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それだよ、と指さしたのは肉じゃがとおにぎりだ。
フラットの側においてやれば、皆興味津々だ。
「えっとね、こっちはおにぎり。ご飯をこんな形に握ってみた。それと、こっちはお芋とオークの肉を煮たものだよ」
へ~と言う皆と、朝食の皿を突き出すギルマス、マックスさん、ショルダーさん。
あははは、と俺は続きを食べることにした。
美味いなこれ! 叫んだのはギルマスだ。
煩いですよ、ギルマス。指で脇をつつけば、悪いと頭を下げる。
『終わったよ、ナギ。美味しかった~』
『そう、よかったね。こっちむいて、綺麗にしよう』
ん、とフラットが顔を上げる。
<クリーン>
ほら、きれいになったねと笑顔を送れば嬉しそうだ。
急がなきゃ、と残りの朝食を食べた。
じゃあ出かけよう。今日も領主様が宿泊できるようにしてくれているから休めるね。
宿の前に、それぞれの馬が並びはじめる。馬番がいる宿なので、準備は任せていたらしい。
フラットは椅子をつけてググンと大きくなった。
皆が騎乗し始めたので、俺も鐙に脚を掛ける。
出発する! とゆっくりスタートした。
王宮といっても、ここから十五分くらいで到着するので、前について行くだけだ。
大門で止められて、それぞれのギルドカードを確認された。
中に入れば、正面に回るように言われたので、方向転換だね。
王宮の入り口では領主様と文官が待っていた。
「待っていた。ナギ、フラットはそのままでいいからね。鞍だけは外せるか?」
はい、と一度降りてから椅子を外してもらった。
スルスルと縮む椅子を見て驚いているのは王宮の人かな。
アイテムボックスへ入れておしまいだ。
今、全員の武器を預かっている。そうでなきゃ、騎士団に預けることになるからだ。
帯剣していないと確認して首を捻る騎士だが、実際にないから仕方がない。
先を歩くのは近衛騎士だろうか。
きらびやかな騎士服を着てるんだけど、そんな格好で王様を守れるの? と聞いてみたい。
絶対怒られるよね。
こちらでお待ちを、と部屋に入れられた。
国王はどんな人なのかとギルマスに聞いたんだけど、領主曰く、いい人なんだけど、好色な人らしい。きれいな人間には目がないんだが、応じないものは追わないそうだ。それでもやる気のある者は、孤児であっても王宮で学ばせて、素質があれば騎士にするほどらしい。
ふうん、いい人なのかな。
あんまり好きになれそうにないけど。
ドアが鳴って、謁見の間へと通された。
全員で臣下の礼をとっているので、陛下の顔は見ていない。
「皆の者、許す、面を上げよ」
領主様が最初に顔を上げて、皆にあげるように言った。
ゆっくりと顔を上げれば、陛下はそれなりだったよ。ちょっと太りすぎかな。
「そなたたちの活躍は聞いておる。先日の異常をいち早く察知致し、魔物を狩り、周辺に処置をしたと聞いたが、間違いないか」
領主様がギルマスに振ったよ。
「直接の会話を許す、申せ」
あはは、直接話すのにも許可がいるんだね。
「ありがたき幸せ。国王陛下のお慈悲に対し厚く御礼申し上げます。では、お話しさせていただきます」
そう言ってギルマスは一連のことを話した。
俺が最初に異常に気づいたこと。その調査に向かったメンバーが今ここにいること。同じようなオークの襲来、そしてミノタウルスの襲来に対して、俺がメインとなって対処したことを話した。
もう少しオブラートに包んでくれればよかったのに、ギルマス~
「なんと、六歳の子供が冒険者であるのか? うん? そこに侍りおる白銀の髪のものか?」
左様でございます。お、領主様はさすが様になってますね。
「名はなんと申す。申してみよ。直接の会話を許す」
「はっ。国王陛下におかれましては、私のような平民に対してもそのようなお心深きお言葉をいただき、心より感謝致します。何分にも平民故、言葉遣いなど失礼があるやもしれませぬが、お許しいただけましょうか?」
「うむ。問題ない。そなたは六歳と聞いておるが、言葉遣いなど中々にして無難である。王宮で暮らさぬか? 我は孤児などを引き取り教育をさせ、騎士や文官として育成しておるのじゃ。そなたならば問題ない。冒険者として生きるのは何か理由があるのか?」
やっぱりこうなったか。じゃあ、はっきり断ろうかな。
「もったいないお言葉に感謝致します。ですが、平民の私がこのような高貴な場所で暮らすなど、考えたこともございません。私が冒険者を生業とするには理由がございます。三歳の時、目の前で両親が魔物に殺されました。ですが、母は命をかけて私を助けてくれたのです。それ故、私は魔物を狩る、そう決めました。同じような思いの子が苦しまぬような世界にしたいと存じます」
ふむ、と国王は考え込んだ。
これ、断ったらヤバイのかな。
「そうであるか。あっぱれである! 我は感激した。その志、その能力は領主より報告があった。そして、そなたの眷属であるシルバーウルフは王の子であると聞いた。お前が看取った王の子ならば、志をもってそなたを助けるであろう。頑張るのだぞ。何か異変があれば、我の元に報告せよ。我が聞き届けようぞ」
「ありがたき幸せでございます!」
ふぅ、何とかクリアしたかな。
でもフラットのことも認めてもらったからよかった。
「では、ここからは褒賞の話しである。宰相」
はい、と宰相殿が一歩前にでる。
「陛下よりのありがたき褒賞である。心して受け取るが良い。まず、領主殿。此度の功績に対して、領に対して金貨一千枚を授ける。そしてギルドマスター、マーレ・コクトー殿に対しては金貨二十枚。冒険者パーティ『蒼い翼』に対して金貨二十枚。冒険者ピットおよびショルダーに対してはそれぞれ金貨五枚。パーティ『草原の風』に対しては金貨五枚とする。なお、ランクにより差があるのは仕方がない。その上に特別褒賞として、各人に対して、金貨二枚ずつを授ける事とする」
あれ、俺はないの?
「なお、冒険者ナギおよびその眷属シルバーウルフ、フラットに対しては、陛下よりの特別褒賞があるので聞くように」
と、特別褒賞? なんかヤバくない?
「ナギ、そしてフラットよ。先刻より続いておった戦争時にも、珍しい薬草を採取して貢献してくれたと聞く。その上に今回の事である。六歳のそなたがオークはもちろん、ミノタウロスを三頭も狩ったときいた。どれほどの才能であろうか、我は感服致した。それ故、此度の褒賞の一部として、先日より根回ししておった、そなたのギルドランク昇格であるが、世界ギルド連合でも了承された。三歳で冒険者になってよりの全ての功績を検討致し、これからの活躍も期待して、世界のために戦って欲しいと願っておる。世界ギルド連合も、これ以後、問題なくそなたは大人同様のランクアップを認めると言う。それ故、この後ギルドへ向かうように」
他の冒険者たちに対してもギルドから話しがあるそうだ。後で必ず立ち寄るようにと言われている。期待が膨らむよね。
「そしてナギ、フラットに対しての報償金として、ナギには金貨十五枚、フラットには牛一頭分の肉を授ける故、受け取るが良い」
え? 十五枚って百五十万円てこと? それに牛一頭分の肉?
「ありがたき幸せ」
おっと、固まりそうだったよ。よかった、気がついて。
そんな一大事連発で謁見を終えた。
何も関係ないフラットは、美味しい肉が食べられると嬉しそうだ。
王宮を出る前に、後で肉の業者が宿に向かうと聞かされて驚いた。
王宮を出てフラットに乗ったけど、みんなも疲れてるみたいだ。
褒賞は目録をもらっているので、戻ってから領主様よりもらえるそうだ。でも肉だけは宿でアイテムボックスに入れろと言われた。
うん、美味しいものならいくらでも入れるけど。
領主様は屋敷に戻るそうで王宮前で別れた。
ギルマスをはじめとする俺たちはギルドに直行だ。宿で寝たいんだけど。
そんな風に思いながら皆の後を付いてゆく。
不穏な気配は、ずっと付いてきてるけど、気にするほど近寄っては来ない。それが変でしょ。
ギルドに到着して、皆は馬を厩舎に連れて行くので、俺は入り口でフラットから降りた。そして椅子を片付けて皆を待つことにする。
ここでもやっぱりあるんだね、屋台。
フラットはかなりでっかいので、入り口の壁近くで待っているんだけど、鼻だけはヒクヒクと動いている。
もうおやつの時間も過ぎてるからなぁ。
普通、肉串とかサンドイッチとかが多いけど、ここは違うみたい。竹の皮みたいな器、そう、たこ焼きの船みたいなやつに薄焼きのステーキが置かれている。
これ、すごいな。こんな入れ物があったらいろいろ入れられる。
嬉しくてすぐに買いたいと思うけど、皆が来ないから動けない。
『ナギ、あのお肉食べてみたい』
『そうだね。俺もだよ。ちょっと買ってみる?』
うん! 元気な声を聞いて二人で屋台に向かう。
「すみません、一枚下さい」
あいよ、と竹の船に乗せてくれる。
お金を払ってフラットに差し出せば、ペロッと一枚食べちゃった。
『美味しいよ。もっと食べたい』
そうなの?
「すぐに焼けますか?」
「ああ。いい肉だからすぐ焼けるぞ」
じゃあできるだけと頼む。皆が来るまでだよとフラットに言えば、ふぁふっと鳴いた。
重ねてくれていいからと言えば、どんどん盛ってくれる。一つの船に五枚ずつだ。本当にすぐ焼けるんだね。まあ、鉄板も熱そうだし。
それにしても遅いなぁ。
どうしたんだろ、皆。
とりあえず、気配を探ってみる。
ん? 厩舎にいるみたいだけど、戦ってるの?
「フラット、皆が厩舎で襲われてるみたい。おじさん、それでいいです。いくらですか?」
金を払えば、袋に入れてくれた。
それをアイテムボックスに入れてかけ出す。
俺は六歳だから早く駆けることは難しい。
『ナギ、先に行く!』
『お願い!』
じゃあ、と駆け出したフラットはすぐ先の角を曲がった。
俺ももう少しで角までたどり着く。
何とか角を曲がったとき、衝撃があった。
なに、これ……
身体中にビリビリと刺激が通り抜ける。
魔法? 雷の魔法かな。
でも違う気がする。あれ、これってスタンガンみたいなやつだけど。
これは離れなきゃダメだ。
火の壁を作って後に下がると、相手は慌てて下がる。
皆は戦ってるから自分で何とかしなくちゃ!
フードを目深にかぶったやつらは五人。
これくらいなら大丈夫だ。
ヒールを自分に掛けて、相対する。
裏に行く路地に入ったから、誰も気づいていない。
それならそれでいいかもしれない。魔法が使えるし。
ショートソードを引き抜いて相対する。
次は何がくるんだろう。
一番奥にいるやつは魔法使いだと思う。詠唱をはじめたから。それなら詠唱を止めるでしょうよ。
<氷の弾丸>
バン! と指拳銃が炸裂する。
ぐえっと唸って、男は倒れた。
やっと戦いが終わったみたい。それなら来てくれるはずだ。
『ナギ!』
フラット! と叫んだ俺をみて半分は後を振り返った。
うわぁぁぁぁぁぁーーー
驚いてこちらに掛けてきたのが問題だ。
ショートソードを構えて一人目の腕を切り落とす。後ろから飛んできたのはミミカさんの魔法だね。
次の男もなぎ払って、次はと思った時には、マックスさん、ショルダーさん、ピットさんが一人ずつ、腕や脚を切り裂いていた。
それなら、と口の中に氷の玉を押し込むイメージで自決しないようにした。
ここで緊張が切れたのか、ガクッと身体が沈む。
『ナギ、大丈夫?』
「うん、大丈夫。皆は?」
『悪い人は皆が拘束したよ。柱にくくってるから。立てる?』
ゆっくりと身体を起こしてみるけど、力が入らない。だろうね、感電したんだし。
「ナギ!」
マックスさんが駆け寄ってきて俺を抱きあげる。その隣をすり抜けたのはギルマスだ。
他の人は? と聞けば、裏で悪人を監視しているらしい。じゃあ、とフラットはここにいたやつらの服を咥えて背中に放り上げる。ピット! とマックスさんが叫べば掛けてきた。
「こいつらをギルドの中へ。フラットの背中に放り上げて連れてこい」
了解、と次々放り上げて行く。
マックスさんは俺を優しく抱いたままギルドの入り口を入った。
「だからギルマス呼べ! そうじゃなきゃ、国王陛下に連絡する! さっき謁見が終わったところだ、すぐに話しが通るだろうよ!」
あはは、ギルマスが切れてるよ。
マックスさんが声をかければ、大丈夫かと振り返った。
「これはどうしたことだ。マーレ、何やってんだ」
「何やってんだじゃねぇよ。こいつが襲われた。裏で俺たちが襲われていたから、こいつは眷属を向かわせたんだ。だが、なぜだかこの有り様だ。理由はまだわからない」
なんだと?
その時、今までで一番大きな姿のフラットが入り口を入ってくる。背中にあいつらをのっけて。
「とりあえず、厩舎に俺たちを襲ったやつらをひっくくってる。うちの連中が見張ってるから連れに行ってくれ。で、どこか場所を貸せよ。このままじゃ治療もできんだろ」
おう、と食堂に向かって声を張り上げる。
「そこのSランク二人、そうお前らだ。裏にいって冒険者が見張ってる悪いやつ連れてこい。俺の部屋だ、早く行け!」
うっす、と立ち上がったのはでっかい二人だ。
出て行ったと言うことは裏に向かったんだろう。それにしても、かなりきつかったんだね、あのスタンガン。
皆が気になって失敗した。
「ソファに寝かせるか?」
「いえ、大丈夫です。座っていいですか?」
マックスさんは僕を抱いたまま腰を下ろした。
フラットは隣りに座って顔をのぞき込んでくれる。
「で、どうした?」
「ナギのことは本人に聞くまでわからん。こいつがこれくらいのやつにやられるわけない。何かあったはずだ。それと裏にいたやつらは俺たちが馬を下りた時、どっかから現れた。っていうか、こいつら治療しなきゃ血が流れすぎて死ぬぞ。治療師は?」
いない。
「回復魔法が使えるやつは?」
いない。
「なんでいないんだよ。じゃあ、しょうがねぇな。死ぬまで待てばいい」
そうだな、と頷くギルマスだけどいいのかよ!
二人の会話で少しだけ楽になった。
フラットに手を伸ばして、顔を撫でれば、心が溶けていく気がした。