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そうして私はブベーニン伯爵邸の一室に監禁された。

お父様は余程、サンキーニとかいう男爵からお金を貰いたいのか、肩は治療してもらえた。けれどリヴェとは……。


「私はあの黒い毛並みに包まれていないと、安心できない」


眠れないのだ。お陰で私の目の下にはクマができていた。

それでは困ると、お父様は一日二食だった食事を三食に。よく眠れるようにと、質の良いマットレスとシーツに替えてくれた。


それでも私の体調は改善されなかった。


だって、リヴェがいないのだから仕方がないじゃない。

会わせてほしい、リヴェに。

ひと目だけでもいいから……会いたいよ……。


「ひくっ……ずずっ……」


すでに日付の感覚もない。いつ、サンキーニ男爵のところに嫁ぐのか。ある意味、死刑判決を待っているような状態だった。



***



そんなある日、扉がノックされた。


お父様やベリンダお姉様は、そんなことはしない。では、誰が? と思っていると、ブベーニン伯爵邸では見かけない制服を着ているメイドたちが入ってきた。


「失礼致します。ダリヤお嬢様で間違いはございませんか?」


思わずメイド長、と呼んでしまいたくなるほどの風格と佇まいをした女性が、一歩前に出てきた。


「は、はい。そうですが」

「やはり。亜麻色の髪に赤い瞳」


誰かと間違えないために、私の容姿を確認しているようだった。ベリンダお姉様はお父様譲りの金色の髪に、お母様と同じ紫色の瞳。

ブベーニン伯爵邸で亜麻色の髪と赤い瞳を持つ者は、私しかいなかった。


「ご主人様より、お支度を手伝うように仰せつかっております。よろしいですね」

「え? ご主人様って?」


誰のこと、と聞きたいのに、体力の衰えた私は抵抗できず、見知らぬ制服のメイドたちにされるがまま、着替えさせられた。

さらに髪までもセットされ、まるでブベーニン伯爵邸に来た頃のような。そう、令嬢と名乗れるほどの見た目になっていたのだ。


「あ、あの……これは、どういうことですか?」


働かない頭を懸命に動かして、質問をする。見知らぬ人間を着飾り、それはご主人様の命令だという。

それはつまり……サンキーニ男爵から?


とうとう嫁ぐ日がやって来た、ということなのかしら。貴族の作法が分からないけれど、確か婚約をしてから結婚ではなかったの?


ううん。今の私は監禁されているんだもの。しかもこの婚姻は私の有無なんて関係ない。

お父様から話を聞いた時はもう、婚約させられていた可能性だってある。


椅子に座りながら俯いていると、メイド長らしき人物が手を差し伸べた。


「お顔をお上げください。大丈夫です。ダリヤお嬢様が心配する必要は何一つ、ございません」

「で、ですが……」


わけも分からないのに、そう言われても説得力はなかった。


「外に馬車が用意されています。参りましょう」

「え? もう?」

「はい。ご主人様が今か今かと待っておりますので。遅れるようなことがあれば、私たちが怒られてしまいます」


その言葉に私は勢いよく立ち上がった。


こんなに優しく語りかけてくれて、こんなに綺麗に着飾ってくれた人に迷惑をかけられない! かけたらバチが当たるわ。


「それは大変です。今すぐ行きましょう。私のせいで怒られるなんて、あってはならないことですから」

「ありがとうございます。ですが、私どもに敬語は必要ありません」

「ですが……」


親切にしてくれた人に、タメ口なんてきけない。


「そうですね。急に変えることは難しいと思いますから、追々直していただけると有り難いです」

「すみません」

「とんでもございません」


深々と頭を下げたメイド長らしき人物は、扉の方へと向かって行った。


一体、サンキーニ男爵とはどんな人物なのだろう。

このような人のご主人様なら、思ったほど悪くない人なのかもしれない。仮に悪い人物でも、この人がいてくれるのなら、頑張れそうだ。


私は一歩、足を前に踏み出した。


けれど私の歩みはすぐに止まってしまう。玄関先がざわついているからだ。それも時折、怒鳴り声が聞こえてくる。


「だから、何故この馬車に娘が乗れないのだ!」

「先ほども言ったように、ご主人様がお求めの令嬢ではないからです」

「何を言っている。フォンス侯爵様は我が家の娘なら誰でも構わない、と言ったではないか。だから、ベリンダを……」

「お忘れですか? 条件は飼い犬と一緒だと言うことを。一緒に行かれない令嬢では困るのです。そして、飼い犬はすでに……」


飼い犬? 我が家で飼い犬と言ったらリヴェしかいない。


私は御者の言葉に思わず駆け寄った。その近くにお父様とお母様。ベリンダお姉様がいることも忘れて。


条件は飼い犬と一緒に嫁ぐこと

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