※五話目、続き
ロシアは振り返らなかった。
「…………平和ってね、父さんが作れなかったものなんだって。作ろうとしても、……いや、作っても作っても壊れてしまうものなんだって。父さん、話してくれた時、悔しそうだった……。でも僕、さっぱり分からなくて」
ロシアが若干、泣きそうな声でそう言ったのは、その直後だった。
「は………?………え?」
フィンランドは身を固まらせた。ロシアが怪訝そうに振り返る。
「だから……父さんが作r」
「いや意味は理解った」
「それなら、何?」
「……………いや」
無意識に口許に手を当てがっていた。
「ソビエトが……平和を実現出来なかったって……そう言ったって言うのか?」
おかしな話だが、フィンランドは、自分の中に芽生えた殺意が、見る間に勢力を失っていっているのに気づいた。声が震えそうになる。
「それ、ソビエトが……本当にお前のお父さんが、そんなこと言ったのか?」
「………?うん」
そうだけど、と答えたロシアの目の前で、フィンランドは、自分の顔が歪んでいくのを感じた。
まさか、ロシアが嘘をついているとも思えない。(こんな幼い子供に、そんなに器用なことができるとも考えられなかったが。)そもそも嘘をついたところでロシアには何のメリットもないはずなのだ。であるならば、ロシアが言ったことが本当だとして……ソビエトが、自分が平和を作れなかったことを認めた?自分が不利になるようなことは絶対に言わない男だった。そんな、弱気すら感じられることを言うだなんて、正直、思ってもみなかったし今でも信じられない。でも、本当に───それが本当なのだとしたら。
フィンランドはハッとして、ジッパーから手を離した。
(クソッ……なんで、んなこと考えちまったんだろう……)
たとえ今、この子を殺したとしても何にもならない。自分の欲求は一時的には満たされるだろうが、それだって単なる一過性のものだ、目覚めが悪くなることには変わりない。それどころか新たな惨劇を生み出しかねない。
だったら今、自分にできることなど一つしかない。
フィンランドは、伏せていた目を上げた。
「ロシア。平和の意味を、知りたがってたな。………教えてやるよ、平和の意味を。分かりやすく、かつ端的に」
ロシアは目を輝かせた。
「ホント⁉︎ 」
「あぁ。平和ってのは───」
コメント
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なんで伸びないんですかこんなに神なのに