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面白〜〜〜!!
て、天才だ…令和の文豪だ…!!語彙力高!?
京に着いた2人は、まずは別行動となっ た。輝夜が「買いたい物がある」と言った からだった。 ついていこうとすると断られた。 しょうがないのでぶらぶらと街を巡ってい ると、ふと、足を止めて、目の前を見た。 なんだか見覚えのある人影が、 見えた気がしたのだ。
‥そんな訳はない、そう思いつつも、 千春はその人影を目で捉えながら、 追いかける。 だが、 追いつきそうになるときに限って、 荷車が目の前を通ったり、 催し物による人混みのせいで、 上手く進めなかったり。 そうこうしているうちに、その人影は 路地 へと入ってしまった。 追わなければ、と人混みを抜け走り出した 直後、人とぶつかってしまった。 すみません、と謝ると、その男性は、
「 大丈夫ですか? お急ぎでしたんでしょう? 私のことは気にせず、 早く行ってください 」
と言ってくれたので、これはありがたいと 思って、ありがとうございます、 と一言残し、路地へ曲がる。 しかしそこには誰もいなかった。 すると後ろから、先程の男性が声をかけて きた。
「 どうですか? あの人には追いつけました? 」
「 いえ、 残念ながら‥ さっきはすいません」
そう言って、千春は頭を下げる。が、 その 時すぐ、違和感に気づいた。なぜ、 彼は千春が「人を追いかけている」と 知っているのだ? 急いでいることはわかっても、そこまでは わからないはずだ。しかも、「あの人」と 言ったということは、千春が誰を追いかけ ていたのか知っている。千春は警戒した。 あまりにも怪しい。
「 どうされました? そんな訝しむ《いぶかしむ》ような顔をして? 」
「 ‥‥‥なぜ、 俺が人を追いかけてたってわかるんです? 」
「 あっとこれは失敬、 口が滑ってしまったようです、 いやはや、 嘘はつけませんね 」
「 何者だ、あんた! 」
「 答える義務はありませんね、 それに、ここから先は、 私ではなく彼女と話すといい‥‥積もる話も、あるでしょう? 」
すると、先程まで追いかけていた人物が、 男の後ろから歩いてきた。短い赤色の髪、 茶色の目。幼い顔立ちの彼女は、 忘れたくても忘れられない人だった。 間違えるわけもなかった。昔、海難事故で 死んだはずの幼馴染が、 そこにいたのだから。
「 久しぶり、 ちーちゃん! 元気にしてた? 」
かなり背丈の伸びた彼女は、千春のこと を“ちーちゃん”と呼ぶ。 元気にしてた?は こちらのセリフだった。なぜ生きている? たしかにあのとき、と考えて、千春は最近 知ったばかりのことを思い出した。
「 まさか… 死呪人になってたのか!? ヒメ! 」
「 あったりー! さっすがちーちゃん! でも、 最近じゃないよ? あのとき死んですぐ! びっくりしたよ、 不思議な力が使えるようになって! おっきくなったね! 会いたかったよ! ちーちゃん! 」
心が揺らぐ。 幼馴染が生きていた嬉しさと、 死んだはずの人間が目の前で喋る不気味さ を、千春は同時に味わっていた。 だがなぜ、今になって現れた? いくらでも会うチャンスはあったはず。 彼女が死んでから、 既に5年経っているのだ。一体何故。 そう考えて言葉も出ない千春に、「ヒメ」 は語り始めた。
「 ちーちゃん、驚いてるね? しょーがないか、 ヒメ、 死んでるんだもんね‥ もっと喜んでほしかったな‥ ヒメ、 ちーちゃんに会うために、 沢山頑張ったんだよ? 死呪人になったあと、 知らない場所に流れ着いて‥ 言葉も通じなくて‥ 戻ってくるのも大変だったの! そこで助けてくれたのが、 そこにいるカナザカさんなの! 」
紹介されると男は、 千春の前に歩み寄り、 お辞儀をした。
「 どうもはじめまして、 私《わたくし》は、“金坂 田太郎”と申します。 以後お見知りおきを 」
「カナザカさんはね、 すごいの! 英語ペラペラで、 お世話もしてくれるの! どうちーちゃん、 羨ましいでしょ! 」
そこまで聞いて、耐えられなかった。
「 だまれ! いい加減にしろ! ヒメ! お前は、 俺の知ってる “音鳴 姫百合”じゃない! いまさらなんなんだ! 俺はお前の顔なんて、 見ることないと思ってた! 」
言いながら、千春は泣いていた。 成長した今の幼馴染の姿と、 死ぬ前の幼馴染の姿が、重なる。 知らないはずはないのだ。ましてや、 怒るつもりなど。 ただ、 信じられなかったのだ。 目の前で死んだ幼馴染が、 蘇っていたことが。 するとその言葉を聞いたヒメは、 苦笑いしながら、そっか、と 消え入りそうな声で言った。 ヒメの顔を見れない。ヒメは続けた。
「 ‥ねぇちーちゃん、 わたしと、 暮らさない? カナザカさんがお世話はしてくれるし‥‥‥ あの女の子についていって、 物騒なことをしたり考えたりしなくていいんだよ? 」
千春は、提案に迷った。 なぜ輝夜のことを知っているかはさておき、 たしかに、 今のまま輝夜についていけば、 もちろん命を落とす危険性もあるし、 そうでなくても、何度も命を落とし、 精神が壊れてしまうかもしれない。 だが、ヒメの提案を聞いてしまえば、 おそらく自分がなぜ死呪人なのか、 知る機会は一生ないだろう、そう思った。 それほど時間は空けず、千春は答えた。
「 悪いが、 それはできない ‥俺は、 自分のことを知りたい、 それに、 凶悪な死呪人に、 罪のない人が傷つけられているのを、見過ごすわけには行かない‥ ごめん ‥‥ ‥ 」
ヒメは聞きながら、うつむいた。 そして、ポツリと呟いた。
「ごめんね、ちーちゃん」その言葉は、 千春にははっきりと聞こえた。 そして言い終わると同時、 何もなかった空間から水が現れ、 千春をたちまち包みこんだ。 何が起こったかわからず、千春は水の中で もがく。が、 水はまるで意思を持つ牢獄のように 千春を 外に出さない。やがて息が持たなくなり、 千春は気を失う。千春が気を失ったことを 確認したヒメは、両手を胸の前にかざし、 目一杯広げる。 そして広げた両手の手のひらで、 勢いよく音を鳴らしながら合掌し、祈る。 すると、千春を包み込む水が、 千春ごと消 えていく。 少しして、 水の牢獄は完全になくなり、 ヒメは両手を合わせたまま腕を下ろした。 浮かない様子のヒメに、金坂が言う。
「 これで、 千春くんは我々と共に暮らせます、 追手が来る前に早くこの場を去りましょう 」
ヒメは頷く。しかしその瞬間、 パァンという爆竹のような破裂音が響く。 ヒメの合わせた両手は 、 その破裂音とともに貫かれた。 そしてヒメが思わず合掌を崩すと、 気絶した千春が水と共に崩れ落ちてくるよ うに現れた。そして、破裂音の主は、 ボサボサでまるで鳥の巣のような頭をして おり、目がその茶色い髪で隠れている、 中肉中背の男だった。 それなりに若い印象を放つ男は、 ヒメと金坂を見て、口を開いた。
「 その手、 神にでも祈っているつもりかい? 悪いが僕ァ無神論者だ、 そういうのはよそでやってくれ‥ さて、仕事の時間だ、お縄に付いてくれ、キミたち 」
存在感を放つその男は、再び銃を構えた。