奇病集
01.嘘つき病。
※結構長いです
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六兄弟 橙主人公
紫 長男 社会人
赤 次男 大学生
桃 三男 大学生
青 四男 高校生
黄 五男 高校生
橙 六男 中学生
橙「おはよ……」
紫「おはよう橙くん!相変わらず朝弱いね笑」
橙「弱くないもん……」
紫「今日もみんなバイトあって、俺帰るの遅いから夕飯準備しておくね」
橙「…うん」
紫「もー、しょんぼりしないで!笑今日も学校頑張ってね!行ってきます!」
橙「行ってらっしゃい」
紫にいが出たあとの静かな部屋。なんだか怖くて身震いをしてしまった。俺は見た通りのほったらかされてる子で、なんとも末っ子とは言い難い。
今ではバイトをするぐらい元気な黄にいだけど、前まで体が弱くて、寝たきりで。俺になんて構って貰えなくてやっとの日々を送っている。
でも俺はおねだりの仕方とかあんまり分かんなくて、結局ぼっち。家族なのに各々の生活を送ってる。
橙「ご飯、食べなきゃかな」
重い体を起こして何とか部屋から出る。俺の体がこんなに重いのは、きっとかまって欲しいだけじゃない。
学校が怖いんだ。
ー教室
モブ「今日もあいつぼっちだ笑」
モブ「いっつも1人だよなw」
橙「…………………」
どこでも俺は1人。それが気に食わない人がいて、たまに悪口を言われる。全部聞こえてるけど。
モブ「今日お前放課後来いよ」
橙「っお、俺ですか…?」
モブ「お前しかいねーだろ!w」
橙「わかりました…」
全部、わかってるけど。
ー放課後
ドゴッバンッ、ドン!!!
橙「ゔあっ…」
モブ「声出すなよきもいな!!!」
橙「……………… 」
痛いのは、いつも耐えてる。ずっと。
モブ「っま、今日はひと味違うのやるか」
橙「…?」
ゴッ!!!
モブ「っ……」
モブは、自分で自分の顔を殴った。
モブ「んじゃな」
橙「ぅえ、っあ」
モブがやってることが理解できなくて、追いかけようにも殴られたところが痛くて、動けなかった。
ただただ、並々ならぬ恐怖が押し寄せた。
橙「帰…ろ……」
朝と同じような重い体。重いだけじゃなくて痛いから、もっと動きたくないという思いが強まる。帰っても誰もいないなら帰らなくていいんじゃないな、とか思うけど、心配させたくないし、迷惑かけたくないから。我慢。
ふと、遠くで大きな足音が聞こえる。遠いはずなのにバンバンと音を鳴らして、ちょっとうるさい。
先「おい!!!!!!橙!!!!!!!!!」
橙「っわ……」
その足音の主は、俺に用があるようだった。
聞くと、俺がモブの顔に殴りかかってきて、それを急いでモブが相談しに来たんだそうで。反対だろ、俺だよ殴られてたの。自分で殴ってたよ。
先「なんか言ったらどうなんだ?!」
橙「ぁ……えっと……」
急いで弁解しないと、これだけはそう思えた。のに。
モブ「絶対言うなよ」ボソ
橙「……!」
怖かった、でも、言わなきゃ。
橙「っ……ぇ、と」
橙「僕はやってないです」
え?
先「やっぱりお前は!!!!」
わかんない、わかんないよ。
言いたかったことと違う。ちゃんと否定しようとしたのに。
橙「本当弱くて助かりましたよ笑体格だけですよねモブって笑」
橙「実は前から結構殴ってて?笑」
先「ーーーーー!」
違う、違う違う違う違う違う!!!!
思ってもないことが口から出てくる。何も考えられないのに口だけは達者になっていって。自分が怖い。
なんで、なの?
先「とりあえず、親御さん呼ぶからな」
橙「……ぁ…」
モブ「先生、そいつ親いないっすよ笑」
先「ああ、そうだったな笑」
先生も、きっとわかってる。俺が殴られている側なのも、いじめられてるのも、モブが全てを仕組んでいることも。めんどくさい事は嫌がる人だから見て見ぬふりしてるんだ。
橙「……………」サスサス
さっき殴られた箇所が痛む。
これも、偽りとして認識されるのだろうか。
ー1時間後
赤「っす、すみませんっ!遅れました!」
先「いえいえ、全然大丈夫です」
赤「それで、橙の件は、、、」
先「ーーーーーー」
赤「はい、わかりました……今回はうちの橙が全て悪いです、すみません…」
先「橙。お前も兄に謝らせてばっかりじゃなくて自分でモブに謝れ、お前が全部悪いんだ」
橙「っはい…モブさん、本当にすみませんでした…」
赤「橙くん、どうしたの?いつも優しいのに…」
橙「…………………」
赤「話してよ…話さないとわからないよ?」
話せへんよ。だって、口を開いたらまた嘘を吐いちゃう。
兄ちゃんには嘘、あんまりつきたくない。
赤「ねえ、橙くー」
橙「うっさいなあ赤にい!関係ないやろ!」
赤「え…?……っ関係あるに決まって」
橙「いちいち首突っ込まんでくれる?うざいねん」
赤「橙……くん」
また、だ。なんでこんなことを言ってしまうんだろう。
反抗期、とも似ている。でも違う。
たとえ反抗期だったとしても、あんな嘘はつかない。
赤「せめて本当にやったかだけ聞かせてよ!!」
赤…にい、それだけ、はやめて。
今の俺だと……
橙「おん、もちろんやったで?笑」
ほら、もうダメだ。
赤「っ!!!!!!なんでっ、なんでぇ……」
橙「やってムカついたし」
やめて
赤「ムカついてもやっていい事と悪いことあるでしょ?!」
橙「悪いことなん?」
やめてよ。
赤「悪いことに決まってるでしょ?!なんで、こんな子に育っちゃったの…?橙くんはこんなじゃないよ……」
橙「何母親ズラしてんねん笑俺はこんなんやし赤にいなんて家族やないし!!!!」
赤「っ……!!!!!!ポロポロ」
橙「こんなんで泣くとか…笑」
やめてってば!!!!!!!!!!
もう俺の口で赤にいを傷つけないでよ!
桃「……あれ、どしたん2人とも」
…最悪のタイミングで、三男に出くわした。
赤「桃、くなんでこんな時間に……ポロポロ」
桃「たまたま早く抜けられたから……兄ちゃんどした……橙も、教えろ」
橙「…………………………」
赤「橙く、が、ね……ポロポロ」
桃「……は?」
橙「……ぁ」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
やだ、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
殴られる?蹴られる?暴言?全部怖い。
耳を塞げない。
桃「ーーーー!!」
胸ぐらを桃にいに掴まれて、でも何を言ってるかわからない、頭が拒絶してる。それともそれまでに桃にいが混乱しているのか。
受け入れられない。
桃「ッチ、一旦家帰んぞ」
赤「うん……」
桃「紫にいに伝えておくからな」
橙「……!!!!!!」
嗚呼、もういいよ。
もう救われないのはわかったから。
ぼっちは本当のぼっちがお似合いだ。
ー家。数時間後。
紫「_で、本当なの?橙くん」
橙「………………」
紫「俺には何もわかんないよ……話を聞いて早く帰ってきたはいいけど、俺は赤くんが言ってることも桃くんが言ってることも、先生が言ってることも全部信じられないよ。橙くんが教えてくれなきゃ」
橙「……全部、俺がやった」
紫「……」
橙「ちょっと叩いただけやん」
紫「…」
橙「あんなん痛いうちに入らな_」
バチン!!!!!!!!!!!!!!!!
橙「っえ……?」
青「っちょ、紫にい……」
紫「相手の子はね、こんなに痛いんだよ」
橙「……………………」
紫「橙くんの力って俺より強いから、もっと痛いかも。それを感じたんだよ。痛いんだよ、すごく」
橙「……………………」
紫「今まで優しい子だと思って育ててきたけど。」
紫「正直、失望しちゃったよ」
瞬間、張り詰めていたものが緩くなった。俺も、失望……ではない、絶望を、感じて。
橙「………………ぅ、ぁ、あ」
ダッ!!!!
桃「っ橙!!!」
耐えきれなくて、逃げてしまった。逃げる資格も何も無いのに。自分でない自分と、自分に向けられる刃から頑張って逃げたくて。
結局は自分なんだから、もうだめだ。
バタン
橙「っは、はぁ、ははは」
もう自分を見失いかけてる。さっき喋った自分は本当に自分?やっぱり俺の意思で喋ってる?俺がみんなを傷つけた?
ごめんなさい。こんな僕でごめんなさい。ぼく?俺?わかんない。おれじゃなくてもおれなのかな。なぐったのはおれ?あれ?わからなくなってきた。
いじめてたのはおれ?モブ?どっち?
やっぱり、おれはだめなこ?
橙「ーーーーーーっは、はひゅっ」
はじまっちゃった。
橙「はふっ、ひ、はひゅ、っか」
いきできない……
でもぜんぶぼくのせいだから、うけとめないと。
ぼくじゃないかもしれない。
じいしきかじょうかもだけど、ぼくがやっぱりいじめられてて、なぐられてたのかも。
でもね、げんいんはぼくなんだ。きっと。
きっとそう。
カチャ
橙「っはっはひゅ……は……ゔ……」
ドアがひらくおとがした。
あいかぎをもってるのは。
ちょうなんのななにいと
いちばんなかよしなるぅにいだけだった。
黄「橙……くん」
橙「るぅ……にぃ……?」
やめて、いまぼくにちかづかないで。
こんどはるぅにいもきずつけちゃうかも。
橙「るぅにぃ、やめて、やだ、きらい、こわくない?いやあ……」
黄「落ち着いてください。僕は失望なんてしてません」
橙「…………え?」
しつぼう、してない?
ぼくのこと、みてくれる?
黄「もう、僕はなにを信じればいいのかわからないです。でもね、今までの橙くんなら知ってるんです。僕が体弱い時、1番隣にいてくれたのは、優しかったのは、誰でもない橙くんです」
橙「…………」
黄「橙くんが僕を否定しても、僕は橙くんを否定しませんよ」
青「僕もね」
橙「ころにぃ……」
黄「ほら、大丈夫ですから」
橙「うん……ポロポロ」
ぼくのまわり、ひと、いっぱい。
うれしいなあ……
黄「…で青にいなんで来たんですか?」
青「気になってたから言おうと思って」
黄「何の話ですか?」
青「橙くんの”それ”。橙くんがどれだけ優しいかとか僕らは知ってる。十分すぎるぐらい。だから今日のがおかしくてたまらなかった。僕は1個可能性を見つけただけ」
黄「…………」
青「【嘘つき病】っていう、病気かもしれない」
黄「嘘つき病……?一体どういう病気ですか? 」
青「その名の通り、嘘しかいえなくなる。つまり本当のことが口から言えないんだよ」
橙「…………?」
青「そうだと、僕は思いたい」
黄「なんか、腑に落ちましたよ」
青「……うん」
黄「……橙くん、紫にいのこと好きですか?」
ななにぃ……?もちろんすきやで……?
橙「…きらい」
黄「んふ、やっぱり好きだよね」
あ!つたわった!
黄「さ、疲れたでしょ?一旦寝ましょうよ」
ねる…?にいちゃんとはなれる……
橙「…ゔ……あ゛……ポロポロ」
黄「大丈夫、大丈夫」
せなか、ぽんぽんされてる。
あったかいなあ……
ぼく、わるいこ、だめなこ。
でも、ちょっとだけ、ゆるしてね。
あったかいきもちになるの。
黄side
黄「おお、やっと寝てくれた…」
とりあえず、青にいと二人で橙くんをベットまで運んだ。悪いとは思ったけど、ちらっと見てしまった腕。沢山の痣、我慢の証ばっかりで、なんとも痛々しかった。
その証に、名前をつけるとしたら。
黄「いじめられてたんでしょうか」
そうであれば、全て辻褄が合うのだ。
無数の痣も、今日のことも、病気になるまで深刻に考えたのも。全部、全部。
ごめんなさい。抱え込ませてしまって。
僕の看病で小さい頃は兄に見て貰えなかったよね。
治っても、成長してしまって難しかったよね。
黄「全部、僕らのせいですね」
青「…うん」
ここまで放置をしたのは兄たち。
その原因は僕。
みんなみんな同罪だ。
青「まあ気に病んでても仕方ないし、上3人に話つけてこようよ。ここまで橙くんの心壊したんだから……」
黄「はい」
青「幼児退行しちゃうまで、普通怒るかねえ」
黄「我慢する橙くんも橙くんですけどね笑」
青「罪重い3人にお叱りしてやる」
紫「ピリピリ」
桃「ピリピリ」
赤「………………」
青「僕やっぱ無理だわ」
黄「おい青」
青「この空気無理だって……」
黄「行ってらっしゃい青にい」
青「……ハイ」
青「……紫にい、ちょっといい?」
紫「ん?なに?」
紫にいはいつも通りの笑顔で返事をした。それが逆に怖いんだけどね。
青「橙くんの話したいんだけど」
紫「その話やめよう?空気悪いから」
青「あのね……」
紫「やめよって言ってるでしょ!!!!!!!」
黄「………………」
紫「はあ……はあ……はあ……はあ……」
ああは言ったけど、やっぱりわからないんですよね。僕らの橙くんを信じるか、赤にいの話のあの橙くんを信じるか。
青「これ、見て」
紫「なに……これ」
青にいは、スマホを紫にいの顔の前に出した。恐らく嘘つき病のことが詳しく書いてあるサイトなのだろう。
青「確信はないけど……これかもしれない」
黄「さっき、聞いたんです。紫にいは好きかって。橙くんは嫌いって言いました。でも、僕が好きなんだねって言うとにっこり笑ってくれたんです」
紫「………………!」
黄「あんなことされても好きなんですよ、やっぱり」
赤「っじゃ、じゃあ今日のこととか全部嘘ってこと……? 」
黄「多分、そうです……」
青「橙くんの腕、痣いっぱいあって……多分いじめられてる」
紫「え……」
黄「もう何も望まないけど……せめて謝ってください。これ以上橙くんを思い詰めさせないで」
紫「……明日、病院に行こう」
僕たちの会話は、それで途切れた。
ー翌日
橙side
橙「ん……んん…」
いつもより、体が軽い朝。でも心は重い。モヤモヤとした感じが体をおおって、結局体も重くなった。
黄「おはよう、橙くん」
青「おっは〜」
橙「……おはよう」
黄「橙くん、ちょっとお話があるんですけど」
橙「なに?黄にい」
青「僕らと一緒に学校サボろ」
橙「っえ……?」
サボる?学校を?なんで……
黄「そういう気分なんですよ。紫にいにも言ったし大丈夫です」
橙「紫……にい」
昨日のことを思い出す。嫌われた?殴られた?辛くって断片的にしか思い出せないけど、なんだか苦しい。
青「兄ちゃんのことなら安心してよ、昨日は気が動転してただけだから、本当にごめん、謝りたいって」
ごめん……?謝るのは俺の方じゃないん?だって、迷惑かけた、たくさん。赤にいを泣かせて兄ちゃんを困らせて、黄にいと青にいの手を煩わせたのは、俺なのに。
俺がいなけりゃ、やっぱり……
青「……昔の話していい?急だけど」
黄「本当に急ですね」
橙「……コクッ」
青「とりま散歩しながらね」
青「僕ね〜ずぅっと、黄くんが羨ましくてね、妬んだりしてたの。僕より遅く生まれたくせに兄ちゃん独り占めして生意気だ!って思ってた」
黄「っ……」
青「でもそんなのね、すぐに消し飛んだ。桃にいがいてくれたから」
橙「桃、にぃ……」
青「よくゲーム一緒にしてくれたし、割と頭良かったから勉強教えてもらったりしてた。あとはまあ喧嘩したり?笑」
黄「喧嘩に関しては今もですね……」
青「まあ桃にいなりの優しさに気づくまでは僕わがままだったから、橙くんと黄くんそっちのけでかまってコールしてた笑」
青「僕もね。兄ちゃんたちに迷惑かけてばっかだった」
橙「……!」
青「今も迷惑かけちゃうし、橙くんみたいな頃は僕橙くんよりも迷惑かけてたと思う。だから、あんま気にしちゃダメだよ?」
黄「僕からも言っておくと僕は最大級の迷惑かけてたので、本当に。兄たちが過保護なだけで、クラスメイトぐらいムカついたら殴ってください」
青「いや、あの。それはやめて普通に」
黄「内輪ノリならいいんですよ。…それに」
黄にいがずいっと俺の方に近寄る。
黄「殴られるなんて言語道断ですよ。僕らに言ってください」
橙「ぅ、え?」
バレた?なんで?いじめられてるの、言ってないのに、学校もちがうのに。なんで?
紫「黄くんと青ちゃんから聞いたよ、腕に痣があったって」
……ぁ
橙「っふ、あ、はっあ、はひゅ」
また呼吸の仕方を忘れそう。
じぶんがわかんなくなりそう。
橙「か、かはっ、ひゅっ」
黄「橙くん落ち着いて……!」ポンポン
橙「ゔ……ぁ、ありが、と、ななにぃ……」
紫「ありが、とう?」
青「嘘だから、ごめんなさいって言ってるんだよ。本当に謝るべきなのは紫にいと桃にいなのに」
桃「…………」
赤「そんなに、言わなくてもいいじゃん…」
あれ?またぼくのせいでみんなおこってる?
ごめんなさい。わるいこなのにいいおもいしたから。
えっと、ぼく、じぇる、だめ。
いちゃだめ……
橙「…………ポロポロ」
黄「橙くん…」
こまらせちゃうのに、つかんじゃう……
ななにい、こわいから……
紫「やっぱり会うべきじゃなかったよね。俺なんかが会う資格なんてもうないのに……」
桃「こんなんでも、機会与えてくれてありがとう。橙、ごめんな」
さとにい、もあやまってるの……?
さとにいはほんまになにもしてないのに……
じゃあ、だれがわるいの?
赤「俺も、ごめんね。悪いのは俺らだけだから」
わかんない、けど……
橙「じぇる、わるいこ、?」
紫「そうだよ。橙くんは……とってもいい子 」
ギュッ
紫「今まで我慢させちゃってごめんね。気づけなくてごめんね。痛い思いさせてごめんね」
桃「もう突き放したりとか絶対しないから。今までの分……いやそれ以上でいいんだ、甘えてくれよ」
橙「あ……あぅ……あ゛……ポロポロ」
あったかい……あったかすぎるよ……
紫「だから、今は身を任せてね」
橙「……んぅ…」
ねるの……かなぁ…
こわい、けど
もう。大丈夫。
俺はひとりじゃないから。
紫side
泣きながら、橙くんは俺の胸の中で眠った。最後は少し泣き止んで、にこっと笑った。こんなになるまで放置してしまった自分と、自分を正当化させた自分、正義を振りかざした自分がどうしても憎くて、仕事が手につかなかった。
昨日黄くんと青ちゃんから聞いた、『橙くんがいじめを受けている』という話。妙にしっくりきて。朝元気なかったのも、学校の話をあまりしないのも、それが原因だったらしい。
橙「……すぅ…すぅ…」
紫「………………」
路上でそのまま寝かせる訳にもいかず、とりあえず姫抱きをした。まだ涙のあとがついてて、よく顔を見てみると紫色になっている箇所や、濃いクマが見えた。タートルネックが好きなのかと思って買っていたけど、それは首についているあとを見せないためなのかな。
……迷惑をかけないように、心配させないように。
きっと、そんなことを君は考えていたんだろう。
何度謝っても、後悔しても、もう遅い。俺は過ちを犯してしまった。もう戻れない。
だから、有言実行をしなければならない。
桃くんの言葉を借りて。今までの分も、それ以上でもいいから……いっぱい、甘やかそう。
ー病院
紫「すみません、予約をしていた紫ですが…」
看「紫さんですね。お呼び出しをするので呼ばれるまであちらの席でお待ちください」
紫「っはい」
紫「……久しぶりの6人でのお出かけがこんな所になるなんてなぁ…」
赤「紫くん…」
黄「橙くんが落ち着いたら、また色んなところ出かけたいですね」
桃「落ち着いたら、の話だけどな」
青「まあ橙くんなら大丈夫だよ」
赤「…そだね」
ー病室
医「…では、くわしくお聞かせください」
紫「……はい。クラスでいじめがあったらしくて、ずっと耐えてて……昨日濡れ衣を着せられて、それが原因で嘘しかつけないみたいです…」
黄「それでわかったんですけど、幼児退行気味というか……パニックを起こすと幼児退行しちゃうみたいで」
医「そうですね……やはり、嘘つき病に近いものだと思われます。それに伴った幼児退行、パニックも恐らく先天性のものをお持ちではないかと思います」
紫「っやっぱり……!嘘つき病なんですね…」
医「断定はできませんが……橙さんを起こすことは可能でしょうか?」
紫「あ…黄くん……頼める?」
黄「全然大丈夫です。……橙くん、起きれますか?」ポンポン
橙「ん……ん゛ぅ……る……ちゃ?」
黄「そうですよ、起きれますか?」
橙「うんん……」
医「ありがとうございます」
橙「……?」
紫「橙くん、ごめんね?今病院来てて…… 」
橙「………………」
何か言いたげで、でも感情が掴めなくて分からない。この状況なら、『なんで来たん……?』とか他人事みたいに聞くのかな。
医「橙さんはどんな方でしょうか?」
赤「普段は優しくて、とても濡れ衣を着せられたことを……しないような……」
桃「……………… 」
医「わかりました。では口頭でのアンケートと紙でのアンケートをとらせていただきます。橙さん、ご家族の方々は大好きですか?」
橙「大、嫌いです」
医「現在の総理大臣は」
橙「菅総理です……」
医「……正式に嘘つき病だと判断されました」
紫「…えっと……治療法とか、あるんですか?」
医「もちろんあります。自分の理解できる存在を認識していると、徐々に治っていきます」
青「理解できる存在ね……」
黄「僕たちですらそう思われてないんでしょうか」
医「嘘つき病というものは、相手に心をあまり開かない人がなりやすいものなんです。家族でしたら、普通に生活していれば、治るということですね」
紫「そうなんですか……!よかったです」
医「幼児退行とパニックについてですが……資料にまとめておくので、そちらをお読みください。そして、いじめについて……」
橙「……っ?!」
黄「大丈夫ですよ橙くん」
医「私が色々と言うことはできませんが、カウンセリングでしたら、精神科に行くことをおすすめします。今日はありがとうございました」
紫「……!いえっ、こちらこそ!」
赤「本当にありがとうございました!」
医「いえいえ」
紫「橙くんお疲れ様。もう、全部大丈夫」
橙「…………」
紫「やっと、橙くんの全てを理解できた」
橙「……ぅえ?」
紫「前から橙くんって存在がよくわからなくて、優しいなって思ったり可愛いなって思うんだけど、橙くんには我慢させてばっかりで本当にやりたいこととか、行きたいところとか、聞いてあげられなかったし、行かせてあげられなかったなって」
桃「俺らが言えた義理じゃねーけど、もう我慢させないし、甘えさせるし、ずっとそばにいるから」
紫「橙くん、生まれてきてくれてありがとう」
橙「……!ポロポロ」
紫「これから、お兄ちゃんとして頑張らせてください」
今日、やっと橙くんの、お兄ちゃんになれた気がする。今まではきっとそう思ってただけ。
橙くんを1番理解できる人になるために。
今日は橙くんの好物を作ろうかな。
橙side
6人で病院に行った日から、およそ1ヶ月が経つ。前に学校に行った日から1回も学校には行けていなくて、いわゆる不登校である。でも学校に行かないことを兄ちゃんは理解してくれていて、本当に心を見てくれているのだと思うと嬉しい。
むしろ、なんというか、黄にいや青にいが言ってたみたいな兄組3人の過保護がよく見えてきた気がする。なんだかんだ言って、大好きな黄にいと青にいも。
紫「橙くん!一緒にご飯作らない?今日橙くんの好きなハンバーグにしようと思ってね」
赤「ねえ橙くん、一緒にアニメ見よ?この前続き気になってたやつ!ネタバレ踏まないように感想見てたけど面白そうだったよ!」
桃「橙、こっちでゲームしようぜ」
青「対戦ゲームだから僕とチーム組も!」
桃「は?俺だろ強いんだから」
青「桃にいの方が強いから僕と組むの!」
黄「橙くん」
橙「ん……?」
黄「みんな、だいぶ過保護になっちゃいましたね。大好きですし、寂しくさせたくないですし、仕方ないんですけど」
それは黄にいも同じ、って言ってやりたい。1番分かりやすく勉強を教えてくれるし、限度を知ってる。
最近、兄弟でお互いに理解をしている。大好きもこういうのは嫌いも、嘘も本当も。心の底から伝えたい気持ちこそ相手には伝わらないものだけど、それを実感したからこそ伝えられるものがあるのも知った。
黄にいは成長したね、って言ってくれる。
青にいはやるじゃん、って言ってくれる。
桃にいは黙ってるけど、見守っててくれる。
赤にいは良かったね、って言ってくれる。
紫にいは良かったなぁ、って、言うんだ。
黄「あっちでゲームやりますか、みんないますし。今度は協力ゲームみたいですよ笑」
橙「…………コクッ」
本当の意味で、俺の口から言いたかった言葉。
黄「僕たちも混ぜてくださーい」
桃「お、いいぜ」
紫「2人ともこっち来なよ!空いてるよ?」
青「あ!紫にいずる!!僕の方も空いてるし!」
赤「もううるさいよ?折衷案でこっちに……」
言いたかった、言葉を。
橙「っ、あの、兄ちゃ…ん」
紫「ん?どうしたの?もしかして隣は嫌……?」
橙「えっと……ね」
橙「兄ちゃんみんな、大好きやで」
赤「え」
青「まってまってまってそれはちょっとまって」
桃「ボソボソボソボソ」
紫「……………………」
黄「……待ってください…ついに反抗期ですか?」
橙「ちゃうもん!……本当の意味で、心から、大好きやで!嘘じゃない。やっと言えた」
橙「信じてくれて、理解してくれてありがとな」
𝕖𝕟𝕕 𓂃 𓈒𓏸
あ!あ!やっと終わった!!!!(´;ω;`)
お疲れ様です私が。
10000文字超えてるのは気のせいです。
次回からは反省して2話構成にしますね……
急に奇病書きたくなってテスト期間中なのに書きあげちゃいました。この中に普通に性癖な幼児退行と過呼吸ありますが。
とりあえず長いのにここまで読んでる方いましたら本当にお疲れ様でした閲覧ありがとうございました。
奇病集にしてまた色んなの書くのでお楽しみに!
P.S.最後にアイドルを感じたのはあなただけでは無いです。書いててめっちゃ頭に流れてきました。さようなら。
コメント
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お疲れ様です。 次回も楽しみにしていますね。