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Dr.STONE 夢小説
※本編の物語に夢主を関わらせています。
(Dr.STONE 龍水編の気球のシーン)
「空を飛ぶんだよ〜!?そりゃもう、夢みたいなんだよー!」
スイカが目を輝かせて手を振る先に、まだ途中の骨組みだけが見える巨大な気球のフレーム。
その横で、龍水が自信満々に腕を組み、千空とゲンがそれぞれの役割をこなしていた。
「この植物、シナノキで合ってる?繊維が柔らかいのに丈夫だね」
そう言って、縄の素材になる木の皮を丁寧に裂いていたのが、東風 翠だった。
その手つきはまるで、木と会話でもしているかのように穏やかで正確だった。
「おう、正解だ。シナノキの靭皮繊維だな。軽くて強度もバツグン。飛行用のロープにはもってこいだ」
千空が背後から声をかけると、翠はうん、と頷いてから少しだけ首を傾けた。
「でも……」
「ん?」
「気球って、燃える布を空に浮かべるんでしょ?火と布って、相性悪くない?」
「その通りだ。だから難しい。——だがやるしかねぇんだよ。“空を制する”ってのはな、未来の科学帝国の足がかりだ」
その目の奥に宿る光に、翠はそっと笑う。
千空の“未来を見る”視線は、誰よりも遠くまで届いていた。
•
気球製作の中で、翠は植物素材の選別と強化処理に貢献していた。
「この灰、松の枝を焼いたもので合ってる?」
「おっ、さすが翠ちゃん!ちゃんとアルカリ性になってるよ〜。天然の苛性ソーダってやつだネ!」
ゲンが親指を立てて笑いながら言った。
「この“灰汁”で麻布を洗えば、繊維がしまって撥水性がちょっと上がるからね。つまり……」
「少しでも火に強くなる。なるほど、草の灰も捨てたもんじゃないね」
彼女はさっと作業に戻り、布を灰汁に浸して揉み始めた。
その様子に、ゲンはしみじみと呟く。
「翠ちゃんってさ、何かこう……“地に足がついた夢”を見てるよね」
「?」
「フワフワしたこと言ってるようで、根っこはしっかりしてる。ジーマー、ステキなギャップぢゃん?」
翠は気づかず、布を揉む手を止めない。
•
そして、ついに気球が完成する日。
「さあ、諸君!空への航海の幕開けだァ!!」
龍水の声が青空に響き渡る。
千空とゲンが火を調整し、巨大な布の塊がゆっくりと膨らんでいく。
スチームゴリラ号の発進に匹敵するほどのスケールに、スイカは手を叩いてはしゃぎ、クロムは真剣な顔で計測器を持っていた。
そして、ゆっくりと地面から離れる気球。
「すごい……本当に、浮いてる」
翠は、ほんの一歩だけ前に出て、空を仰いだ。
その横顔に、ゲンがぽつりと呟く。
「……まるで、空の植物みたいだネ、翠ちゃんって」
「え?」
「風に乗って、でもしっかり根は残してくってとこがさ」
彼の言葉に、翠は「ふふ」と短く笑っただけで、また空を見上げた。
「空って、何かの上じゃないと歩けないから、どこまでも“生き物がいない場所”って感じがするんだよね。でもそこに行けるって、なんか……」
「ロマンチック?」
「……科学的に意味がある、って思った」
「ぶっは〜!やっぱ翠ちゃんだよ〜!」
ゲンが後ろでひとり肩を揺らして笑っていた。
•
こうして気球開発という、科学とロマンの融合プロジェクトは、仲間たちの手で一歩ずつ完成へと近づいていく。
空を目指して作られた布と木と火の塊は、
どこか不思議な形で、地に根を張る翠の心にも、そっと新しい風を吹き込んでいたのだった——。