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第7話 花弁に秘めた恋心
マリが屋敷へやって来てから、幾日かが過ぎた。
朝の食卓には、以前よりも少しだけ賑やかな声が増えた。廊下を歩く小さな足音も、庭から聞こえる楽しげな声も、今では屋敷の日常に溶け込みつつある。
けれど、マリを迎えた七人の吸血鬼たちが、皆そろって彼に心を許したわけではない。
ある者は、古い記録に記された特別な血の持ち主として彼を見つめている。
ある者は、これまで出会ったことのない人間への興味を抱いている。
そして、ある者たちは――いつしか、血の価値など忘れてしまうほど、ひとりの少年に心を奪われ始めていた。
*
午前の談話室。
窓辺のテーブルには紅茶と菓子が並び、レイは手元の書類に目を落としていた。ルイは隣のソファで退屈そうに足を揺らし、ジンは背もたれに腕を掛けてくつろいでいる。
朔は静かに茶を口に運び、ルカは一冊の本を読み進めていた。
ニコは窓際の花瓶に飾られた花を整えている。セシルはティーカップの位置を直しながら、時折、壁時計へ視線を向けていた。
ルイ:「ねえ、今日は庭に行ってもいいかな?」
レイ:「庭なら好きにすればいいだろう」
ルイ:「マリも誘おうと思って!」
レイ:「……そうか」
ルイ:「なに、その反応。兄さん、興味ないの?」
レイ:「本人が行きたいなら付き合えばいい。無理に誘う必要もないだろう」
ルイ:「はーい。相変わらず冷静だねえ」
ルイは楽しそうに笑い、今度はジンへ顔を向けた。
ルイ:「ジンは? 今日もマリと遊ぶの?」
ジン:「お、なんだよ。俺の予定が気になる?」
ルイ:「別にー。ただ、最近よく一緒にいるなって思っただけ」
ジン:「そりゃ、マリといると楽しいからな」
軽い口調だった。
けれど、その言葉に迷いはない。
マリの笑顔を思い浮かべるだけで、自然と口元が緩む。彼が何かを知って目を輝かせる瞬間も、名前を呼ぶと振り返ってくれる仕草も、いつの間にかジンにとって待ち遠しいものになっていた。
ルイ:「ふうん。じゃあ、今日も誘ってみようかな」
ジン:「……お前も?」
ルイ:「うん。だって、マリと遊ぶの楽しいし!」
ジン:「……まあ、好きにすれば?」
口ではそう言いながら、ジンの目がほんのわずかに細くなった。
ルイは気づいていないのか、気づいていて面白がっているのか、いたずらっぽく笑っている。
ニコ:「ふふ。マリは、みんなに構ってもらえて忙しそうだね」
ルイ:「そうなの! だから今日は僕が先に誘うんだ」
ニコ:「あまり困らせないようにね。マリが疲れてしまうかもしれないから」
ルイ:「わかってるって!」
ニコは柔らかく微笑み、花瓶の白い花をそっと回した。
彼にとって、マリはまだ興味深い少年のひとりだった。
何を見ても新鮮そうに喜び、花を見つければ足を止める。そんな姿を眺めるのは、確かに楽しい。
けれど、今のニコにとって、それは恋とは違う。
花を愛でるように、少しずつ彼のことを知っていければいい。そう思っているだけだった。
ルカ:「……ところで、セシル」
セシル:「はい、ルカ様」
ルカ:「マリは今日は何をする予定なんだ?」
セシル:「特に決まった予定はございません。ご本人が望まれることをなさると伺っております」
ルカ:「そうか」
ジン:「……へえ。気になるんだ?」
ルカ:「昨日、読書の続きをする約束をした。それだけだ」
ジン:「ふーん。じゃあ、今日は書斎で待ってるわけ?」
ルカ:「待ってはいない。来るなら本を用意しておくというだけだ」
ジン:「はいはい」
ジンは笑ったが、その声にはわずかな棘があった。
セシルはそれを聞き流しながら、時計へ目を向ける。
マリは、もうすぐここへ来るだろう。
そう考えるだけで、胸の奥が静かに浮き立つ。
セシル:「……マリ様のお茶も、用意しておきましょう」
ジン:「お、さすが執事サマ。マリのことになると早いねえ」
セシル:「お客様をお迎えする準備をするのは、当然のことでございます」
ジン:「俺は別に、何も言ってねえけど?」
セシル:「……ジン様」
そのとき、扉が開いた。
マリ:「みんな、おはよう!」
ぱっと顔を覗かせたマリに、ルイが真っ先に手を振る。
ルイ:「マリ! こっちおいでよ!」
マリ:「なぁに?」
ルイ:「今日、庭で遊ぼうよ。面白いもの見つけたんだ!」
マリ:「面白いもの?」
ルイ:「うん。来てからのお楽しみ!」
マリ:「ほんと? 見たい!」
ルイ:「よし、決まり!」
ジン:「……おいおい。ずいぶん早いな」
ルイ:「早い者勝ちだもん!」
ジン:「はいはい。じゃあ、俺は午後に誘うとするかな」
セシル:「その前に、マリ様。お茶はいかがですか?」
マリ:「飲みたい!」
セシル:「かしこまりました」
セシルは手際よくカップを差し出した。マリが両手で受け取ると、彼の指先が一瞬だけ、その手に触れる。
ほんのわずかな接触。
けれどセシルは、離れた指先をすぐには動かせなかった。
マリ:「ありがとう、セシル」
セシル:「……どういたしまして」
ジンはその様子を横目で見て、わざとらしく息をついた。
ジン:「なあ、マリ。あとで俺とも庭を歩こうぜ。昨日見た花、また咲いてると思うし」
マリ:「うん! 行きたい!」
ジン:「約束な」
マリ:「うん!」
ジンは満足そうに笑った。
その笑顔を見て、セシルは静かに眼鏡の位置を直す。
ジン:「……なんだよ、その顔」
セシル:「何のことでしょう?」
ジン:「いや、別に?」
マリ:「ふたりとも、どうしたの?」
ジン:「なんでもねーよ」
セシル:「お気になさらず」
ふたりの返事が重なった。
マリは不思議そうに首を傾げたが、すぐに紅茶へ意識を戻した。
その様子を見て、ニコがくすりと笑う。
ニコ:「マリは、みんなと仲良くなるのが上手だね」
マリ:「そうかな? みんな、いろんなこと教えてくれるから楽しいよ」
ニコ:「それなら、今度は僕も何か教えてあげようかな」
マリ:「ほんと?」
ニコ:「うん。温室に、新しい花が咲いたんだ。あとで見に来ない?」
マリ:「行きたい!」
ニコ:「ふふ。じゃあ、あとでね」
ニコは穏やかに微笑んだ。
この時はまだ、その約束が自分の心を大きく変えることになるとは、思ってもいなかった。
*
温室へ向かったのは、昼を少し過ぎたころだった。
硝子の天井から降り注ぐ光が、葉の表面を透かしている。湿った土の匂いと、さまざまな花の香りが静かに混ざり合っていた。
ニコは温室の奥で、白い花の鉢を整えていた。
扉が開く音に気づき、振り返る。
マリ:「ニコ!」
ニコ:「やあ、マリ。来てくれたんだね」
マリ:「うん! 新しい花って、どれ?」
ニコ:「こっちだよ」
案内された先には、小さな白い花が咲いていた。
幾重にも重なる花弁は薄く、中心には淡い黄色が覗いている。大きく目立つ花ではない。けれど、光を受けたその姿は、ひそやかな美しさを湛えていた。
マリ:「わあ……きれい!」
ニコ:「昨日、ようやく花開いたんだ。まだ蕾も残っているから、これからもっと咲くと思うよ」
マリ:「ちっちゃくて、かわいいね。ぼく、こういう花も好き」
ニコ:「ふふ。マリは白い花が好きなんだね」
マリ:「うん。見てると落ち着くんだ」
ニコ:「どうして?」
マリは少し考えた。
マリ:「……なんとなく。白い花って、静かだから」
ニコ:「静か?」
マリ:「うん。何も言わないけど、そこにいてくれるでしょ?」
その答えに、ニコは柔らかく目を細めた。
ニコ:「……なるほど。そういう見方もあるんだね」
マリ:「ニコは、どうして花が好きなの?」
ニコ:「そうだねえ。花は、見ているだけでいろんなことを教えてくれるからかな」
マリ:「花が?」
ニコ:「うん。咲く時期も、香りも、育ち方も、それぞれ違うでしょう。同じ花でも、置かれた場所や光の当たり方で少しずつ姿が変わるんだ」
マリ:「へえ……」
ニコ:「それに、花は無理に急がない。蕾は蕾のままで、咲くときが来るのを待っている。そういうところが好きなんだ」
マリは花を見つめ、ゆっくりと頷いた。
マリ:「……なんだか、いいね」
ニコ:「そう思う?」
マリ:「うん。ぼくも、いろんな花を見てみたいな」
ニコ:「それなら、僕が案内してあげるよ。ここには、まだ見せていない花がたくさんあるからね」
マリ:「ほんと? やった!」
嬉しそうに笑うマリを見て、ニコも自然と頬を緩めた。
彼は、マリが何かを知って喜ぶ姿が好きだった。
それは、珍しい生き物を観察するような好奇心に近いものだったのかもしれない。何を見ても新鮮に受け止める彼の反応は、長い年月を生きてきたニコにとっても、どこか新鮮だった。
ニコ:「じゃあ、今日は花の植え替えもしてみようか」
マリ:「ぼくもできる?」
ニコ:「もちろん。僕が教えてあげる」
マリ:「うん!」
*
作業台の上には、小さな鉢と新しい土が用意されていた。
ニコが根の扱い方を説明し、マリがそれを真似る。最初は慎重だった手つきも、少しずつ慣れていった。
マリ:「……あっ」
土が、ぱらりと床へ落ちた。
マリ:「ごめん、こぼしちゃった」
ニコ:「大丈夫だよ。土は逃げたりしないからね」
マリ:「ふふ、そっか」
ニコ:「そうそう。慌てなくても大丈夫」
ニコは小さな箒を差し出した。
マリはそれを受け取り、真剣な顔で土を集め始める。
その横顔を眺めながら、ニコは不思議な心地よさを感じていた。
普段、彼はひとりで花の世話をすることが多い。静かな時間は嫌いではないし、むしろ好んでいた。
けれど、こうして隣で一生懸命に作業をする相手がいるのも、悪くない。
ニコ:「マリは、思ったより器用なんだね」
マリ:「そうかな? ニコが教えてくれるからだよ」
ニコ:「ふふ。褒め上手だね」
マリ:「ほんとのことだよ?」
まっすぐな瞳がこちらを見上げる。
ニコは一瞬、返事に詰まったあと、いつものように笑った。
ニコ:「……ありがとう」
その後もふたりは、土を入れ替え、水を含ませ、根を傷めないように花を植え直した。
作業が終わるころには、マリの指先はすっかり土で汚れていた。
マリ:「できた!」
ニコ:「うん。上手にできたね」
マリ:「ちゃんと育つかな?」
ニコ:「大丈夫。ここで大切に世話をしていけば、きっと綺麗に咲いてくれるよ」
マリ:「よかった……」
安堵したように息をつくマリを見て、ニコは小さく笑った。
ニコ:「そんなに心配していたの?」
マリ:「うん。せっかく植えたのに、枯れちゃったらかわいそうだから」
ニコ:「優しいね、マリは」
マリ:「そうかな?」
ニコ:「うん。自分が失敗することより、花のことを心配するんだもの」
マリは少し照れたように笑った。
マリ:「だって、花は何も悪くないよ」
その言葉に、ニコの笑みがふと静まった。
何も悪くない。
マリが当たり前のように口にしたその言葉が、妙に心に残った。
ニコ:「……そうだね」
彼はそれ以上、尋ねなかった。
マリが村でどんな日々を過ごしていたのか、すべてを知っているわけではない。けれど、彼が花を大切にする理由の奥には、簡単には触れられないものがあるのだろう。
ニコは、土で汚れたマリの頬に気づいた。
ニコ:「マリ、少しじっとしていてね」
マリ:「え? なに?」
ニコ:「頬に土が付いているんだ」
取り出したハンカチで、そっと頬を拭う。
マリはくすぐったそうに肩をすくめた。
マリ:「ん……くすぐったい」
ニコ:「あ、ごめんね」
マリ:「ううん。大丈夫」
指先が、柔らかな頬に触れる。
ただ汚れを拭き取るだけの、何でもない仕草。
なのに、ニコは思いのほか近くにあるマリの顔に、少しだけ目を奪われた。
白い肌。長い睫毛。こちらを疑うことなく見上げる瞳。
ニコ:「……はい、取れたよ」
マリ:「ありがとう、ニコ」
マリは嬉しそうに笑った。
その笑顔に、ニコの胸の奥がかすかに温かくなる。
花を見せて喜んでくれるのが嬉しい。
教えたことを覚えてくれるのが嬉しい。
そして今は、こうして自分のすぐ近くで笑ってくれることが、なんとなく心地よかった。
ニコは、その感情にまだ名前を付けなかった。
*
植え替えを終えたあと、マリは作業台の脇に置かれた花瓶を見つけた。
そこには、淡い色の花がいくつも飾られている。
マリ:「この花も、ニコが育てたの?」
ニコ:「そうだよ。こちらは少し前に咲いたものだけどね」
マリ:「すごいなあ。ニコは、花のことなら何でも知ってるんだね」
ニコ:「何でも、というわけではないよ。僕だって、知らないことはたくさんある」
マリ:「そうなの?」
ニコ:「うん。だから、今でも新しい花に出会うと嬉しいんだ」
マリは花瓶を覗き込んだ。
マリ:「じゃあ、ぼくもニコと一緒に、知らない花を見つけたいな」
ニコ:「……僕と?」
マリ:「うん。ひとりで見るのも好きだけど、誰かと一緒に見るのも楽しいから」
その言葉に、ニコは静かに瞬きをした。
誰かと一緒に見る。
そんなことを、深く考えたことはなかった。
花は、そこに咲いているだけで美しい。ひとりで眺めていても、その美しさが損なわれることはない。
けれど、マリが隣にいると、同じ花が少し違って見える。
彼が何を美しいと思うのか。どんな花に足を止め、どんな香りに目を細めるのか。
それを知るのは、思っていたよりも楽しいことだった。
ニコ:「……そうだね。今度は、庭の奥にある花壇も見に行こうか」
マリ:「いいの?」
ニコ:「もちろん。まだ、マリに見せていない花がたくさんあるからね」
マリ:「やった!」
弾んだ声が、温室に響く。
ニコはその笑顔を見て、ふと気づいた。
自分は今、花を見せることそのものよりも、マリが喜んでくれることを楽しみにしている。
その違いが何を意味するのか、まだわからない。
ただ、次に彼が来る日が、少し楽しみになっていた。
*
夕暮れが近づき、温室の硝子に淡い茜色が映り始めた。
マリは植え替えた鉢をもう一度眺め、それから名残惜しそうに顔を上げた。
マリ:「……もう帰る時間?」
ニコ:「そうだね。そろそろ夕食の支度が始まるころかな」
マリ:「そっか」
小さく呟いた声に、少しだけ寂しさが滲んだ。
ニコは首を傾げた。
ニコ:「どうしたの?」
マリ:「ううん。楽しかったから、もう終わりなんだなって思って」
ニコは、思わず微笑んだ。
ニコ:「……それなら、また来ればいいよ」
マリ:「ほんと?」
ニコ:「うん。マリが来たいと思うなら、いつだって歓迎するよ」
マリ:「じゃあ、また明日も来ていい?」
ニコ:「……もちろん」
返事は、考えるよりも早かった。
マリは嬉しそうに笑い、小指を差し出した。
マリ:「約束ね」
ニコ:「……約束?」
マリ:「うん。明日も一緒に花を見るの」
ニコは一瞬、目を丸くしたあと、柔らかく笑った。
ニコ:「ふふ。いいよ」
彼はその小指に、自分の指をそっと絡めた。
指先が触れ合う。
ほんの小さな仕草だった。
けれど、マリが指を絡めたまま嬉しそうに笑うものだから、ニコはすぐに手を離せなかった。
ニコ:「……マリ」
マリ:「なぁに?」
ニコ:「君は、こういう約束をよくするの?」
マリ:「ううん。あんまりしたことないよ」
ニコ:「……そうなんだ」
マリ:「でも、ニコとはしたかったの」
その言葉に、ニコの心が静かに揺れた。
マリは深い意味など考えていないのだろう。
明日も花を見たい。今日が楽しかったから、また同じ時間を過ごしたい。
ただ、それだけ。
それだけなのに、胸の奥に温かなものが満ちていく。
ニコ:「……そっか」
ようやく指を離す。
離れた指先が、ひどく名残惜しかった。
マリ:「じゃあ、また明日ね!」
ニコ:「うん。また明日」
マリは手を振りながら、温室を出ていった。
ニコは、その姿が見えなくなるまで扉のそばに立っていた。
*
ひとりになった温室には、再び静けさが戻っていた。
ニコは作業台へ戻り、先ほど植え替えた花を見つめた。
小さな白い花は、夕暮れの光を受けて、かすかに揺れている。
ニコ:「……明日も、か」
呟いた声は、いつもより少し柔らかかった。
明日になれば、マリが来る。
今日は見せられなかった花を見せよう。彼が好きそうなものを探しておこう。新しく咲いた花があれば、いちばんに教えてあげたい。
そんなことを考えている自分に、ニコは小さく笑った。
ニコ:「……僕も、ずいぶん楽しみにしているんだね」
花を育てることは、長い年月の中で身についた習慣だった。
咲くまで待つ。枯れないように世話をする。花が開けば、その姿を静かに楽しむ。
それは、ずっと変わらない日々だった。
けれど今は、花が咲くたびに、マリに見せたいと思う。
マリが喜んでくれる姿を想像して、少しだけ胸が弾む。
花を見ていると、彼の笑顔が浮かぶ。
ニコ:「……ああ、そうか」
彼はそっと目を伏せた。
いつの間にか、花を愛でる時間の中に、マリが入り込んでいたのだ。
それは、花を好きでいる気持ちとは、少し違う。
誰かに何かを教えたいと思うこと。
その人が喜ぶ顔を、もう一度見たいと願うこと。
別れ際に、また明日と約束できたことを嬉しく思うこと。
それらが積み重なって、胸の奥に小さな感情を育てていた。
ニコ:「……困ったなあ」
いつもの、のんびりとした声。
けれど、その笑みはどこか頼りなかった。
自分が誰かをこんなふうに気にかけるようになるとは、思っていなかった。
ましてや、相手は人間の少年だ。
古い記録に記された特別な血を持ち、吸血鬼たちの関心を集めている存在。
それでも、今のニコが考えているのは、彼の血のことではなかった。
明日、どんな花を見せよう。
またあの笑顔を見られるだろうか。
次に小指を差し出されたら、今日よりも少しだけ長く、その手を握っていてもいいだろうか。
ニコは自分の手を見つめた。
そこにマリの指先が触れていたことを思い出し、かすかに笑う。
ニコ:「……また明日、だね」
その言葉を、今度は誰にも聞かせずに胸の中で繰り返した。
花が咲くのを待つように。
いつかこの想いがどんな花を咲かせるのか、まだ知らないまま。
ニコの心にもまた、ひとつの恋が芽吹き始めていた。
コメント
1件
ニコ視点の回、めっちゃ良かった……!花の植え替えとか小指の約束とか、さりげない仕草のひとつひとつに「好き」が静かに育っていく感じが丁寧に描かれてて、心がじんわりした。特に「花を愛でるように彼を知っていく」ってニコのスタンス、めちゃくちゃ素敵。笑顔ひとつでこんなに日常が彩られるって、マリってほんと特別な存在なんだなあ。次、どんな花見せてくれるのか楽しみ!