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光のこだま

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光のこだま

1 - 光のこだま

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2025年10月20日

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「太子……」


呆れた顔で、妹子は太子を見た。


太子は暗い竹林の中で、真剣な顔をして地面を見つめている。


「待て妹子。地面が私に話しかけている」


「してません」


「いや、確かに『お前が踏んでるのは昨日の影だ』って言ったな」


「太子、寝不足ですか?」


太子は顎に手を当て、うんうんと頷いた。


「つまり、私たちはいつも昨日を踏んで生きてるっていうことだな」


「詩的に言ってもおかしいものはおかしいですよ」


軽やかな風が、かすかな笛の音をたてて、その竹林を吹き抜けた。


それに合わせて、太子は、ふふ、と笑いをこぼした。


「……太子?」


「いや、なんでもない」


顔を上げ、妹子の手をとって、太子は走り出した。


「ちょっ……、と!?」


あまりにもおかしい太子の行動。それでも、触れている手のひらは、確かな温もりがあった。


竹林を抜けかけたとき、パッと手を離され、太子は、踊るようにして、二、三歩前に出た。


「見ろ、妹子!」


辺りは透き通った満月の光で照らされている。それを背景にして、得意げに彼はこう言うのだ。


「月が綺麗だ!」


一瞬、時間が止まったように見えた。目の前で、パチパチと煌めきが飛び散っていく。


(太子……)


太子は本当に──?


人間なのだろうか。


「……ああ……、そうですね」


非現実的なこの場所から目を細めて、妹子は不敵に笑った。


「恐れる必要はないよ」


太子は、ただ静かに笑っていた。


そして、二つの影は長く伸び、銀色に光る月に吸い込まれるように、幻想の中に滑り込んでいった。

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