僕はドロボー。今日も盗みを働く。君が追いかけてくれるから。
深夜 二時。
光り輝く月明かりに照らされ、僕は姿を現す。
今宵はどこまで僕を追い込められるかな?
建物の影で見え隠れする君が、なんだかもどかしい。
なんて楽しい”鬼ゴッコ”。いや、”ドロケイ”かな。
僕を捕まえるために必死な君がかわいくて、愛おしくてたまらない。
君は探偵だ。僕の正体を、本心を暴いてみてよ。
とうとう気づかれてしまった様。返事は要らないよ。
これは一方的な僕のラブストーリーだ。
君からすれば、これはただのドロケイにすぎないでしょう?
「二時十四分。僕が狙い続けているモノを奪いに行きます。」
そう綴った”最後”の恋文。
二月十四日。それは全ての始まりの日。
僕が君に恋をした日。
あの日から、僕は心を取り返そうと、ドロボーになった。
今じゃそんなことどうでもいい。
今度は僕が君の心と唇を奪いに行く。
そう思ったのに、君は全然現れない。
ふと、一際冷ややかな空気が唇に触れた気がした。窓辺を見ると、薄っすらと文字が書いてあるのが見えた。
「二時十四分。 ドロボー 逮捕。」
翌朝、ニュースで知った。彼女は死んだ。
どうやら轢き逃げされたらしい。
昨日の、あの冷ややかな空気は、彼女か ?
もしそうだとしたら、一本取られてしまったな。
なんて良い夢だっただろう。
僕よりも、僕を追いかけ続けた彼女の方こそ、人の心も唇も奪えてしまえるドロボウさんだったとはね。
やられっぱなしじゃ気が済まない。だがもう打つ手が無い。
轢き逃げなんて卑怯だよね。
もし、すぐに通報なりなんなりしてくれれば生きられたかもしれないのに。
惹き逃げなんて卑怯だよ。ねぇ。ドロボウさん。
*____𝑒𝑛𝑑.*