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翌朝。
フィオナは朝から身支度に追われていた。実家に帰るだけだが、ヴィレームという婚約者を伴い帰省するのだ。しかも彼は正式に結婚の挨拶をしたいと言ってくれている。せめて彼の婚約者として恥じない装いをしたいと気合いが入る。ただこれは自己満足に過ぎないが。
両親達はどうな反応を見せるのか、今から不安と怖さがある。本音では挨拶など行かなくていいと、思う。あの人達が、自分達の事を祝福してくれるなんて事は到底あり得ない。きっとヴィレームにも、嫌な思いをさせてしまうかも知れない。
だが、彼の誠実な想いに応えたい。だから、行く事を決めた。
それに、ヨハンの事も気掛かりであるし、ちゃんと話し合う良い機会でもある。
「ありがとう、シビル」
いつも以上に丁寧に衣服や髪を整えてくれたシビルに笑顔で礼を述べる。最後に仮面をつけて準備は終わりだ。
「お気を付けて、行ってらっしゃいませ」
クルトやシビルに見送られ、フィオナは馬車に乗り込む。ヴィレームが遅れて乗り込もうとすると、後ろから物凄い速さの影がついてきて、彼の頭を踏み台にしてピョンっと飛び乗って来た。
キュルゥ〜。
「フリュイ⁉︎ついて来ちゃったの?」
甘えた声で鳴きながら、ぽすんっと音を立てて、フィオナの膝に収まった。そして更に馬車の外から声が聞こえて来る。
「嫌あぁ〜、私もフィオナちゃんのお家に行きたいのぉ〜」
「迷惑以外の何ものでもないから、やめろ!」
窓から外を見るとシャルロットとブレソールが何やら揉みくちゃになっていた……。一応淑女であるシャルロットを羽交い締めにするなんてと、苦笑する。相変わらず激しい愛情表現だ……。
「出して」
その時、バタンっと扉がしまる音が聞こえると同時に大きく揺れ馬車が動き出した。
「全く、煩くて仕方ないよ」
ヴィレームは、フィオナの向かい側ではなく横に寄り添う様に腰を下ろした。そして手を握られる。
「本当は二人きりの予定だったのにさ、とんだオマケがついて来たもんだ」
キュルゥー‼︎
ヴィレームがそう言いながら、フリュイを突っ突くと、毛を逆立てて威嚇する。フィオナの使い魔だからなのかは分からないが、フリュイはフィオナ以外には全く懐かない。特にヴィレームには塩対応だ。
もしかして、恥ずかしがり屋なのかしら……。
「本当、可愛くないよ……って、痛っ‼︎」
ヴィレームの呟きに、フリュイはフィオナと繋いでいる方の手をガブっと思いっきり噛んだ。
「ヴィレーム様!大丈夫ですか⁉︎」
「う、うん、大丈夫だよ。歯形はついてるけど……」
「フリュイ!ヴィレーム様に謝りなさい」
プイッとそっぽを向き膝の上に座り直すと、そのまま寝てしまう。
「申し訳ありません、ヴィレーム様……。フリュイも悪気がある訳ではないと思うんです」
「あはは…………寧ろ悪意しか感じられないけど」
「?」
軽く笑った後、何かを呟いていたが良く聞き取れなかった。
「何でもないよ」
やはり、ヴィレームは寛大な人だ。歯形がつく程噛まれたと言うのに笑って赦してくれるなんて……とフィオナは感心した。