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えみ
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えみ
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放課後のダンススタジオには、まだ昼間の熱気がうっすらと残っていた。大きな鏡の前に腰掛け、ふみのりはスマートフォンの画面を指でなぞっている。隣では、ゆうまがタオルで汗を拭いながら、自分のボトルからゴクゴクと水を飲んでいた。
普段の二人の関係性といえば、ふみのりが仕掛け人だ。
「ねえゆうま〜、今日の服かっこいいね」
「ゆうま、そこ踊り方教えてよ〜」
と、何かと理由をつけてはちょっかいを出し、ゆうまが
「うるさいな、後にして」
「自分で考えなよ」
とつれない態度をとるのがいつものパターンだった。いわゆるツンデレなゆうまの冷たい反応を、ふみのりはどこか楽しんでいる節があった。
「ふぁ……疲れたなぁ」
ふみのりが大袈裟に息を吐きながら背もたれに体を預けると、ゆうまはチラリと視線を送ってきたものの、すぐに気のない様子でスマホに目を落とした。
(まあ、今日もいつも通りか)
そう思ったふみのりは、特に気に留めることもなく、自分の作業に戻ろうとした。……その時だった。
スッと息が掠れる音がして、不意に肩に重みがかかった。
「……ん?」
驚いて横を見ると、ゆうまがふみのりの肩にぽてんと頭を乗せていた。柔らかい髪の毛がふみのりの首元にあたって、少しこそばゆい。
「……ゆうま?」
突然の行動に固まるふみのりをよそに、ゆうまは肩に頭を乗せたまま、小さくあくびをした。
「……なに、だめなの」
「いや、だめじゃないけど……珍しいなって。熱でもあるの?」
いつもなら「触らないで」と自分から距離を置くようなタイプなのに、まさかゆうまから距離を詰めてくるとは思いもしなかった。ふみのりが顔を覗き込もうとすると、ゆうまは少し不機嫌そうに鼻を鳴らし、肩に顔をうずめて隠してしまった。
「熱なんかないし。……ただ、ちょっと疲れただけ」
「ふーん……疲れただけ、ねぇ?」
ふみのりの口元がニヤりと歪む。普段なら絶対にあり得ないシチュエーションに、いたずら心がくすぐられた。
「いつもは俺が近づくと『ウザい』とか言うくせに〜。今日は甘えん坊さんなのかな?」
「……うざ。やっぱり降りる」
ゆうまが身体を起こそうとしたので、ふみのりは慌ててその肩を抱き寄せ、元の位置に戻した。
「冗談だって! 逃げないでよ、せっかくゆうまから来てくれたんだからさ」
「……別にお前に甘えてるわけじゃないから。ただの枕代わり」
強がりな言葉とは裏腹に、ゆうまはそれ以上抵抗しようとはせず、おとなしくふみのりの肩に頭を預け直した。力みが抜けた身体の重みが心地よく伝わってくる。
スタジオの中には、エアコンの静かな稼働音だけが響いていた。いつもなら、ふみのりがマシンガントークを繰り広げてゆうまを呆れさせるところだが、今日ばかりは言葉を発するのが勿体なく思えた。
しばらくそのままの体制で過ごしていると、ゆうまの規則正しい寝息が聞こえ始めた。
「……本当に疲れてたんだな」
ふみのりは苦笑しながら、ゆうまを起こさないようにそっと自分の上着をかけ直してあげた。素直じゃないけれど、ふとした瞬間に頼ってくれるそのギャップに、胸の奥が少しだけ温かくなる。
いつもちょっかいを出しているのは自分だけど、たまにはこういう「甘やかしタイム」も悪くないなと、ふみのりは静かに目を閉じ、ゆうまの寝顔を横目で見守るのだった。