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第1話 主様になった神様
カラン、と音を立てて賽銭箱に何かが投げ入れられた。
寂れて参拝客も居なくなって朽ち果てるのを待つだけの小さな神社に人間が訪れるだなんて珍しい。最近来る客と言えば野良猫か烏くらいだ。暇を持て余し力も殆ど失ってしまった妖狐は久しぶりに寝っ転がったままの体を起こして人間の願いを聞きに賽銭箱に近づいた。
「…執事達との縁を切ってください」
これは珍しい願いだ。昔は五穀豊穣とか縁結びの願いばかりだったのに、この人間は縁切りを望んでいる。しかもその相手が執事達とはどういうことだろうか?
妖狐は人間が立ち去った後に賽銭箱を開けて投げ込まれた物を確認した。賽銭箱にはお金ではなく金色の指輪が入っていた。
『…ふむ。これが執事達とやらとの縁を結ぶ物だったのかな?売ればお金になりそうなのにわざわざ私の神社の賽銭箱に投げ入れるとは…それだけ縁を切りたかったのか?
…それにしても私はもう力も殆ど残っていないというのに縁切りの願いをするだなんて物好きな人間も居るのだな。まぁ縁切りくらいなら今の私にもできそうだ。でも執事達とは一体誰のことなのだろうか?さっきの人間には現世の縁は見えなかったし…』
妖狐はしばらく考えてから指輪を拾い上げて人間に化けた。と言っても力が弱くなったせいで、昔は年齢性別など好きに変えられたが、今は幼稚園児くらいの女の子にしか化けられない。それでも指輪の力を調べるくらいのことはできるので特に気にすることはない。
指輪には強い縁を結ぶ力が宿っているらしいのは分かったので、とりあえず指輪を嵌めてみてから誰か縁のある人間が訪れるのを待ってみようと思ったのだ。
『さて、どんな執事とやらが来てくれるやら…』
小さなお手々の小さい指に指輪を通した瞬間、妖狐の視界がブラックアウトする。こんなこと生まれてこの方無かったのにな、と思いながら妖狐は意識を手放した。
「…様、主様…」
妖狐は誰かに声を掛けられている気がして眠たい目を開くと、寝ている寝台の周りに成人男性と思しき面々に覗き込まれていた。軽く10人は居る。妖狐は取って食われるのではないかと冷汗をかきながらとりあえず起き上がる。
『あ、あの、えっと…』
寝台をぐるりと囲むように立っていた男達は妖狐が怖がっているのを見て、近くの仲間(?)に声を掛けて半数以上が退出していった。
残った男達の中の、白黒の髪で一房だけ桃色が入っている男が優しく微笑んで深々と頭を下げた。
「はじめまして、主様。私はベリアン・クライアンと申します。どうか天使から人々を守るため、貴方様のお力を貸していただけませんか?」
『力を…?それは私では難しいと思うのですが…』
妖狐が委縮すると、反対側に立っていた青い髪で赤い目の男が安心させるように妖狐の手を取った。
「大丈夫です。力の開放さえしてくだされば、後は執事達が天使を殲滅いたしますので、主様が戦う必要はありません。どうか安心してください。必ずお守りいたしますので」
まぁそれくらいならできるかな、と妖狐が体の力を抜くと、男は柔らかい顔つきになって離れていった。
「…それにしても、随分幼い主様だね。でも受け答えの言葉はとてもしっかりしていたね。これならなんとか天使の説明も理解してくれるかな?」
褐色の肌に白い髪の男が腕組みしながら妖狐をしげしげと見ている。確かに見た目は幼児であるが中身は数千年生きた妖狐である。人間の言っていることを理解することくらい容易いことだろう。妖狐は男達が口にする「天使」という聞き馴染みのない言葉の意味を理解するため、説明を求めた。
『その…「天使」というのはどんな存在なのですか?それから人々を守って、殲滅する必要があるのですよね?私の役割は「力の開放」ということですが、それはどのように行えば良いのですか?』
その姿に見合わず大人の様な口の利き方をする妖狐に男達はざわついた。
「ふふ、新しい主様はどうやらとってもお利口さんなんだね。勿論、天使や力の開放について説明をさせていただきます。そして、我々悪魔執事についても」
唯一冷静に妖狐を見つめていた赤と黒の髪の男が微笑みながらそう言った。
それから天使と悪魔執事について、力の開放の方法などの説明を聞き、妖狐は大方理解をしたものの「主様」と呼ばれることに違和感があるなぁと思っていた。
部屋に残った室長達の自己紹介をしてもらって、何か疑問などは無いかと問われて、その違和感と前の主であったであろう縁切りを願った人間のことを打ち明けた。
『その…「主様」と呼ばれるのに違和感があって…どうしてそう呼ぶのか知りたいです。
それと、前の主様であった人間がどうして縁切りを望んだのかも…』
すると、悪魔執事達はと考え込む仕草をした。
「指輪に選ばれた方を主としておもてなしするのが慣習となっているので、どうして「主様」と呼ぶのかと言われると…昔からの決まりだから、という返答になってしまうかと…
それで納得していただけますか?」
ベリアンがそう答えると、妖狐はまぁ自分もお狐様だとかお稲荷さんだとか好きなように呼ばれていたし、昔からの決まりを破ってまで違う呼び方をさせるのは面倒だろうということで納得した形になった。それと敬語は使わず、執事達のことは呼び捨てで呼んでほしいということも受け入れた。
妖狐は正直、生まれてから敬語を使ったのは神界で上位の神々に報告をする時くらいしか使わなかったので話しにくかったので助かったと思った。
「そして、前の主様が縁切りを願った理由は…」
ベリアンはそこで言葉を切ってしまった。妖狐は聞いてはいけないことを聞いてしまったのかとちょっと申し訳なくなった。傷つけるつもりはなかったのだ。ただ純粋にどうしてあの人間が強くて優しいであろう執事達と縁を切りたいと願ったのか知りたかっただけなのだ。
「ベリアン…きっと前の主様は天使狩りが苦痛だったから縁切りを願ったんだと思う。それに俺達悪魔執事は人々に忌み嫌われる存在…その主様だからと嫌がらせも沢山されたからね…それが嫌だったんだろうね」
ベレンが後を継ぐように説明をしてくれた。人間とはやはり身勝手で感情的な存在なのだなと妖狐は人間の愚かさを再認識した。
「ところで…主様。貴方はどう見ても年齢相応の話し方をしていませんね。もしかして、私たちの様に人間ではないのではないですか?」
ルカスがそう言うと執事達は「確かに…」と小さく呟く。
妖狐は別に自分の正体を明かすことに抵抗はなかったので、その問いに頷いて口を開いた。
『私は妖狐だよ。昔はどんな姿形にも化けられたのだけれどね、信仰する人間が居なくなったから殆どの力を失ってしまった。今の妖力では幼子に化けるのが精一杯なんだ。
力の開放は人間の姿のほうが都合が良さそうだからこのまま過ごさせてもらうよ。狐の姿も見たいかい?まぁ昔の様に人間よりも大きくて尻尾が9本ある姿にはなれなくて、その辺の子狐と変わらない姿だろうけれど』
その言葉にハナマルが納得したように頷いた。
「なるほどな、主様は皆から忘れられたお稲荷さんだってことだな?」
『その通り。すんなり受け入れてくれるのだね。もっと気味悪がられるかと思っていたよ』
しかし、ハナマル以外の執事達は全く理解が追い付いていないという様子だ。妖狐はちょっと考えてから分かりやすく説明をすることにした。
『簡単に言うと、私は五穀豊穣や人々の守護のために祀られた神だよ』
「「「「「神様!?」」」」」
執事達は信じられない物を見るような目で妖狐を見つめる。
『じゃあ証明の為に狐の姿になろうか』
妖狐はにやりと笑うと寝台の上に立って少し皴の寄ってしまったシーツに手をつけ、四つん這いの姿勢を取った。その瞬間妖狐の体が光って形を変える。小さかった体がもっと小さくなって、ふわふわの白い毛に長い尻尾の子狐になった。
『どうだい?これで証明できたかな?』
続きはネップリでお読みいただけます。
pixivのフォロワー600人記念としてネップリを登録させていただきました。
表紙込みで25ページになっております。
10⁄17 7時ごろまで印刷可能です。
ユーザー番号 : PJJ8K9G5L3
ボックス名 : MAKO シェアボックス
印刷できないなどの不具合などございましたらお知らせください。
よろしくお願いいたします。
コメント
3件
え、待ってこれすっごくいい…!!🌸 神様が妖狐でしかも幼女姿ってギャップ萌えがすごいんだけど!?そして悪魔執事たちが「主様」って崇めてるのに実は神様だったってオチ、めっちゃ胸アツです😭💕 縁切りから始まった物語がどう動くのか気になりすぎる…続き読みたいよお〜!✨