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秀side
品川の芸能事務所に入所してから、早いもので六年の歳月が経過していた。
七年目の春から芸能人が多いことで有名な青葉《あおば》学園中等部に入学するため、生家の軽井沢を離れ、東京都品川区にある家賃そこそこの物件だったので、そこに決め、ロフトとバスルーム付きの三階建て1Kアパート101号室の部屋で一人暮らししてから早くも三年目。
ちょい役ばかりなので世間には顔はあまり知られていないとは思うが、僕は普段から目立つらしい。
確かに身長は170で高いとは思うが、何故かクラスの女子たちに妙に絡まれるから、思い切って聞いたら茶髪でイケメンだと言われた。
僕にしてみたらいい迷惑な話だ。
今は、オーディションを受けても落選ばかりなので、俳優としての仕事がない。
そのため、親からの仕送りで何とか生活出来ていた。
自分のスケジュール帳を見てもコマーシャルの仕事さえない。
そんな暇を持て余していた矢先におじさんからの相談話が来たので、タイミングよくかえって好都合だと思い、受け入れたが、さて?どうしたものか・・・
毎年、夏休みのこの時期は、恒例として友人達とキャンプするのが定番ではあったが、今年は珍しく約束を前もって断り、そして作戦を練、実行するため、学校には、適当な理由をつけて休学届を出した。
そして夏休みに入ると、今年から暫くは軽井沢に帰ることにした。
その前日、実家に予め連絡しておいたので、父さんが駅前まで車で迎えにくることになっている。
左手首の腕時計を見ると約束の時間まで、まだ余裕があったので、近くのコンビニで時間を潰すことにした。
無名とはいえ一応芸能人なので簡単な変装、グラス部分が黒いサングラスとつばつきの英文字ロゴマークつき青い帽子を深く被り、白いパーカー、紺のラインが縦に入った緑のランニングパンツ姿のいでたちでコンビニに入ると、直ぐに雑誌が置いてあるマガジンラックに目が止まる。
何か時間つぶしに面白そうな雑誌ないかな?
と選んでいた丁度その時、自動ドアが開くとコンビニ特有の合図らしきBGMのような音楽が流れる。
すると僕と同世代くらいのどこかの学校のブレザーの制服の男子生徒が二人、入ってきた。
思わず、雑誌を見ていた視線は彼らの方に移り、その中には懐かしい、愛おしい顔があった。
啓ちゃんだ!間違いない・・・
まだ軽井沢は学校、夏休みに入ってないのか?
兎に角、啓ちゃんの左隣にいる奴が凄く気になった。
何故なら、執拗《しつよう》以上に啓ちゃんの肩に左腕をかけてくるからで
あんなにされて啓ちゃんは嫌じゃないのか?
あの様子だとバレてないようだけど・・・
それにしても・・
暫く、啓ちゃんの友人のその男の行動を観察していたら、会計してもらう訳でもなく、女性店員に色々と話かけて、仕事妨害しているように見てとれた。
女性店員は、凄く困惑しているように窺《うかが》える。
ようやく、気が済んだのか、右腕に抱えている、ペットボトル二本を店員に渡した。
まだ左腕は啓ちゃんの肩に乗っかっている。
益々、心配になってきて、雑誌を選ぶどころじゃない僕・・・
そのチャラ男は、飲み物を買い終え、自動ドアに向かい外に出る、二人が出たところを確認すると、再び、マガジンラックに並んでいる雑誌類に目を移す。
ようやく買う物を決めた僕は、会計してもらうために、女性店員に近づくとさりげなく尋ねてみることにした。
「すみません。ちょっとお尋ねしたいんですが、さっきの男子生徒は、どこの学校ですか?」
女性店員は、不思議そうに僕の顔を覗き込むと頬を染めて
女性店員「東郷《とうごう》中学です。それが何か?」
段々顔が赤くなりながら答えてくれた。
僕は、その様子に気づかない振りをして
「そうでしたか・・実は、知ってる人がいたので気になって・・教えて頂きありがとうございます。あ!これ買います。」
と言って僕は、演劇関連の雑誌を渡しお会計してもらった。
女性店員「ありがとうございました。」
と照れ隠しにはにかむ店員さん。
そんなに、僕って目立つのかな?
これでも、しっかり変装したんだけど
そして、自動ドアへ向かおうと歩き始めようとしたらコンビニ内から見える駅前バスターミナル付近に見に覚えのある青い軽自動車が停車しているのに気づいた。
きっと父さんだ!そう悟ると慌ててコンビニを出た。
こういう経緯になったのは、今から遡ること数時間前の話から始めたいと思う。
僕の父こと金堂《こんどう》将春《まさはる》は、普段は大学の研究室で科学や物理学を研究し、生徒たちに色々アドバイスしているが、その反面、趣味で啓ちゃんのお父さんこと、神条《かみじょう》啓造《けいぞう》教授と組んでは色々発明したりしている。
父たちが発明したものは、殆ど商品化されており、テレビで紹介されるほど二人は同じ大学の有名な教授だ。
そんな多忙な父さんでも流石に夏休みくらいは、研究や発明は休むだろうと思った僕は、実家の軽井沢に電話することに。
早速、アパートの固定電話から電話すると、父さん本人が出て予感が的中したと内心ホッとしつつ、久しぶりの声が耳元から聞こえると嬉しさのあまり口角が上がる僕だった。
自分でも気づかないくらい、どうやらホームシック気味だったみたいだ。
僕は、早速、用件を声に出した。
「急で、悪いんだけど、今日、そっちに帰るから、父さん、駅前に車で迎えにきてくれないかな?時間は、13時半で」
将春「わかった。今日は休みだから迎えにいけそうだ。」
電話越しの父さんは、そわそわしているような▪▪声だけなのに、なぜかそう感じ取れた。
「じゃあ、父さん、またね」
そう言うと受話器を下ろそうとした瞬間、母さんの声もかすかに聞こえたみたいだけど、どうせ帰ったら母さんとも会うからその時、話せばいいよな。
と思ったのできりがないから電話を切った。
???side
「どうしたの?」
夫、将春は、電話を切ると、そわそわして落ち着かない様子なので、私は、編み物をしていた、手を止めて尋ねました。
将春「ああ、聞いて驚くなよ。秀が帰って来るぞ・・・」
???「あなた、だからそんなに落ち着きがないんですか?確かに三年振りですものね。嬉しくて落ち着かないのも無理ないわ」
夫は、図星をつかれたので照れ隠しに苦笑いを浮かべ、私はその様子をみて、何だか可笑しくて笑ってしまいました。
そして、数時間後、待ち合わせ時間の30分前、お昼と出掛ける準備を済ませた彼は、玄関の壁にかかっているキー用フックから車のキーを抜くとガレージへ向かいます。
私も、玄関まで見送りに
紀代美side
将春「じゃあ、紀代美《きよみ》迎えに行ってくるよ。」
ようやく落ち着いた彼に私は、こう声をかけました。
「ええ、気をつけて行ってらっしゃい」
玄関のドアが閉まると、内側から鍵をかけ、そして再び、先ほどのリビングに戻り、編み物の続きをするのでした。
秀side
そして、コンビニを後にした僕は、停車している黒い軽自動車に近づいた。
すると運転席側の窓から父さんが、僕に気づいたようで窓を開けると外に顔を出し、僕に向かって手を振ってくれた。
三年ぶりの父さんの顔を見てたら、直ぐに再会したくて、急に走り出したくなった。
あと、1メートルと段々、車との距離が縮まる。
そして、車の助手席側のドアに手が届く。
ドアを開けて助手席に座ると、三年ぶりだからかお互いに緊張していて会話がないまま、エンジンがかかる。
車が発進!結局、ドライブ中、会話の無いまま、数分後、生家に到着したのだった。
玄関に入りかけたところで
将春「なんか話があって戻ってきたんだろ?」
相変わらず鋭いなと思いながら僕は
「啓ちゃんって覚えてる?幼なじみの・・」
と言い終える前に父さんは話始める。
将春「ああ、覚えてる!もしかして啓造に頼まれたか?」
不思議に思い首を傾げる僕の様子に父さんは、再び口を開いて話し続ける。
将春「やっぱりか・・アイツは昔から変わらんな。往生際《おうじょうぎわ》が悪いとことか・・後悔するくらいならはじめからやらなきゃいいものを・・アイツになんか言われたんだろ?」
普段、無口であまりしゃべらない父さんが、結構、しゃべっていたので、僕はびっくりして、一瞬、今から言う内容が頭から吹っ飛んでしまった。
えっと、何が言いたかったんだっけ?
沈黙する僕に、父さんは
将春「どうせ、娘を女の子に戻して欲しいって言われたんだろ?」
僕が、言おうとしていた事を代わりに言ってくれたのだ。
流石、幼なじみだけあって啓造おじさんの事、お見通しなんだな。
図星なので、僕はゆっくりと頷いた。
「そうだよ!考えまとまったら、連絡します。って伝えたよ」
将春「・・そうか」
父さんは、眉間にシワを寄せてしばらくしゃべらなくなった。
将春「・・・」
「父さん?」
急に、難しそうな顔になる父さんの顔色をみて
話の続きは、しばらくしてからの方が良さそうだと悟ると
「父さんに頼みたい事あるけど・・風呂入って日頃の疲れをとってくるよ」
僕はそう答えると父さんは、ようやく口を開く。
将春「そうだぞ!先ずはゆっくり癒やして来い」
相変わらず、言葉足らずな父さんだが、優しさが身に染みて伝わってくる。
思い切って帰ってきてよかった。と改めて思うのだった。
そして、風呂場へ向かう。
脱衣室には、既に着替えとしてパジャマが棚に置いてある。
きっと母さんが準備してくれたんだな。
三年振りの我が家は、あれから時間が止まっていて何も変わって無いことにすごく安心した僕は、丸裸になると風呂場のドアを右手で開く。
そして数分後、湯船に身体を浸す。
気持ち良すぎでそのまま寝ちゃいそう。
そして更に時間が経過後、風呂場のドアを再び開き、素早くバスタオルで身体を拭う。
そして棚に用意されているパジャマに着替えた。
リビングの入口のドアノブを時計回りに右手で回し手前に引き開けると中に入る。
直ぐに、目に入ったのはソファーに腰掛け、編み物をする母さんだ。
「母さん・・・ただいま」
そう言うと僕は母さんの前のソファーに座った。
紀代美「秀・・・お帰りなさい・・パジャマ着れたみたいね。良かったわ。あれから三年経ってるから三年前のパジャマ着れないかと思って慌てて新しく買ったのよ。だけど丈が短かったようね。」
と言いながらも編み物をする手を止めず話続ける母さんに僕は、よく間違えないよな。っと感心つつ
「母さん、ありがとう。助かったよ。丈短いの大丈夫だから、気にしないで」
僕は、感謝の言葉をつなげた。
流石の母さんもやはり、話にくくなったようで編み物をする手を止め、近くにある紙にメモ書きしたあと、僕の方を振り返り再び口を開く。
紀代美「それより、なんか相談したい事があって戻ってきたのよね?お父さんには、少しだけ聞いてるけど、言葉足らずで正直わからないから、私にも戻ってきた訳を教えてね。因みに幼なじみの啓祐ちゃんの件でって事まではわかるわ」
「わかったよ。その前に父さんと話するから」
母さんは、僕の話に耳を傾けるとメモ書きした紙をみると再び、編み物をしだして
「わかったわ。」
とひとことだけ言った。
そんな時、リビングのドアが開く音がして、そちらに振り返ると父さんも入ってきて僕の隣に座った。
「父さん!お願いがあるんだけど声を変える道具とか発明してない?小さめだとありがたい」
将春「あるが・・啓造のとこにある。」
「おじさんのとこに?じゃあ、もしかしたら既に啓ちゃん使ってるんじゃ~」
将春「安心しろ。もう一つ同じものがある。」
「良かった!これからやろうとしている作戦にはどうしても必要なものだから」
将春「必要なもの?」
「父さん!とても言いにくいけど・・・僕、女装して女の子になりすまして啓ちゃんの学校に潜入しようと思ってるんだ」
将春「女装する意味がわからんぞ」
僕はなるべく簡潔に今から言う内容の説明を試みたんだ。
「先ずは、僕が啓ちゃんの秘密を知っていて、知ってしまったのは何故か問い詰められたら正直に答え、啓ちゃんが好きだから女装している。君は、女の子だと知られたくない。僕も男だと知られたくない。お互いにバレないよう協力するように仕向ける。これが第一段階」
将春「・・・ふむふむ」
「そして、僕の演技力で女の子に育てられた振りして、さり気なく、啓ちゃんが、今、意識してる異性が居るのか見極める。これが第二段階」
将春「それで・・第三段階は?」
「女の子で口の固そうな子を見つけて、啓ちゃんを女の子らしくしてもらう。好きな男が居れば啓ちゃんもやる気が出ると思うし」
将春「そっか・・」
「ただこの作戦には問題があるんだ。時間だよ。僕には、俳優の仕事も学校生活もあるからそう長く休学出来ない。だから少なくとも仮転校して一週間以内には啓ちゃんを女の子らしくしてくれる同世代の秘密が守れる女の子を探さないとなんだ。失敗するかもしれない。でもこの方法しか思いつかなかった。」
将春「秀が決めたことだ、自分を信じてやってみなさい。」
「そのためにも母さん!母さんの協力も必要なんだ。」
紀代美「え?ごめんなさい。秀!編み物に気を取られて聞いてなかったわ」
「だから・・・女装の準備を」
紀代で「え~!!秀!今、なんて言ったの?母さん、ショックだわ」
仕方なく、父さんに説明した同じ内容を言うと母さんは納得したようで
紀代美「そう言う事なら任せなさい」
となんだか楽しそうに、編み物をする手を止めて、クスクス笑いながら、どこまで編んだか紙にメモ書きして、余所見しながら言った。
そんなに笑うことないだろ?
僕は、内心そう思ったが母さんもああやって笑っているけどきっとうまく行くよう応援してくれてるんだろうな。とポジティブに受けとる事にした。
「あと近所の目もあるから僕が女装しているときは秀の従妹で名前は金堂《こんどう》栞《しおり》。通う中学が遠いからうちがしばらく面倒をみることになったって筋書きだからね」
と僕は、ふたりにこれからの作戦に重要な事を伝えたのだった。
すると父さんが、僕を呼んで
将春「筋書きはわかったが、なんか忘れてないか?」
え?頭が回らない、疲れてんのかな?
しばらく目を閉じて考えて見よう
あ!思い出した!肝心な事忘れるとこだったよ!おじさんに連絡しなきゃだ!
「父さん!思い出したよ。ありがとう。おじさんに電話するね」
キッチンコーナーに設置してある子機に右手を伸ばすと僕は短縮ボタンを押した。
すると暫く耳元からツーと音が聞こえ本の数秒でおじさんの声が聞こえてきた。
啓ちゃんが出てきたらどう誤魔化そうと変な冷や汗が出てきそうだったがおじさんで良かったと安堵の溜め息を吐くと、おじさんにアイデアを伝え、その作戦に必要な声を変える道具持っている事を父さんから教えてもらい知り、是非譲って欲しいとお願いした。
そしてその声を変える道具、変声器チョーカーと言うのが正式名称だそうだがそれは、大学にあるそうなので翌日の13時に大学の門の前で待ち合わせする約束をし電話を切った。
そして、今日は、その約束の日で、なんとか待ち合わせ時間に間に合い、門の前で待つこと数秒、おじさんは白衣姿で現れ、約束の物を僕に渡そうとしたので、僕は両手でお皿を作り受け取ると右手に持ち直してズボンの右ポケットに入れた。
啓造「秀くん!娘を頼んだよ」
そう言うと門をくぐり抜け戻って行った。
暫く、僕は、その場で棒のように立ったまま、おじさんが言ったひとことが頭からはなれず、呆然としていたが、段々嬉しさが込み上げてくるのを感じた。
おじさんは、啓祐じゃなくて、娘と確かに言い切っていた。
おじさんは、心の底から今までの事、後悔し、取り返しのつかない過ちにようやく気づき何とかしたいと必死なんだと・・・
僕を信頼してくれて相談してくれた事も嬉しいけど、やっぱり父親としてその事に気づいてくれた事の方が何より嬉しい。
僕は、改めておじさんは父親として誇らしいと何度も思い、そして事の重大な役目を任された以上失敗は出来ないと責任の重さをしっかりと受け止めたのだった。
#なつこさ
かは@毎日投稿中
1,092
#アイドル
優杏𓂃🎀𓈒𓏸
10,184
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コメント
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みぅです🤍🥀 第4話、読ませてもらいました。 秀くん、女装して潜入するって…! え、好きすぎるでしょその覚悟…。でも、幼なじみの啓ちゃんを守りたい気持ちがひしひし伝わってきて、胸がぎゅっとなりました。お父さんが「自分を信じてやってみなさい」って背中押すシーン、グッときたなあ。おじさんが「娘を頼んだよ」って言い切ったのも、重みがあった。 家族の温かさに包まれながら、一人で大きな決断をした秀くん、本当に応援したくなります。次が待ち遠しいです🌙