テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「リーナ、少し俺に手を貸してくれるか?」
「えっ……」
「嫌でも貸してもらいたいんだ。少しだけでいい」
「全然これっぽっちも嫌じゃありません。なんなら今後ずっとこのままでも構いません。…………どうぞ」
彼女はなぜか白すぎる頬を真っ赤にして、目を瞑った状態でこちらに両手を差し出してくる。
やたらと力が入っていたから、まずは少しほぐしてやって、
「くすぐったいです、先生……!」
「悪い。もう大丈夫だ。少しずつ魔力を手に集めてくれ」
こう促した。
そのうえで魔術サークルを空気中に速記して、彼女の手のひらに展開させたのは、魔術・【選別】――。
本来は、特定の魔素のみを空気中から抽出する術。だが、その術式を少し書き換えてやれば効果を変えられる。
魔物の放つ瘴気以外を通さないよう、フィルターを組み込む。
……すると、どうだ。
魔力を込めた彼女の手から吹きあがるようにして出てくるのは、魔物の瘴気たる毒素のみ。
黒いすすのようなものがどんどん空気中に放たれて、風に吹かれて消えていく。
「すごい、本当に体の中が軽くなる感覚があります、先生……!」
「なら、このまま最後までいくよ。もっと出力をあげるんだ」
「はい!」
素直に従ってくれるリーナの協力もあり、やがて黒すすの勢いが弱くなっていく。
そして最終的に、なにも出てこなくなった。
「うん、魔力が身体中を一周したらしいね。よし、もう一回やってもらえるか、リーナ」
「……はい。今なら、できる気がします」
リーナはそう言うと、少し前へと出た。
さっきと同じ動作で初級魔法・水球を発動する。
今度は魔力の流れからして、大変美しかった。
綺麗な水の渦が彼女の右手のひらの上で固まり、左手を添えることで放出される。
それはまっすぐに飛んでいき、木の真下にあった岩にうち当たった。
完璧と言える魔法制御であった。
それを見届けてから、俺は一つ頷く。
「うん、完璧に治ったな。よかったよ」
「先生、やはりあなたは本当に私の救世主です……! 本当に、あなたに会えてよかった」
後ろを振り返ったリーナは、ぼろぼろと涙を流しており、そのままこちらへ崩れこむように倒れこんできた。
よほどこの半年間、苦しみ続けていたらしい。
理事にまでなったというのに、自身が魔法をまともに扱えないという状態は、思いをやるだけで胸の奥が締め付けられる。
ただ泣き続ける彼女の頭を、俺は一つ撫でやる。
そのまま、しばらく慰めることとなったのであった。
♢
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!