10話❀.*・゚
病室の中、白西は静かに眠っているかのように横たわっている。呼吸がわずかに、だが確かに感じられる。俺は、椅子に座ったまま彼女の顔をじっと見つめていた。もはや、時間の感覚がなくなっているように感じる。部屋の中には、かすかな音しかない。外の風の音、機械の低い音。どれも、白西がいない世界に近づいている気がした。
「お前、どこまで頑張るんだよ…」
低い声が自然に漏れた。声に出しても、どうしても彼女に届かない気がして、それでも言わずにはいられなかった。
白西が余命を告げられたのは、もう数ヶ月前のことだった。俺も同じように余命を宣告されて、だけどお前が生きる限り、何とかしたいと思っていた。でも、結局、俺は何もできなかった。白西が、時間に追われながらも、精一杯生きようとしていたことを、俺は理解していた。でも、その命の先に待っているものが何か、もうわかっていた。
「ねぇ、颯馬」
俺は、震える声で白西に呼びかける。手を握りしめ、温もりを確かめるように、その指をそっとなぞる。
「どうした?何でも言えよ」
白西は、静かに目を閉じて、また少し微笑んだ。彼女は力なく、だが確かに俺の手を握り返す。
「私…」
その声が、かすれていた。だが、確かに聞こえた。
「私、ね、颯馬に伝えたいことがあるの」
「うん。なに、?」
その言葉に、俺は少し驚き、でもどこか心の準備ができていたような気がした。
「もう、何もかも遅いと思ってるかもしれないけど、最後に…どうしても伝えたかったの」
その言葉のあと、白西は少し静かになった。俺はただじっと、彼女の言葉を待った。
「颯馬、ずっと私を支えてくれてありがとう。あなたがいてくれたから、私はここまで頑張れた。でもね、私がいなくなっても、絶対に、悲しまないで。私は幸せだったから…」
白西は、微笑みを浮かべながら、目を閉じた。そしてその後、しばらくしてから、もう一度俺を見つめ、言った。
「それから、もし私がいなくなった後、悲しみが大きくなるかもしれないけど、その時は、手紙を読んでね。これが私からの最後のお願い」
「わかった、わかったよ。読むよ。頼むから…最後のお願いなんて言うなよ、」
その瞬間、白西は深い息を吐き、俺の手をそっと放した。もうその手に力はない。俺は必死でその手を握り、震える声で呼びかけた。
だんだんと手が冷たくなっていくのを感じる。
あぁ、だめだ。
「白西!お前、おい…!」
だが、もう返事は返ってこなかった。俺はそのまま、無力感に包まれ、彼女がいなくなることを認めたくなくて、ただ泣くことしかできなかった。
数日後、葬儀を終えた後、俺は部屋に戻り、白西の遺品を整理していた。すると、机の上に一通の封筒が置かれていた。その封筒には、白西の手書きの文字で「颯馬へ」と書かれていた。
「まさか…」
俺は震える手でその封筒を開け、深呼吸をし、白西の手紙を読み始めた。
『颯馬へ
もし、この手紙が届いた時、私はもういないのかもしれないね。でも、私はいつもあなたの心の中にいるよ。あなただけには言いたいことがあるから、どうしてもこの手紙を書かせてもらいました。
私たちが出会ってから、たくさんの幸せな時間を過ごしたね。あなたがいてくれたから、私は強くなれた。そして、あなたに支えてもらったからこそ、どんな辛い時も乗り越えられた。
でも、私はまだあなたに伝えていないことがあったよね。それは、私があなたをどれだけ大切に思っているか、愛しているか、ということ。
あなたがどんなに辛くても、悲しんでも、私はあなたと出会えたことが本当に幸せだと思う。だから、悲しまないでほしい。って言っても悲しいよね。辛いよね。でもね、どんなに時間が経っても、私があなたのことを思っていることを忘れないで。私はあなたを、ずっと、ずっと愛してる。
もしあなたが誰かを愛することがあったら、その人も大切にしてね。でも、私のことも忘れないで欲しいな笑あなたが私を思い出してくれる限り、私は永遠にあなたの中で生きているから。
これ、言ってなかったよね。あなたからの好きはいっぱい貰ったけどわたしからはどうしても言えなかった。言わなかった。言うのが最後になる気がして。
あなたのことが本当に大好きでした。幸せな時間をありがとう。
白西より』
手紙には沢山の涙の跡があった。
ああ…俺は…俺はこんなにも想われていたんだ
手紙を読んでいる最中、白西と過ごした思い出が蘇ってきた。
笑いあった日々、支え合った瞬間
すべてが愛おしくて、胸が痛かった。
「白西は…もういないんだなぁ」
その手紙を読んで、俺はもう一度泣いた。白西が今、どこかで笑っているような気がした。そして、彼女の言葉通り、これからも生きていこうと思った。白西が教えてくれたことを忘れず、前を向いて、どんな辛いことがあっても、彼女の分も生きるんだ、この余命と一緒に。
そして、彼女の愛を背負ってこれからの人生を歩んでいく。
~𝐄𝐍𝐃~
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