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数分経った頃、俺はまた口を開いた。
「まあ、昔の事情は分かった。俺が何も知らされてなかった事はまだ許せねえけど……けど、じゃあなんで今その妹が突然戻って来たんだ?」
母ちゃんが何か言いかけたが、美紅が先に口をはさんだ。
「もうイザイホーが開けない……それが分かってしまったから……」
またかよ! 今度はイザイホー? 沖縄の言葉って英語より始末悪いな。母ちゃんが後を引き継いで言う。
「沖縄本島の近くに久高島という小さな島があって、そこで十二年に一度、その琉球神道の大きなお祭りをやるの。それをイザイホーと呼ぶのよ。これは島中の大人の女性が琉球の神様の巫女として正式に認められるための儀式なんだけど……1978年を最後に途絶えてしまったの」
「じゅ、十二年に一度?それって干支の一周りじゃねえ?」
「そう。琉球神道ではこれ以上ないという神聖なお祭りよ。でも、さすがに沖縄も近代化してきて、イザイホーを主催するノロも高齢化してね。後を継いでくれる女の子も減る一方。次のイザイホーは1990年だったけど、結局開けなかった。その次の2002年にもね。まあ、あたしはずっと東京にいたから詳しい事は分からないし、美紅もまだこの年だから大体は、の話なんだけど……」
ここで母ちゃんはテーブルのコップを取って麦茶を飲んだ。それから続ける。
「地元の人たちは次の2014年、つまり再来年のイザイホーはなんとかして復活させようと必死でいろいろやったんだけど、結局後継者が足りなくてお祭りの開催は不可能という事になってしまったのよ。巫女の承認の儀式であるイザイホーがもう二度と開けないのなら、ノロやユタという名前にも何の意味もなくなる。それにあたしの母さん、つまり雄二のお婆ちゃんね、もうさすがに年でユタの仕事も出来なくなったらしいの。でもって美紅がイザイホーで正式にカミンチュ……これは神様に仕える人という意味……そのカミンチュになれる機会も失われた。だったらもうこの子を大西風家に縛りつけておく意味もなくなった。だったら今からでも母親であるあたしの元に返して親子で暮らせ……そういう訳なのよ」
「ちっ。母さんも親父も勝手だけど、その婆ちゃんもずいぶん勝手だな。一度は無理やり連れ去っといて、今度はお返しします、はいどうぞ、後はよろしく、ってか? ああ、ついでに俺の母方の爺ちゃんも婆ちゃんももう死んでいない、それも嘘だったんだな?」
「お爺ちゃんがあんたが生まれる前に死んだのは本当だけどね。お婆ちゃんに関してはその通り。ごめん! この通り!」
と言って母ちゃんは両手を合わせて俺に向かって頭を下げた。俺はフーッとため息をついてこう言った。
「分かったよ。俺には実は妹がいて、諸般の事情でこれから一緒に暮らす事になる。仲良く暮らしましょう……それでいいんだよな?」
「そそ。分かってくれる?」