第15話:「真相法廷 ―招かれざる証人たち―」
午後10時。
それぞれの自宅、あるいは事務所に届いたのは、“赤い封筒”だった。
差出人の名はない。中には、たった一行だけ。
「明日午後9時、生配信法廷にて、真相を語っていただきます」
小林悠斗は、その文を手に取り、苦々しく笑った。
「……やっぱり、来たか」
彼は元々こうなることを予感していた。
あの時、自分が蒼を裏切った瞬間から。
加藤翔は、封筒を開いた手を震わせながら、自室の片隅で何度も言い聞かせていた。
「違う……俺はあの時、仕方なかった……」
そう言い続けても、記憶の奥にこびりつく「ある一言」が、彼を解放しなかった。
伊藤悠真は、完全に別の反応を見せていた。
封筒を読んだあと、テーブルに置き、ウイスキーグラスを傾けながら、
「とうとう、幕が下りるんだな」
と静かに笑った。恐怖も、戸惑いもない――ただ、終わりの始まりを受け入れるだけ。
__________________________________________________________
【告白ノ間】
【今夜は裁きの夜】
【この3人、全員ヤバいやつじゃん】
【でも蒼を売ったのはどいつ?】
画面に映し出されるのは、密室に設けられた3席の椅子と、蓮のモニター。
そこに一人ずつ、映像が繋がっていく。
蓮が姿を現すと、会場の空気が一変する。
「皆さん、こんばんは。
本日は特別編“真相法廷”へようこそ。
今夜のテーマは――“村瀬美月を殺したのは誰か”」
__________________________________________________________
「……俺が蒼を裏切ったのは、あいつが危なっかしすぎたからだ。
証拠を握ってた? 知ってたさ。でも、それを公にしたら、俺ら全員終わってた」
蓮が言う。
「あなたは、彼女が“蒼の証人”だと知っていたはずです。
だから、彼女が“証言する前夜”、何をしましたか?」
「……俺は、美月に電話した。『何も話すな』ってな。
けど、“あの夜”、俺は部屋から出てない。アリバイはある」
【それホント?】
【でも電話してたのは事実なんだ…】
【こいつ、保身しか考えてない】
__________________________________________________________
「……俺は、美月のことを少しだけ恨んでた。
蒼を守ろうとして、俺のことを責めた。『どうしてあんなことをしたの?』って」
「でも、手を出したりしてない。……ただ、あの夜、彼女の部屋の前までは行った」
蓮の表情は変わらない。
「つまり、あなたも“彼女が死んだ夜”に、現場付近にいたと」
「……そうだ。でも、落ちた瞬間なんて、見てない。
ただ、上に“もう一人誰か”がいたのは確かだ。女だった。ヒールの音が聞こえたから」
会場がざわめく。
【女……誰だ?】
【美月を殺したのは別の女?】
【これ、新展開きたかもしれん】
__________________________________________________________
「私が、美月を“黙らせようとした”のは確かです。
ただし、殺すつもりはなかった。
彼女には“あるもの”を渡さなければならなかった」
蓮:「あるもの、とは?」
「“映像データ”です。蒼が無実だと証明できる唯一のもの。
だが、私の上司――つまり斎藤海翔が、それを“奪いに来た”。
私は逃げた。逃げた先が……彼女の部屋だった」
蓮の声が低くなる。
「つまり、殺したのは斎藤?」
伊藤は目を伏せた。
「わからない。
だが……“美月の最後の言葉”が今も耳に残っている。
『なんで“あなた”がここに……?』って」
__________________________________________________________
蓮はモニターの前で立ち上がる。
「今日の配信で、あなたたち3人は“嘘をついた”。
でも一つだけ、真実があった。
……“女のヒール音”」
視聴者は混乱する中、蓮は手元のスイッチを押す。
画面に映る新たなシルエット――
“港区女子” 山本結衣。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!