大きな声がして、目を開けるとそこには緑髪の男がいた。
「やっと起きたか。」
その緑髪の男は自分が意識を取り戻したことを確認すると、呆れたような声でそう言った。
「若様が助けてくださったのだぞ。」
若様?誰だ?漫画やアニメではよく聞いたりはするものだが、現実ではなかなか耳にする機会が少ない言葉に少しフリーズしてしまった。
というか、此処は何処なのだろう。黒を基調とした部屋に緑色の炎が灯っている。全体的に薄暗く、こんな広い空間には勿体ないほど物数が少なかった。
再び緑髪の男の大きな声が広い部屋に響き、朦朧としていた意識が完全に戻ってきた。意識取り戻したばかりだからなのか喉は乾いており、返事などすることが出来ないような掠れた声だった。
そういえば、先程から居るこの緑髪の男は誰なのだろう。よく周りを見渡すと自分の真後ろには銀髪の男が礼儀正しく立っていた。その存在に驚きはしたが、見知らぬ人間の前で弱みを握られてはならないと思い、冷静を装って軽くお辞儀をする。銀髪の男は自分がお辞儀したことを認識しつつ無視しているのか、元々気付いてすらいないのか分からなかった。ただそこに突っ立っているだけの彼は腰あたりに警棒のようなものを構えていた。その更に奥には頭の頂辺りから二本の何かを生やした長髪の人間とその隣にはふわふわと浮遊する子供のような何かがいた。距離的にその二つが何なのかはっきり認識することは出来ないが、空気的にあまり油断はしない方が良いのだろう。
次々と浮かび上がってくる疑問に頭を悩ませるが、そんなことをしている余裕などないというように緑髪の男の声が部屋全体に響き渡る。
喉も乾き、この現状を飲み込むことすらできていない自分に何が言えるというのだろうか。だが、その緑髪の男は苛立ちを隠せておらず、あまり刺激しない方が良さそうであった。発する言葉を探しながら周りの様子を伺い警戒する。
はらりと緑の光が散ったかと思うとそこから先程奥の方に居たのであろう頭の頂辺りから角のようなものを生やした長髪・長身の男が立っていた。顔が非常に整っており体格的に性別は男性なのだろうが、顔だけを見ると性別不詳である。
「人の子よ、心配したぞ。」
角を生やした男が口を開くと、そこからは低く、綺麗な声が零れていた。
目の前の光景が信じられなかった。先程まで「図々しい」と言っても過言ではないような態度を自分に向けていた緑髪の男が角を生やした男が現れた瞬間に高級そうなソファから立ち上がり、急に現れた男に対してぴったり45°の礼儀の塊のような礼をした。後ろにいた銀髪の男も緑髪の男と同じ行動をとっていた。少しすると、二人の男は顔を上げ、角を生やした男は何事も無かったかのように少し背もたれが長く伸びたアニメ等でよくある王座のような椅子に腰掛けた。王座ほどでは無いが、少し派手な彫刻と装飾がされており、部屋の雰囲気にあった緑と黒を基調とした椅子だった。珍しいほどに派手だという訳でもないのに、その椅子の彫刻等から高級品だということが見て取れた。
「マレウス、人の子に確認は取らなくて良いのか?」
ふわふわと浮いた小柄な者ほショートの髪にはピンクとワインレッドを混ぜ合わせたようなカラーのメッシュが入れられていた。その者は幼そうな見た目をしていたものの、喋り方には趣があり、見た目とは正反対であった。
「ああ、確認を取らなければな。」
角を生やした男は浅く頷き、自分の方を見るとその口からは思わぬ言葉が出てきた。
「人の子よ、僕と恋仲にならないか?」
その言葉が形の整った唇からこぼれた瞬間、先程まで黙っていた銀髪の緑髪の男二人が驚きを隠せない、と言わんばかりの表情を浮かべ、緑髪の男に関しては少し間抜けな声を出していた。
「えっと、恋仲というのは、恋人、、ということですよね?」
「そうだな。」
角を生やした男は、再び浅く頷き、平然とこちらを見つめていた。端正な顔立ちをしているというのに、急になんてことを言い出すのだろう。
「返事は?」
角を生やした男から零れたその言葉は、毒を含んだように甘く、低く、自分のことを昂らせた。何故だか、彼の支配下にあるようで、この状態で断る権利などないのだと察することができた。だが、見知らぬ男のものに易々となるつもりは無い。そう思いながら否定の言葉を出そうとした時。
「はい、喜んで」
自分の口からもらた言葉は、自分の感情とは正反対をいき、自分でも信じることが出来なかった。
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