺が聞きたいくらいだ。
「私もそれ気になる。」
ジェリアがおっちゃんと一緒になって俺を見つめてくる。そういえば彼女にも似たような事を過去にいわれた気がする。
「……実は私も気になってました!クボタさんと一緒にいる時のルーちゃんはまるで言葉が通じてるみたいに物覚えがいいし、プチ男君なんか頷いたりするじゃないですか!どうしてなんですかクボタさん!?勿体ぶってないで教えてください!」
今度は酔っ払いモード(仮)のコルリスまでが彼らに加勢し、俺を射抜くように見つめる目玉は六つとなった。
初めて出会った時、コルリスが魔物使いには二種類のタイプがあり、俺にはその両方の素質があるかもしれないと教えてくれたが…彼女が俺に疑問を投げかけてくるという事は今回の件は『二つの素質があるから』では説明がつかないのだろう。
じゃあ、俺に…………
「俺に……俺に分かるわけないじゃないかぁぁぁ!」
俺はテーブルを囲んでいる群衆という名の荒波を掻き分け、ひとまずはその場をやり過ごした。