テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「はい。Siip様」
僕はいつものように、顔の見えない黒いフードの奥で震えそうになる声を必死に押し殺して返事をした。
窓の外は、さっきまでの激しい大雨が嘘のように、綺麗に晴れ渡った青空が広がっている。
Siip様の歌声が、また1人の人間を救った証拠だ。けれど、嬉しそうに微笑むSiip様の白い袖から覗く手は、さっきよりも、さらにうっすらと透明に透けてしまっていた。
Siip様が人間を救って幸せを届けるたびに、その恐ろしい
『幸せの代償』
として、Siip様の存在が世界から消えていく。
『……Lamb、あったかいお茶、のみたい』
「……分かりました。すぐにご用意しますね、Siip様」
僕は一瞬だけ、透明になりかけたSiip様の右手をじっと見つめ、それから、溢れそうになる涙を隠すように、静かにキッチンへと向かった。
お湯を沸かし、お茶を淹れる僕の指先は、大好きなSiip様を失う恐怖で、ガタガタと小さく震えていた。
(嫌だ……。これ以上、Siip様に消えてほしくない……)
お茶の入ったカップを持って部屋に戻ると、Siip様は開け放たれた窓の前に座って、静かに外を眺めていた。
「お待たせいたしました、Siip様」『……ありがと、Lamb』
手渡したカップを、Siip様は両手で包み込むように持つ。その手すら、いつか掴めなくなってしまうのではないかと、胸が締め付けられる。
『……Lamb』
「はい、何でしょうか。Siip様」
『……そんなに、かなしい顔しないで』Siip様は、黒いフードを深く被った僕の顔を見つめ、透明になりかけた綺麗な手で、僕の頭を優しく撫でてくれた。
『……ぼくは、まだここにいるからね』そう言って、どこか儚く微笑むSiip様。自分の消滅よりも僕の心配をしてくれる、その優しさが、今の僕には何よりも切なくて怖かった。
その時だった。
ビシャシャシャシャ……!
突然、せっかく晴れていた窓の外の天気が急転し、今まで以上の、激しい豪雨が屋敷の屋根を叩き始めた。
それと同時に、部屋の空気が、肌を刺すような冷たい『絶望の気配』で満たされていく。
前の比ではない。今度は、世界がひっくり返るほどの、もの凄く大きくて深い闇の訪れ。Siip様の透明な身体が、ピクリと強張る。
「……Siip様、まさか……」
嫌だ。もう歌わないでくれ。これ以上消えないでくれ。主を失う恐怖で、Lambの身体はガタガタと震えが止まらなかった。
『みんなを救うには僕が犠牲になっても』
ここまで見ていただきありがとうございます!
ぜひコメントしてください!
欲を言えばフォローもお願いします!
#藤澤涼架
キヲヌイテ。
78
ダイヤの剣
358
コメント
1件
第3話、めっちゃ沁みた…😭💕 雨が止んで晴れた後の、またの豪雨——絶望の気配が来るたびにSiip様が消えていく設定、もう心臓ぎゅーってなる…! 「そんなに悲しい顔しないで」って、自分の消滅よりLambを気遣うSiip様の優しさが切なすぎるよ…。 最後の「みんなを救うには僕が犠牲になっても」、この続きが気になりすぎてソワソワ止まらない!! 波野さん、今日も胸に刺さるお話ありがとうございます🌸 (フォローはできないけど、コメントで全力応援してるよ〜!🌟)