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◇◇◇◇
「君の部屋でいいよね」
男はそう言ったきり一言も言葉を発することなく青木の自室までくると、わがもの顔で扉を開け、何の躊躇もなく部屋に入っていった。
男の黒髪はストレートで、何かの動作をするたびにたびにサラサラと鬱陶しく揺れる。
青木が後ろ手に扉を閉めた瞬間、
「じゃ、始めるかー」
カチャカチャとベルトを緩めようとした男の襟元を、青木は掴み上げた。
「その前にお前さあ、自分が何者なのか名乗れよ。俺だけ正体知られてるの、不公平だろ!」
「…………」
白鳥とは種類の違う大きくて不気味な目が青木を見つめた。
「あれ?自己紹介してないっけ?」
「してねーよ!」
「これは失礼」
男は青木の手を払うと襟元を整えながらニヤリと笑った。
「俺は黄河利尋(おうがとしひろ)。25歳のおとめ座。好きな食べ物はキャラメルポップコーン。嫌いな食べ物は白いアスパラガス」
「…………」
「あれ?こういうことを求めてるんじゃない?」
黙って睨む青木に、黄河は笑った。
「じゃあ、こういえばいいのかな。仕事は心理アドバイザー兼環境推理観察。よってこのBL実験の管理マネージャーを任されている」
(やっぱり運営側の人間……!)
青木は身構えた。
「なんで生徒に混ざってるんだよ」
「んー。ただ単純な興味?」
黄河は腕を高く上げて、指だけ下げるという、猿のような頭の掻き方をしながら、首を傾げた。
「一人の|男《ノンケ》が一人の|男《ノンケ》落とすさまを間近で見たいじゃん。死刑囚を集めたり、宿舎と教室を準備したりして、それなりのリスクと金がかかってるんだからさ」
黄河の目が光る。
「……じゃあなんで、俺に協力するようなことをするんだよ!実験もフェアじゃなくなるし、お前たちは俺を一番に殺したいはずだろ!」
「言っただろ?顔が好みだって。本当はダメなんだよ?実験に肩入れしちゃ……」
黄河の手が青木の頬を触る。
「それにさ、俺は同情してるんだよ」
黄河の親指が青木の上下の唇に割って入ってくる。
「イジメられてる妹のために、そのクラスメイトを殺すしか方法が思いつかなかった愚かな君のことを……」
僅かにしょっぱい親指が、青木の舌を愛撫する。
吐き気がこみ上げるが、ここで運営側に目をつけられたくない。
(何のこれしき……!)
今日は確固たる決意をもって一日を過ごした。
そのために朝食も昼食も抜いたのだ。
ここで逃げ出すわけにはいかない。
「いいね、その顔。マジでタイプ」
黄河は両手で青木の顔を包むと、指を突っ込んだまま顔を寄せてきた。
「……んんッ」
今度は歯を食いしばることができない口の中に黄河の生暖かい舌が入ってくる。
そのまま親指とバトンタッチするかのように、今度は舌が口内を愛撫する。
上顎を舐め上げ、歯茎をなぞり、舌に絡みつく。
(我慢だ……耐えろ……!)
青木が両目を瞑った時、
「ああ……ヤバい。勃ってきた……!」
青木の腰を掴み、黄河が青木の股間に自分の硬くなったそれを押し付けてきた。
「……俺だってそれなりのリスク背負って協力してやってるんだからさ。頼むよ」
「………ッ!」
青木は黄河をキッと睨むと、そのまま静かに膝をついた。
「はは。いいこいいこ」
黄河がベルトを緩め、体系の割にはやけに大きなソレを取り出した。
ツンと生臭い匂いが鼻をつくが、ギリギリのところで吐き気は我慢した。
黄河の両手が、青木の髪の毛を掴む。
青木は促されるままにソレを右手で掴むと、先端に唇をつけた。
◇◇◇◇
部屋にはクチュクチュと卑猥な音が響く。
あれからどれくらい経っただろう。
青木にとっては永遠にも感じる時間の中で、ただただ相手の陰茎が口内を犯していた。
「唇で歯をガードして。……そう、上手」
黄河は相変わらず青木の頭を掴みながら自分モノが出し入れされている唇を見つめている。
「口の中に空気が入らないように。ほらあるじゃん、密閉パック。あんなイメージで隙間を無くしてみてよ」
「……んん」
「そうそう。そのまま裏筋に舌を這わせながら上下してみて。……ん、いい感じ……」
深く咥えこむたびに唇に当たる温かい陰毛が不快極まりない。
目の前に迫る臍の中身が妙に黒くて気持ち悪い。
青木は苦しさと嫌悪さで涙が溜まってくる目を閉じた。
しかしこの男で慣れてしまえば、見目麗しい白鳥なら楽勝かもしれないという自信はあった。
それどころか天国に思えるかもしれない。
白くきめ細やかな肌。
美しい顔。
いい匂い。
今は我慢だ。
白鳥が天国だと感じる程に、今は地獄をみなければ。
「よし、いいね。じゃあ交代」
黄河は青木の二の腕を掴んで立ち上がらせると、そのままベッドに座らせた。
「え?俺はいいよ。それじゃあ練習にならないじゃん……!」
「ふざけてんの?ここからでしょ」
そう言いながら勝手にベルトに手を掛けカチャカチャと外していく。
「まさかフェラの練習のために俺を待ってたの?違うでしょ」
「――え、いや……」
「ほら、白鳥が他の男にかっさらわれる前に、ちゃんとできるようにならなきゃ」
「?」
「男とのセックス」
「……いっつッ…!」
全く反応していない陰茎が、強制的にボクサーパンツから引っ張り出される。
黄河は躊躇なくそれを口に含むと、付け根にある膨らみをほぐすように揉みしだき始めた。
「……なあ。あんたって……」
違和感と嫌悪感に苛まれながら、どうにか視界から入ってくる不快な情報をシャットアウトしようと天井を見上げる。
「ん?」
青木のを咥えたまま、黄河はくぐもった声を出す。
「ホモ……なのか……?」
「―――さあね」
その質問への明確な答えは返ってくることなく、ただ股間への愛撫が続けられていった。
◇◇◇◇
「……青木君、確認するんだけどさ」
やっと股間から頭を上げると、黄河はソレを手で上下に扱きながら言った。
「君、インポじゃないよね?」
「…………」
青木は天井を仰いだまま顔を両手で覆った。
BL漫画では好きじゃなくても気持ち悪くてもフェラされれば感情とは無関係に勃起するというシーンは往々にしてあるが、青木のソレは反応するどころか逆にどんどん縮こまっていくようだ。
「まあいいや、緊張してるってことにしといてあげる」
黄河はそう言うと、立ち上がった。
「…………」
やっと終わった。
青木も立ち上がろうとすると、とんと肩を押され、ベッドに仰向けに倒された。
「……なッ……?」
「いやいや、これからでしょ」
黄河は下を全部脱ぐと、小瓶を傾け、ブチュチュッと汚い音を立てながら、手にローションと思われる液体を絞り出した。
「多分挿れちゃえば勃つから」
そう言いながら自分の尻にその液体を塗りつけている。
「本当は肛門拡張とかも教えてあげたいけど、それは次回にするね。そうだなー。明日ジャッジだから、明後日とかどう?」
勝手に話を進めていく。
(明日……?そうか。明日がジャッジか。まあそこは大丈夫だとしても、俺―――)
目の前で当然の顔をしながら準備を進めている黄河を見上げる。
(こいつとセックスすんのかよ……!?)
「黄河……俺、そこまでは……!もう大丈夫だから!」
「何が大丈夫なの。青木君が童貞かどうかなんて知らないけど、男と女は違うんだよ?男とのセックスにも慣れておかなきゃ。いざというとき白鳥とできないでしょ」
黄河はそのままベッドに膝をついて、青木の足に跨ってきた。
「大丈夫。今日は俺が動くから。次回は君が動いて?」
「いやいや、マジで!そこまではさせられないっていうか」
「あ、もしかして俺に気を使ってるの?いいよ。これも実験を円滑に進めるうえで必要なことだし」
「………!」
黄河は運営側の人間。
強く拒否できない。
黄河は全く反応していない青木のソレを掴むと、ローションで濡れた手でぐいぐいと扱き始めた。
「あ……痛ッ……はぁッ……」
「少しだけ乱暴に勃たせるよ。芯がないとさすがに挿入できない」
先程の優しいフェラとは違って、自分でもできない強すぎる刺激に腰が上がり、太腿が痙攣する。
「待っ……!黄河……!あ……は……」
強制的に若い陰茎は勃起させられてしまった。
「よし、こんくらいで十分。はは、ちゃんと勃起できるじゃん、青木君。もしかしてM気あるの?」
黄河は膝を立てて尻を浮かすと、すっかり硬くされたそれに自分の尻のくぼみを合わせた。
(……嫌だ)
「天国を見せてやるよ」
(…………嫌だ!赤羽……!)
「!?」
なぜかその男の顔が脳裏に浮かんだ。
(………なん……で?)
黄河の尻から垂れたローションが、青木の反り立ったソレの先端に垂れたその時、
「――青木?」
「!!」
閉じた扉の向こうから、
確かに白鳥の声が聞こえた。
「……な……白鳥!?」
声が裏返る。
上に跨っている黄河も動きを止めて、ドアの方を振り返った。
「どうしたの!?」
「あ、いや。ちょっと寄ってみた。LAIN入れたんだけど、もしかして、見てない?」
「ごめ……見てなかった……」
どうする。
慌てて取り繕うにも、自分も黄河も下半身裸で、2人ともとても言分けできないソレが勃ち上がっている。
「入っていい?」
「ダメ!」
「だめだ!」
咄嗟に叫んだのは黄河と同時だった。
「――え。誰かいるの?」
白鳥の声が凍り付く。
「………えっと……」
うまく頭が回らない。
うまい答えが浮かばない。
藁をも掴む心境で黄河を見上げる。
(お前、実験の運営だろ!?どうにかしろよ!!)
しかし黄河はこちらを振り返ると、ニヤリと笑った。
「あけるね」
白鳥の声が響いた瞬間、
バゴッ。
黄河は自分の頬を拳で殴り、
「あ、おい……!?」
ベッドから転がり落ちた。
扉がゆっくりと開く。
青ざめた白鳥が目には、
ベッド脇に口の端から血を流しながら転がる下半身裸の黄河と、
ベッドの上で見事に反り返った陰茎をテカらせた青木が映った。
「なに――やってたの」
白鳥が低い声で聞く。
「白鳥、これは違くてあの……」
青木がうろたえていると、
「………白鳥くん!!」
黄河が下半身をブラブラ揺らしながら白鳥に駆け寄った。
「部屋に呼ばれて言ったら青木君が急に……!」
「はあ!?」
叫ぶ青木を振り返りもしない黄河の口の端から、血がタラリと流れ落ちる。
「助けてくれてありがとう……!」
黄河はそう言って白鳥の手を握ると、ズボンとパンツをかき集めて、逃げるように部屋を後にした。
「…………」
白鳥は彼の後ろ姿を呆然と眺めていたが、やがてゆっくりと青木を振り返った。
「あれって、1組の黄河君だよね」
「え」
青木は口を開けた。
(あいつ……運営ってのは嘘だったのか……!!)
「頬の傷、青木がやったの?」
「違うよ。違う違う。全然違う」
青木はただ違うと繰り返した。
「あいつが、黄河が、俺が白鳥を好きなのを知ってて、男の経験がないなら練習台になってあげるって名乗り出てきたんだ」
嘘は言っていない。
「経験がない同士なら、白鳥とそういうことするときにケガさせちゃ悪いしって思って。やり方だけ、教えてもらうつもりだったんだけど」
嘘は言っていない。むしろ真実だ。
「アイツがセックスまでしようとしてきて、それでやめろって今――!そうしたらあいつ、自分で自分を殴りやがって……!」
真実しか言っていないのに、どうしてこんなに嘘くさいのだろう。
白鳥の顔も空気も全く緩和しない。
(どうする!何といえば切り抜けられる?)
「は……ハッキリ言ってフェラすんのも気持ち悪くて吐き気との闘いだったし、逆にいくらフェラされても勃たなかったしさぁ!?やっぱり好きな相手じゃないと漫画みたいには勃たねえんだなって思って!」
「……そう?勃ってるように見えるけど」
白鳥の目が細くなる。
「あ、や、これは違くて……!」
「もういい、何も聞きたくない」
白鳥はぴしゃりと言い放った。
「突然きて悪かったよ。じゃあね」
白鳥はそう言い残すと、テーブルの上にビニール袋に入った何かを置いて部屋を出て行った。
「………」
あまりの事態に前髪を掻き上げながら、傍らに転がっていたスマートフォンを開いた。
【青木、今部屋?】
彼が言った通り、白鳥からLAINが入っていた。
【顧問の先生がみんなにプリンくれたんだよ!余ったやつ貰ってきたから、一緒に食べよう!】
「…………」
青木は立ち上がり、ビニール袋の中に入った2個のプリンを確認すると、人生で一番大きなため息をついた。