ランガ山道におけるヤーク家の貿易商人襲撃事件。
これを解決するため、私は依頼を受けた翌日、早朝から城下町の外にいた。
ちなみに今日、外出するため、家にしてきた言い訳は「少し遠くに珍しい花が咲いたというお話を聞いたので、冒険者さんを護衛に雇って、観察にしに行きます」である。
珍しい花の話を本当に耳にすることがあったら、興味はあるので行ってみるとは思うが、現実では護衛はいらない。
というよりも、絶対に一人の方が楽だった。
目的地のランガ山道は「少し」どころではなく、相当遠い。
国境付近にそびえる巨大な山脈――ランガ山脈を越えるための唯一の道だ。
そのため、ギルドのお姉さんからは泊まりを想定して、ギルド側で移動用の専用馬車と宿の手配を行うというありがたい申し出を受けたが、私はそれを断った。
気軽な外泊など、貴族の家の娘として許されることではないからだ。
だから、今日中に日帰りで決着をつける必要がある。
そのために昨日の夜、スキル欄を整理して、普段使わない移動用スキルを掘り起こす作業をしていた。
普段使用するのは『移動高速化』くらいだ。それ以上、加速してもメリットがない。速すぎてなんだかよくわからなくなるのが目に見えていた。
『移動高速化』は速さが二倍まで上げられるスキルだ。
ちなみに、たまに名前の後ろにレベルがついていないものがあるが、それらは基本的に効果倍率が固定のスキルだった。
だが、今日は違う。移動系スキル全部乗せだ。
『移動高速化』、『空気抵抗軽減Ⅹ』、『追い風発生』、『転倒完全防止』、『身体速度向上Ⅹ』、『脚力向上Ⅹ』、『地面踏み込み強化』ーーそして、『発動中スキル効果5秒間のみ100倍』。
最後のスキルは発動準備に三分の時間がかかるため、戦闘ではほぼ使えないのだが、こういう時にはかなり重宝するスキルだ。
「……どうなるんだろう」
もはやどんなスピードが出るかわからない。
ランガ山脈の方へ続く一本道の街道に立ち、私は覚悟を決めた。
「スキル発動!!」
アクティブスキルを全て発動、そしてその上に、発動準備が完了した100倍化スキルを重ねる。
「一歩目は慎重に……」
と、ちょこんと足を出した私だったが。
バァン!!!!!!! という爆発したみたいな、踏み込み音と共に、弾丸のように音速で前方へと射出された。
「きゃあああああああああ!!!」
私の姿はもはや速すぎて消え、声だけが早朝で誰もいない街道に響きわたったのだった。
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