夏目班が目的の場所、潰れてしまった廃工場の立ち並ぶ角の施設に、行方たちは身を隠して待っていた。
「なんだか……如何にもって感じね……」
二宮にも緊張の様子が伺えていた。
意識して事件に参加するのは初めてだったからだ。
すると、一人の男がフラっと姿を見せる。
「え……ちょっと待って……。あの人……!」
その姿に、二宮は目を丸くする。
「なんだ? 知り合いか?」
行方の視界にも男の姿が目に入る。
男は、金髪の短髪に、異能教学園の制服を着崩した異能教学園の生徒だった。
そして、男は急に声を荒げる。
「オイ! お前か、最近俺らのシマを荒らしてるのは!」
姿を現したのは、以前、行方が取り逃した、フードを被った少年、コードネーム『ジュース』だった。
「今日は大将自らお出ましですか?」
「違ぇよ、俺は止めさせに来たんだ。そのドラッグを俺の仲間に売ることをな!!」
そして、やり取りの中、突如として行方は動く。
「行くぞ」
「え!? 今!?」
そして、二人の間に割って入った。
「異能探偵局だ。ジュース、お前の身柄を拘束する」
「ハァ……。またアンタたちか。懲りないね」
そして、金髪の男も行方たちの姿に目を丸くする。
「おわ、二宮じゃねぇか。なんでこんなトコに……」
「あはは……こんばんは……」
苦笑しつつも、金髪の男に会釈を送る二宮。
「流石に4対1はフリか……。まあ、交渉相手もいないんじゃ話にならないし、逃げるとするよ」
ニヤッと余裕の笑みで背を向けるジュース。
「夏目さん!」
「分かってるよ……行秋くん!」
その瞬間、夏目はジュースの目前にワープした。
そして、すかさず行方もジュースの背後に回る。
「ふーん、最初から僕の逃走ルートも計算済みね……」
すると、ジュースは腕をぐるぐると回す。
「異能探偵局はキレ者が多いって聞いてるし、僕としてもそんなの想定内なんだけどね」
そう言うと、ジュースはまたしてもニヤッと笑う。
ドコォ!!
そして、大きく跳躍すると、高さ何十メートルもあるビルの天井を破壊してしまった。
「じゃあね、探偵局」
「夏目さん、第2プランへ移行します!!」
その瞬間だった。
「それで逃げ切れたつもりか……?」
金髪の男は、廃ビルの屋上から逃げようとしていたジュースを捕まえていた。
「ハァ!?」
この行動には、流石のジュースも声を上げる。
予想外の事態に、行方も目を細めている。
「二宮……。アイツ、何者なんだ……?」
金髪の男は、ジュースを再び階下に落とすと、躊躇なく身動きを取れなくさせ、両腕を掴んだ。
「この俺様……黄金の野獣のシマを荒らして逃げられると思うな!」
「彼は、異能教学園が誇るNo.3の三年生。逸れ者の大将にして、光を操る異能者、『閃光一線』の異名を持つ、三嶋光希……!」
「あの生徒会長よりも上のナンバーか。そりゃあ、ジュースも手も足も出ないな」
そして、行方たちがジュースに近付いた瞬間、突如として、男は行方の目の前に現れる。
「やあ、こんばんは。探偵局さん」
白髪のその姿は、可憐で、ゆらりとした男だった。
「キキョウさん……すみません……」
「大丈夫だよ、ジュースくん。交渉相手が待ち伏せじゃ、流石に捕まるのも仕方ないもんね」
そう言うと、三嶋の周囲に白い花を生み出し、三嶋を拘束してしまった。
「その為に、今日は僕も来たんだ」
「夏目さん……」
「大丈夫だよ、行秋くん……。やることは同じだ……」
行方たちが警戒する中、男は飄々と立ち上がる。
「ねえ、異能探偵局。一つ、僕と勝負しないかい?」
「勝負……?」
「まず、ここにいるジュースを逃がしてやって欲しい。彼はまだ年端も行かない少年だ。その代わり、僕と鬼ごっこをしよう。僕は君たちに危害を与えない。彼が逃げ切るまでに僕を捕まえたら、アジトの場所を教えよう」
そう言うと、三嶋への拘束を解いた。
「そちらは四人、僕は一人。それに加えて、現役No.2とNo.3もいる。どうかな?」
「本当にアジトの場所を教えると……?」
夏目は白髪の男の提案に反応を示す。
「夏目さん、罠ですよ!! こんなの、勝負になるわけがないじゃないですか!!」
夏目の挙動に、二宮はすかさず仲裁した。
しかし、二宮の言動を行方は更に制した。
「いや、乗りましょう。キキョウと呼ばれた男は、No.3の三嶋を一瞬で拘束した男だ。実力が底知れない。二人掛かりで交戦となったらこちらが危うい」
「そうだね、俺も賛成だ」
こうして、ジュースは余裕綽々と去って行った。
「さあ、勝負開始だ……!」
キキョウの合図と共に、夏目は行方に駆け寄る。
「行秋くん、分かってるね?」
「もちろんです。行ってください」
すると、夏目は外へと向かって行った。
「あらら? 彼は参加しないのかい?」
「いや、あの人の異能は特殊なんだ。貴方を捕まえる為の策だ。気にしないでくれ」
「そっかぁ……それは楽しみだ……」
最初に動いたのは、No.3の三嶋だった。
三嶋は光の異能者。光の速度であらゆる場所へ移動することができる。
直様、キキョウの背後を取ると、瞬時に捕まえる。
「な……!?」
「さあ……現役異能上位者の実力を見せてくれ……」
捕らえたと思ったキキョウは、忍者の分身の術の如く、花に化して消えて行ってしまった。
「行方くん、もうここ取り壊し予定なのよね!?」
「ああ、そうだ」
「私の仕事……しっかり覚えてるわよ……!」
二宮は、自身の両手を赤く光らせる。
行方は二宮の行動を察知し、ボックスを取り出す。
「灰に……なりなさい……!!」
ボォン!!
廃ビルを丸ごと覆う爆発を、二宮が仕掛ける。
しかし……
「あらら……可哀想に……」
「あの爆発でも……効かない……!?」
キキョウは、自らの周囲全てに枝を纏わせることで、爆発の外傷を全て防いでみせた。
「さあ、捕らえたぜ」
しかし、その爆煙に乗じて、三嶋が動いていた。
今度はしっかりとキキョウを捕らえていた。
「廃ビル内に光はないから、少し弱っていたが、空から月の光が差し込んでパワーアップした。もうお前はどれだけ草を生やしたところで逃げられねぇぜ」
「わあ、流石だね。No.3にNo.2……」
そして、更にその背後に
「そして……行方行秋……。異能探偵局の頭脳と呼ばれるだけのことはある」
行方は三嶋の背後で拳銃を構えていた。
先程の二の舞にならぬよう、王手を取ったのだ。
「その銃の香り……中身は銃弾ではない。僕だけに効く、花を枯らす毒のエキスだね」
「そうだ。No.3が先程のように拘束されても、お前をここで確実に捕らえる」
「流石だね。じゃあ、奥の手でも使っちゃおうかな……」
その瞬間、キキョウの眼前に仮面の男が突如として出現した。
「次に会える時を楽しみにしてるよ。探偵局さん」
そう告げると、仮面の男と共に去って行ってしまった。
「瞬間移動の異能……。これが狙いだったのか」
そして、行方は夏目に電話を掛ける。
「すみません、待機してもらってたのに……。瞬間移動を持った仲間がいたらしく、逃げられました」
電話の後、暫くして苦笑いを浮かべた夏目が帰ってきた。