アメリカ視点
あの文化祭から、もう一ヶ月が過ぎた。
校庭の木々はすっかり色を変えて、風に舞う葉が教室の窓に当たる。
時間が経ったはずなのに、俺の中ではあの日の光景がまだ残っている。
モブ子は、もう学校にいない。
何がどうなったのか、詳しいことは誰も話さない。
けれどクラスの空気は妙に静かで、誰もその名前を口にしない。
その沈黙が、まるで平和の証みたいに扱われている。
日本は前より少し穏やかになった。
笑うことも増えたし、以前みたいに怯えるような目はしなくなった。
でもその笑顔の奥には、俺しか知らない影がある。
それが俺には、どうしようもなく愛おしい。
放課後、並んで帰る道。
いつものように日本が言う。
「今日も、ありがとうございました」
その言葉を聞くたびに、胸の奥が温かくなって、少し痛くなる。
──俺は日本を守れたのか?
それとも閉じ込めただけなのか?
そんな問いが時々浮かぶ。
けれど、答えを出す気はない。
日本が俺のそばにいて、笑ってくれるなら、それでいい。
「アメリカさん」
「ん?」
「最近、よく眠れてますか?」
「はは、心配してくれるの?」
「……はい。アメリカさんが倒れたら、僕が困ります」
その言葉に、思わず笑った。
やさしい言葉なのに、心のどこかがぞくりとする。
日本の声の中にも、俺と同じ“重さ”があった。
いつの間にか、俺たちは似てきたのかもしれない。
支え合うように見えて、互いの重さで立っている。
離れたら、きっとどちらかが倒れる。
そんな危うい均衡の上で、俺たちは“普通”を演じている。
学校を出ると、空が茜色に染まっていた。
日本が少し眩しそうに目を細める。
その横顔を見て、俺は心の中で小さく呟いた。
──もう、いいよな。
このままで。
完璧じゃなくても、
世界が少し歪んでいても、
日本が笑うこの瞬間が続くなら、それで十分だ。
「日本、明日も一緒に帰ろうな」
「はい」
その短い返事が、なぜかやけに温かかった。
夕焼けの光が二人の影を伸ばす。
その影が重なったまま、ゆっくりと夜に溶けていった。
以上です。
何書こうか迷ってるんで、しばらく投稿無くなるかもしれません。
現在リクエスト募集中です。
コメント
5件
一気読みさせていただきました✨一話ごとに叫ばさせて貰いました!、不穏っぽいのもいいですね🙂↕️もっと伸びないのですかね🧐
初コメ失礼します。 最ッ高でしたぁ…!!ちょっと不穏な感じなのもめちゃめちゃ良いッ…! リクエストよろしいでしょうか?