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更新ありがとうございます〜✨ 元貴君出てきて…🥺 どんな過去があったのかな? めちゃくちゃ気になりますし、 途中差し込まれた歌詞にも ドキッとしちゃいます💕 涼ちゃんの佇まいや、言葉遣いがめちゃくちゃ好きです💛 また次も楽しみにしています💕
💛
「若井くんってさ、下の名前なんて言うの?」
「下の名前、…滉斗です。」
ソファでゆったりと寛ぐ僕の横で姿勢を正し立つ彼に声をかける。どうやら新しい執事として雇われたようで、名前は若井滉斗と言うらしい。僕は全然前の執事さんも大好きだったんだけれど、何故か居なくなってしまった。お父様に聞いても理由を教えてくれないし、少しだけ寂しい。
「じゃあ滉斗って呼んでいい!?僕距離あるのあんまり好きじゃないから、…」
「いや、…若井って、呼んでください。」
「……わかった。」
何だか思っていた反応と違っていた。前の執事さんは凄い勢いで了承してきたし、「涼ちゃん」なんて呼んできたのに。それに気のせいかもしれないが会った時よりも距離を感じる。僕がいくら目を見ても視線が合わない。
「、あ!!もしかして疲れてる!?」
「え?」
「この屋敷広いもんね〜!あんなに歩いてたら疲れちゃうと思う!!」
ずっとかしこまった姿勢でいるのはきっと大変だろう、と思い立ち、困惑する彼の手を引き僕の隣へと腰を下ろさせる。2人分の重みを受け取り沈んだソファ、やっぱり少しだけ懐かしい。元貴、どこ行っちゃったんだろう。
「…はぁ、」
「…………、 」
深い溜め息をつき、いつものようにテレビのリモコンに手を伸ばす。この時間には前の執事の「元貴」と座り共にテレビを見てゆっくりしていた。別に僕はお姫様のように特別扱いされる存在でもないし、ただお父様がお金持ちなだけだ。テレビだって見るし、漫画だって読む。ゲームだって大好きだ。
「あれぇ…、このドラマもう終わっちゃったんだっけ。」
「、!?!?」
隣に座る彼の肩に頭を預け、何か面白い番組はないかとリモコンでチャンネルを切り替える。確かこのドラマは元貴と一緒に途中まで見ていたやつで…あ、この番組も元貴が好きだったような。
「え、……」
ポチポチとボタンを適当に押していると、切り替わった画面に見覚えのある人物が映っていた。なにかの歌番組のようで、見たことがあるアーティストも多数出演している。耳を惹かれる綺麗な曲調に、深い意味を感じるような歌詞。そして、演者と共に踊る元貴。
「…もと、き?」
揺れながら踊るその髪の黒が 他のどれより嫋やかでした
何故だろう。たった数日ぶりだと言うのに、その姿を目に映すだけで鼓動が高鳴る。いつもとは違うラフな格好で、雰囲気も更に僕好みだ。会いたい、また抱きしめてもらいたい。そんな思いがどっと溢れ出る。もう目の前の映像しか見えず、ずっとこのまま見ていたかった。
すっと消えそうな真っ白い肌に よく似合ってました
「なんで元貴が……?、聞きに行かないと、」
きっとお父様なら何か知っているはずだ。僕がお願いすれば元貴がまた帰ってきてくれるかもしれない。また、僕の傍に居てくれる。そんな衝動のままソファを立ち上がり扉の傍へと駆け寄ると、誰かが僕の腕を引いた。
「…どこ行くんですか。」
貴方にはこの世界の彩りが どう見えるのか知りたくて今
振り向くと、僕の腕を掴んだまま怪訝そうな表情を浮かべる彼が居た。そうだ、彼は今日がお仕事の初日で、きっとこの部屋に1人になってしまうのが不安なんだろう。気持ちに気付けなかった自分を内心叱りながら、彼に向き直り口を開く。
「えっと、僕ちょっとお父様の所行ってくるから部屋でゆっくりしてて!すぐ戻るから大丈夫だよ! 」
よし、完璧だ。これで彼も困らないはず。さっきとは打って代わり素晴らしい対応を出来た自分を褒め称えていると、徐に彼の手のひらが僕の頬に触れた。僕の体温よりも冷たい手のひらに少しだけ目を細め、何も言葉を発さない彼をじっ、と見つめてみる。余り表情の色が読み取れない瞳は真っ直ぐにこちらを見ていて、不思議と視線を逸らせない。
頬に手を伸ばした 壊れそうでただ怖かった
「元貴って奴、前の執事の事ですよね。少しだけ聞きました、主人から。」
起伏のない声色のまま呟かれた言葉に、はっと目を見開く。お父様が前任者の話を語るのは別におかしくはないが、彼から「元貴」という名が出るのは何だか違和感がある。それに、彼と元貴は何の関係もない。少しだけしか知らないのなら、僕から深く話す必要も無いだろう。
「うん、そうだよ。」
「、あの、その元貴って人はどんな、..……」
そう短く返し、彼の手を優しく退かして足早に扉へと向かう。扉が閉まる直前、彼が何か言葉を発していたが、無情にも閉まった扉が僕の耳へと音を届けるのを阻んだ。否、その言葉に僕が答えたくなかっただけかもしれない。