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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。帝都の支配者が誰かずっと探らせていましたが、まさかキャプテン・ボルティモアとは思いませんでした。
ただ、これで確信が持てました。海賊の島『ファイル島』最大の商会であるダイダロス商会のバックはガウェイン辺境伯であり、お兄様……第三皇子殿下です。
資金調達にしては危ない橋を渡るものだと考えていましたが、密貿易を通じてアルカディア帝国の混乱を長引かせることが目的でしたか。
確かに黄昏商会の調べではファイル島経由で大量の鉄などの鉱物資源、そしてうちから仕入れた薬草がアルカディア帝国へ流れています。
様々な陣営を相手に巧妙に売られていて、内戦が長引くように裏で操っていたと。
むしろ、一国の内戦を左右できるだけの品を扱えるその規模に驚くべきでしょうか。
いや、今の貴族の大半は領地と権力争いにしか興味がありません。鉱山は帝国が管理していると言っても、影響力は地に落ちています。充分な利益を産み出せるなら、採掘された資源が何処で使われようと気にもしないはず。
何とも言えませんね。影が薄いと誰も相手にしないお兄様こそが、国益を第一に考えて暗躍しているのですから。帝国の混乱が長引いても宿敵アルカディアが動けないようにしている。おそらく、後継者争いを制した革新派の皇太子暗殺にもお兄様の関与があるでしょう。
ボルティモアさんは私を末恐ろしいと表現しましたが、私に言わせればお兄様こそ末恐ろしい存在です。絶対に敵対したくありませんね、うん。
とは言え、アルカディア帝国の混乱は個人的にも歓迎できるものです。あいにくあの国は銃器にほとんど関心を寄せない魔法文明ですから武器は売れませんが、薬草類は恐ろしい値段で取引されていますので、幾らでも稼ぐことが出来ます。
なにより、戦争になってしまったら復讐どころじゃ無くなってしまいますからね。アルカディア人には悪いですが、私の復讐が終わるまでは混乱していてほしいものです。
「で、挨拶だけをしに来た訳じゃないんだろ?お嬢ちゃん」
「帝都の情勢についての情報と協力関係を結べたらと考えています」
「なんだ、貴族様の道楽に興味があるのか?止めとけ。どうやって西部の女狐と宜しくやってるのかは知らねぇが、下手に手を出すと火傷じゃ済まねぇぞ。貴族様に関わるなんざ、ロクな事にならねぇからな」
やはりか。帝都の裏社会を牛耳るキャプテン・ボルティモアでも、貴族相手には極力関わらないと言う帝国裏社会の鉄則を護っています。
貴族相手に商売はするけれど、深入りはしない。借金漬けにしたり弱味を握って裏から操ろうと考える人は、少なくとも大物には居ないんですよね。
日頃対立関係にあろうと、貴族は自分達の立場を脅かす存在を相手にした場合は一致団結しますからねぇ。その報復も面倒と来た。
カナリアお姉様のご助力もあったとは言え、ガズウット元男爵を破滅させた私達が異常なのでしょう。
「気になりますね、私達は西部閥のレンゲン公爵家に肩入れしていますから」
「どんな手を使ったんだ?レンゲン女公爵は裏社会と関わりを持たないはずだが」
「それは秘密です。親しくなれば教えてあげるかもしれませんよ?」
「そいつぁ魅力的だが、火傷しそうだから止めとくぜ」
キャプテン・ボルティモアは肩を竦めました。彼ほどの人物でも貴族を相手にすることを避けると。
貴族の身としては複雑な気分でもあります。今の貴族は、庶民はもちろんアウトローな人達からも厄介な存在だと思われているのですから。
お父様のような善政を敷くような貴族が希であることは、この十年で嫌と言うほど理解できてしまいましたし。
「俺は興味ないが、貴族様のことを知りたいみたいだな?最近だと第二皇子のパーティー絡みか」
「そうです。この情勢下、パーティを開くのは悪くありませんが、わざわざ敵対者である西部閥や対抗馬の後ろ楯である北部閥まで招待する理由が分かりません」
日和見主義の南部閥を引き込むつもりで招待状を送るならまだしも、わざわざ第二皇子の名で招待状を出すのですから。
「なんだ、そんなことか。そうだな、答え合わせは出来る。そうだな、ネタは二つある。どっちもお嬢ちゃんに必要なものだ」
「自信があるのですね?」
「ああ、一つはマンダイン公爵家関連。まあパーティー絡みだな。もう一つは最近悪さをしてる子爵様の情報になるんだが」
「それで、幾らですか?」
「金貨二枚で手を打とうじゃねぇか。ちょっと割高ではあるが、危ない橋を渡るんだ。その分を上乗せさせて貰うぜ?」
ふむ。チラリとレイミを見れば、素早く小袋を差し出してくれました。うちの妹は可愛い上に優秀、異論は認めません。異論がある人は魔法剣の錆びにします。
「では、これでどうですか?」
私が差し出したのは、金貨二枚と銀貨五枚(二百五十万円相当)です。それを見て面白そうに表情を歪めるボルティモアさん。
「暁の代表は気前が良いと聞いていたが、本当らしいな?」
「銀貨五枚は今後の信用を買うためです。それで?」
「心付けを貰ったんだ。しっかり答えないと俺の顔に傷が付くな。先ずはマンダイン公爵家についてだが」
「はい」
「簡単に言おうか、あの連中は第二皇子を推して次期皇帝の座を狙ってる。第二皇子が皇帝に成れりゃ、旨い想いが出来るだろうしな」
「ええ、そうでしょうね」
それくらいなら一般常識ですよ?
「まあ焦るなよ、お嬢ちゃん。そのマンダイン公爵家だが……どうやら我慢が利かないらしい。それが公爵家の連中なのか第二皇子なのかは知らねぇが、このまま皇帝が病死するのを待つつもりはなさそうだ」
レイミが目を見開いています。確かにこれは重大な情報ですね。マンダイン公爵家は皇帝暗殺のを目論んでいる可能性がある……?
「出所は?」
「それよりも重要なことがあるぜ。やり方は病死に見せかけた毒殺、使われてるのは月光草だ」
月光草。欠損した手足すら蘇生すると言われる完全回復薬を作るために必要不可欠な薬草です。ただ、効果からしておとぎ話だと思われていますが……待って、うちで栽培している月光草!?
「何処にでもネズミは居るのさ、お嬢ちゃん。いや……シャーリィ=アーキハクト伯爵令嬢様よ」
そう言いながらキャプテン・ボルティモアは挑発的な笑みを浮かべてシャーリィを見つめるのだった。