俺の通う高校には、アニメの主人公みたいなイケメンがいる。
「ねぇあれ見て! 須藤くんだよ!」
「めちゃくちゃカッコいい! オーラが違うね!」
「朝から須藤くんを生で見れるなんてツイてるなぁ~!」
桜並木の道脇に立ち止まり、キラキラと目を輝かせてイケメンを見る女子三人組。
イケメンは彼女たちに気が付くと、白い歯をニカっと輝かせて爽やかに笑いかけた。
「あははっ、おはよう」
「「「きゃ~~~~~~っ!!!!」」」
ファンサービスも完璧。
新学期早々大人気な彼こそが学園一のイケメン、須藤北斗すどうほくとである。
大人気アイドルに見劣りしない抜群の容姿に恵まれた体格。
おまけにスポーツも万能で、二年生にしてバスケ部のエースを務めており、中学時代は全国区の選手だったらしい。
おまけに成績も優秀で定期テストは毎回十位以内。
それだけでなく父親は不動産会社の社長で、爽やかで人望も厚くまさに非の打ち所がないイケメンだ。
その人気を裏付けるかのように、須藤には言い寄られている三人の美少女がいて……。
「おはよー! 須藤くんっ!」
気さくに須藤の横に並び、肩をぽんぽんと叩く彼女は花野井彩花はなのいあやか。
青色の髪が特徴的で、髪型はポニーテール。
中学時代はバレーボール部だったらしく、太ももの肉つきはかなりいい。
さらに目を引くのはその大きな胸。歩くたびにぷるんと揺れる胸は、今も多くの男子生徒の視線を引き付けていた。
そんな花野井は容姿だけでなく性格も素晴らしく、優等生でクラスの委員長を務めている。
そして何より――この学園に通う者ならだれもが知っている“美少女四天王”のうちの一人だ。
「おはよう彩花! 今日も朝から元気がいいね」
「朝だから元気じゃないとダメでしょ? これから一日頑張るんだし!」
「あははっ、そういう彩花のポジティブなところはほんとに素敵だね」
「っ!!! そ、そうかなぁ……えへへ」
頬を真っ赤に染め上げる花野井。
「なーにイチャイチャしてんの?」
二人の間に入るようにやってきたのは瀬那宮子せなみやこ。
金髪の髪を腰くらいにまでさらりと伸ばしており、中が見えてしまいそうなくらい短いスカートからは健康的な白い足がすらりと伸びている。
大胆に開かれた胸元にはネックレス、耳にはピアスと派手な見た目で、いわゆるギャルというやつだ。
制服の着崩し方や大人びた顔立ちからセクシーな雰囲気が漂っており、数多の男子を虜にしてきている。
そんな彼女もまた美少女四天王のうちの一人だ。
「い、イチャイチャなんてしてないし? ただ私は須藤くんに挨拶しただけで……」
「彩花は嘘ばっかり。どうせ北斗に色仕掛けしようって魂胆なんでしょ? 見え見えだから」
「ち、違うよー!」
怒る花野井をよそに瀬那が須藤の腕に抱き着く。
むにゅっと音を立てて瀬那の胸が押しつぶされた。
「ねぇ北斗? 今日の放課後あたしの家来ない?」
「宮子の家?」
「うん。うちの親、夜遅くまで帰ってこないからさ……?」
「っ! 不純異性交遊っ! 絶対ダメ!!!」
「えぇ? あたしは一言もえっちなことするなんて言ってないけど?」
「えっ……ふ、風紀! 風紀がなんか、その……よくない!」
「二人とも落ち着いて、ね?」
からかうように笑みを浮かべる瀬那とぷりぷりと怒る花野井。
その間で須藤は困ったように笑っていた。
「あ~! 北斗くんだ~!」
とてとてと走ってきたのは、葉月弥生はづきやよい。
猫毛でくしゃっとした桜色の髪が特徴的で、むちむちとした体を惜しげもなく晒している、いわゆるわがままボディ。
サイズ的にはおそらく花野井と同等かそれ以上で、隙のありそうな言動が多くの男子生徒の心を射抜いていた。
性格は無邪気で子供っぽく、そして何といっても天然。
それゆえいい意味でのトラブルメーカーだ。
そんな葉月もまた、美少女四天王のうちの一人だ。
「って二人もいる⁉ びっくりした!」
「今まで私たちのこと気が付いてなかったんだ……」
「盲目がすぎるよ……」
「えへへ~! おはよ~、北斗くん!」
「おはよう、弥生」
この三人が須藤に好意を抱いている美少女たちだ。
全員美少女四天王と呼ばれる校内屈指の美少女。
巷ではハーレムなんて呼ばれ方をしている。
しかしもう一人、須藤を語るうえで必要な美少女がいて……。
「あ、雫!」
声を上げる須藤。
その視線の先には、明らかに他とは違ったオーラを放つ美少女が一人で歩いていた。
彼女の名前は一ノ瀬雫いちのせしずく。
宝石のようにきらりと輝く銀髪をたなびかせ、顔は人形のように整っている正真正銘の美少女。
切れ長の目が特徴的で、一ノ瀬こそ美少女四天王、最後の一人なのだが……。
「おはよう雫! 今日も天気がいいね!」
「…………そうね」
須藤に目もくれず、靴を鳴らしてすたすたと歩き去っていく。
一ノ瀬は誰も寄せ付けない、そして誰にも寄り付かない孤高の美少女。
高校に入学してからの一年間、告白された回数は四天王の中で一番多いものの、すべてを全く相手にせず。
あの須藤すらも落とせない、難攻不落の美少女なのだ。
「なにあいつ。せっかく北斗が話しかけてあげてるのに」
「あははっ、何かしちゃったかな」
「一ノ瀬さんは誰にでもあんな感じだからね。須藤くんが気にすることじゃないよ」
「あはは……」
苦笑する須藤。
しばらく一ノ瀬の背中を目で追いかけてから、四人で歩き始めた。
騒がしい並木通り。
「……ん?」
唐突におぞましい気配がして、周りを見渡す。
しかしその正体は結局わからず、俺も彼らを追うように足を進めた。
放課後。
繁華街を進んでいき、一本の路地に足を踏み入れる。
ひっそりとそびえたつビルの前まで来ると、鉄の扉を開けて中に入った。
階段を上がり、二階へ。
ここが俺の住む家。
この下はスナックになっていて、こずえが経営している。ちなみにこずえは俺の母さんだ。
「んぅ……むにゃむにゃ。テキーラ、ジン、ウォッカ。うぉうぉウォッカ……」
こずえが部屋で爆睡しているのを確認すると、すぐに制服に着替えて髪をセットする。
さすがに学校と同じボサボサでは人前に出れない。
実は中学までは軽く手伝う程度だったが、部活を辞めてからは店で働いていた。
少しでも働き手が多い方がいい。
「今日はこれか」
買い出し表を確認すると、財布を持って外に出る。
今日もジメジメとした路地裏独特の匂いが漂っている。
しかし、ずっとここで暮らしてきた俺にとってはただの日常だった。
「ねぇ、ついてくるのやめてくれない?」
ふと、敵意むき出しの声が聞こえてくる。
声の方を見てみると、そこにいたのはオドオドした肥満体型の男子生徒。そして――
「私に何か用?」
須藤でも落とせない学園屈指の美少女、一ノ瀬雫だった。
「気づいてないと思った? ここ数日、私のことつけてるでしょ」
思えば今朝感じた気配の正体はこいつだったのかもしれない。
「何とか言いなさいよ」
「……ぼ、僕はそんなことしてない」
「言い逃れできないから。第一、人気のない路地裏についてきてるのが証拠よ」
「っ! そ、それは……」
「私の要求は一つだけ。もう二度とついてこないで。これ以上ストーカーを続けるようなら学校に相談するわ」
怯む男子生徒。
額に尋常じゃない量の汗が滲んでいる。
「私だって大事にするのは面倒なの。いいわね?」
「っ……」
「……はぁ、何も言えないの? 情けないわね。ここまで譲歩してあげてるのよ? なら喜んで頷いて、今すぐ立ち去りなさいよ」
一ノ瀬の言葉にピクリと反応する男子生徒。
「……ふざけるな」
「え?」
「ふ、ふざけるな! 偉そうに言いやがって……! お前みたいな奴、どうせイケメンにはすぐに股開くんだろ! す、須藤みたいな! なのにぼ、僕の告白を断って……ふざけるなァッ!!!」
わかりやすい逆ギレ。
汗が飛び散り、アスファルトに滲む。
「色々誤解しているようだけど、少なくともあなたに靡くことはないわ。だからその意味の分からない勘違いはやめてもらえる?」
「っ! ちょ、調子に乗るなよ! この淫乱クソビッチが! イケメンとヤリたい放題のくせに!!!」
「好き放題言えばいいわ。でもあなたの言葉程度で傷つきはしないから」
「こ、この……!」
明らかに男子生徒の神経を逆撫でしている。
この場合、行動として間違っている。
「これ以上あなたと話すことはないわ。もう一度言うけど、今すぐ立ち去って……」
「うるさいッ!!!」
男子生徒の声が響き渡る。
そして一歩ずつ、その大きな体を持って一ノ瀬に近づいていく。
……やはりこうなったか。
「な、なに? 近づかないでくれる?」
「お、お前が悪いんだ。僕の告白を断って、イケメンばかりに色目を使うから……」
「ちょ、ちょっと!」
男子生徒が一ノ瀬の肩を掴む。
そしてそのまま壁に押し付けた。
「い、一発くらいヤラせてくれてもいいよね? だって須藤とヤリまくりなんでしょ? ねぇ、いいよね?」
「っ!!! い、いやっ!」
一ノ瀬の顔が恐怖で滲む。
しかし、それは男子生徒を興奮させるだけだった。
「グフフフフ……め、めちゃくちゃにしてやる。全身を舐め回して、ぐっちゃぐちゃに犯してやる! それで、それで……僕の子を孕むんだァッ!!!」
「っ!!!」
……さて、もういいよな。
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