テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します
ご本人様方とは一切関係ありません
『悪いけど、もう来ないで』
手にしたスマホの画面に浮かび上がったメッセージに、思わず「うぇ」と変な声が漏れた。
簡潔かつ愛想の欠片もない言葉。
言外に「返信もしてくれるな」と聞こえてきた気がしたのは、俺の思いこみだろうか。
「どしたん、ないこ」
妙な声を上げたきり黙りこんだ俺に、まろが首を捻りながら呼びかけてくる。
事務所で仕事を終えた後「うちで飯食うか」なんて話になり、買ってきた夕食を平らげたところだった。
食後にコーヒーでも淹れようと立ち上がりかけた瞬間のことだ。
「あーいや…うん、まぁ…」
やけに歯切れの悪い呟きに、まろは「なんやねん」と苦笑いを漏らす。
それを横目で一瞥した後、俺はもう一度スマホに視線を落とした。
…もう来ないで、か。
またか、という気持ちが正直なところだった。
付き合い始めて1か月ほど経った相手からの一方的なメッセージ。
ここ数か月、誰かとそういう関係になるたびにこれくらいの時期にこんな言葉が送られてくる。
…いや、「ごめん」「別れてほしい」ならともかく、「もう来ないで」なんてここまで突き離すようなストレートな言葉は珍しいかもしれない。
自分が誰と付き合っても長続きしない…むしろ毎回と言っていいほどフラれる要因に心当たりはある。
独白のようにここまでのことをぽつりぽつりと呟くと、まろは「え、何その要因って」と少し身を乗り出すようにして尋ね返してきた。
顔だけを仰向けるようにしてこちらへ向ける。
「かわいくないんだと思うよ。付き合ってみて『あ、違ったなー』って思うんだろうね」
別に俺はゲイだというわけではないけれど、最近は付き合う相手は断然男が多かった。
後腐れなく別れられるし、面倒ごとが避けられる可能性が高いからだ。
どこぞのバーで隣席になった人や、知り合いの紹介を経て出会った人など様々だ。
特別希望したわけでもなかったけれど、立場的には抱かれる側に回ることの方が多い。
だけど俺はきっと、彼らが期待したようなかわいげのある「抱かれる側」の人間じゃなかったんだろう。
背が低くて愛らしいキャラでもないし、高い声で懐いてくるわけでもない。
「会いたい」と告げられても仕事優先は譲れず、「今日は無理。また今度ね」なんて媚びもせずに言い放つ。
予定が空いてる日でも疲れていたら自分の時間を優先するし、たまに「これじゃ相手にさすがに悪いな」と思って時間を作って会った日も、きっと取り繕えない義務感のようなものが漏れ出ているんだろう。
かわいさの欠片もないことなんて自分で分かってるよ。
「…へぇ? 意外」
俺の言葉に、まろは眉を少しだけ持ち上げてそう言った。
「『意外』?」
「うん。仕事でしっかりしとらないかん分、ないこってプライベートやと甘えたっぽいやん」
「見てきたように言うなっつーの」
「見んでも分かるけどなぁ」
ローテーブルの上に頬杖をついて、まろは立ち上がった俺を見上げてくる。
ふん、と鼻であしらって踵を返すと、俺はキッチンへと足を向けた。
棚からコーヒーの入った瓶を取り出す。
今日は仕事で疲れたし、来客といってもまろだし、インスタントで十分だろ。
マグカップにインスタントの粉をぶちこみながら「お前に何が分かるんだよ」なんて唇を尖らせて漏らすと、あいつは更におかしそうに声を上げて笑った。
「んー、多分ないこ自身よりないこのこと分かっとる自信あるけど」
「へぇ?」
ほんの数十秒で沸いた熱湯を、カップに注ぎ込む。
程よい温度なんて知るかと、気心知れた相手にはこうして急に無遠慮になるところも俺のかわいげなさの要因なのかもしれない。
「じゃあ聞くけど、ないこ今日は疲れてないん?」
急に変化球を投げられた気がして、俺は目をぱちぱちと瞬かせた。
粉を溶かすように一度スプーンでぐるりと掻き回す。
それからそのカップを2つ手にすると、元いたまろの方へと戻った。
まるで自分の家のように当たり前に常備されている青色のマグカップを、あいつの前に差し出す。
「疲れてるに決まってんじゃん。まろ、今日の俺の働きっぷり見てただろ?」
朝からミーティング続き、昼過ぎにはイレギュラーな事態に見舞われて対処に追われた。
夕方になってようやく人心地ついたかと思ったが、明日納期の案件があったことに気づいた。
ちょうど朝からこっちに来ていたまろが手伝ってくれたから事なきを得たようなものだ。
精神的にも肉体的にも、朝から馬車馬のように働き疲弊してるに決まってんだろ。
「じゃあそんだけ疲れとるのに、帰り際に俺が『ないこんちで飯食お』って言うた時断らんかったんは何で?」
「…え?」
「疲れとったらたとえ恋人の誘いでも断って、自分の時間を優先するんちゃうかった?」
「……そ、れは…」
さっき自分が口にしたばかりの言葉をなぞられる。
「や、だってそれは違うじゃん。最近知り合って付き合い始めた相手と、ずっと一緒のメンバーは同列じゃないじゃん」
「……ふぅん?」
「なんだよその目」
揶揄するように楽しげな目が細められて、小さく俺は舌を打った。
居心地の悪さを覚えながらも、問われた意味をもう一度考え直す。
…うん、最近「そういう」関係になっただけの相手と、ここまで苦楽を共にしてきたメンバーが同じなわけがない。
疲れててもまろに誘われたら一緒に飯食いたいと思うし……。
そこまで考えて、「いや…?」とふと思考が止まったのを実感した。
つい昨日、ほとけに「ないちゃんご飯いこー!!」と言われたとき、「忙しいし疲れてるからまた今度ね」なんてかわしたっけ。
ぶーぶー口では文句を言いながらも「いいよーだ。じゃああにきと2人で行くもんね」なんて、気を悪くした素振りもなく言い放たれたのが記憶の片隅に蘇ってきた。
「ちなみに3日前はりうらの誘いも断っとったよ」
「…え」
「先週はしょにだ」
「うそ」
「ほんまー。時間さえあればフッ軽なはずのないこが断り続けとるから、よっぽど疲れとるんやろなって多分皆思っとるよ」
「……」
自覚のなかった情報を与えられて、俺は思わず絶句した。
返すべき言葉を失い、薄く開いた口からは吐息しか漏れない。
「……そんなんでよく今日俺を誘ってきたな、お前」
ようやく零した言葉に、まろは「んはは」と楽しそうに笑った。
「俺は断られる気せんかったもん」
どこから出てくるんだか、その自信。
呆れて思わず口を噤んだ俺に、まろはちょいちょいと手招きした。
立ちっぱなしだった俺を座った態勢で見上げ、自分の隣を指し示してくる。
言われるままそこのラグの上に腰を下ろし、カップはテーブルに置いた。
まろのこういうところはたまによく分からない。
こいつの性格の根底には「臆病」や「慎重」なんて言葉にぴったりな特質があって、誠実・謙虚故に自己主張も激しくない。
なのにたまに、こうして自信溢れるような目をしてくることもある。
まるで「自分には全部お見通しだ」とでも言うように。
俺のことなら全て分かっているとでも言うように。
「ほんまにないこにかわいげがないと思ったんやったら、そいつらの見る目がなかったんやろうな」
話題をさっきまでのものに戻して、こっちがこっぱずかしくなるようなセリフをさらりと吐く。
そしてまろは「もしくは」と言葉を継いだ。
「そいつらがないこのかわいいとこ引き出されへんかったか、どっちか」
あまりにも流れるように言うものだから、俺は呆れたように唇をへの字に曲げる。
「…なんか、自分なら引き出せるとでも言いたげじゃん」
「うん、引き出せるよ?」
多分、なんて付足しながらまろは口元を緩めてふわりと笑んだ。
かと思うと、言葉を継ぎながらもその手がこちらに伸びてくる。
俺の手首の辺りを掴んで、ぐいと引いた。
「ないこのかわいさってさぁ、そいつらが求めとるようなかわいさじゃないやん。所謂『男同士の抱かれる側』に求められるようなかわいさじゃないよな」
「……」
「ないこのかわいいとこは、もっと『人間的な』かわいさやん?」
いや知るかよ。
いつものように軽くツッコんでかわせばいいだけのはずなのに、何故かその簡単なはずの言葉が出てこなかった。
息を飲んだその隙に、さらに強く引っ張られる。
よろけるようにしてまろの方に倒れかけた俺を、あいつは「よいしょっと」と呑気な声を出しながら腰の辺りに両腕を回し、担ぐようにして持ち上げた。
「相変わらず軽いなぁ」
「お前の力が強いんだよ…!普通はそんな簡単に大の男を持ち上げらんないって!」
抗議も空しく、まろは座ったまま俺をラグの上から引っ張り上げるようにして抱き止めた。
そのまま自分の膝の上に横向きに座らせる。
90度の角度に互いに座る形になったはずなのに、頬に添えられた手が逃がさないとでも言うように俺の顔をまろの方へと向かせた。
いくらメンバーで仲間と言ってもこんな至近距離で見つめ合うことはまずない。
気恥ずかしさが込み上げてきて目を逸らそうとしたけれど、まろの手がそれを許さなかった。
ゆるりと、耳の上側の縁を親指がなぞる。
そしてそのまま下へと下りて、耳たぶをふにふにと弄んだ。
思わず「…ん…っ」と自分でも驚くような声が飛び出て、片手で口元を覆ってしまう。
「ないこ、耳弱いよなぁ」
ASMRとかも恥ずかしがるもんな、なんて嘯きながらも、まろは手を止める気配はない。
親指と人差し指で耳を摘まんだかと思うと、中の部分を撫でられてまた変な声が上がりそうになる。
「恥ずかしい? 自分の声」
まろの言葉に、右手で自分の口を塞いだままぶんぶんと頭を縦に振った。
だからやめろ、と言いたかっただけなのに、あいつはにこりと笑む。
…めちゃくちゃ嫌な予感しかしない。
「じゃあ聞こえんように塞いであげる」
まろの大きな手が、俺の両耳を閉じ込めるようにして塞いだ。
その意味が分からずに「え?」と目を見開く。
何が起こっているのか理解できないまま戸惑っている俺の唇に、まろのそれがそっと重ねられた。
「…っ」
閉じていた唇の上を、なぞるように優しく触れる。
え、何で俺メンバーにキスされてんの…?なんて頭の中は混乱していたけれど、不思議と嫌な気分はなかった。
「やめろ」とか「いやだ」という声を上げるのが普通なのではと思う自分も確かにいるのに、頭に浮かんだ言葉はそれよりも…。
もっと、なんて俺の心の声が聞こえたかのようなタイミングで、まろの舌が俺の唇を割った。
ぬるりと入り込んでくる舌が俺のそれに絡み合う。
唇を触れ合わせるだけのさっきまでのキスよりも深くなったそれは、ぴちゃりと水音が増した。
耳を固く閉じられたせいで、その艶っぽい音が脳内で響くようにこだまする。
「んぅ…っ」
聞こえないように塞いであげる、なんて嘘じゃん。
塞がれたせいで余計に自分の声が脳内で反響する感覚に、羞恥心が募っていく。
固く閉じた瞼の上で思わず眉を顰めたけれど、まろは構わず舌を絡めた。
くちゅりという卑猥な音が、こんなにも煽情的に聞こえたことはない。
ずくんと腰の辺りが疼くような感覚が走り、たまらず腕をまろの首に回した。
そのまま抱き着くようにホールドして力をこめる。
キスをすれば体は反応するし、セックスすれば快感を覚える。
それは当然の摂理で、誰とそういう関係になっても例外じゃなかった。
だけど、こんなにも自分も求めにいくようなキスをされたことはあっただろうか。
もっと、と欲深くなるような。
それでいて胸のどこかがきゅっと切なく悲鳴をあげるような…。
きっとこれは、まろが相手だからだ。
そう気づいたとき、まろが俺から唇を離した。
全て見透かしたかのようにその口元を緩め、優しく…だけどどこかからかうような笑みが浮かぶ。
「やっと気づいた?」
言いながら、まろは俺の体をまたそっと少し浮かせるようにして持ち上げる。
だけど今度は、柔らかいラグの上に優しく押し倒された。
…どうやら俺は、まろのことが好きだったみたいだ。
多分、もうずっと前から。
待ちくたびれた、なんて言いたそうな顔をして、まろは嬉しそうに笑う。
「ないこのかわいいとこ引き出せるんは、俺だけやと思うよ」
いつも謙虚で、人を押しのけるような自己主張なんてしないまろ。
そんなあいつが紡いだ言葉は、まるで俺の全身を包むように穏やかに降り注いだ。
コメント
1件
謙虚な青さんが自信たっぷりな1面があるのもギャップ萌えできゅんきゅんしてます…!! 桃さんの「人間らしい可愛さ」分かる気がします…桃さんの可愛さを引き出せるのは青さんであって欲しいと読んでいて思うばかりでした😖💘 どこまで虜にさせるのですかというくらいあおば様にもあおば様の作品にも夢中です…🎶🎶 豊富な知識といい言葉選びといい尊敬しかありません…😭💕癒しをありがとうございます> ̫<