注意事項
・この作品はwrwrd様の二次創作です。
・本人様とは関係ありません。
・検索避けに協力してください。
・実在する病気名が出てくる故、難しい内容や長い作品となります。苦手な方は閉じてください。
・知識が無く、あやふやな部分があります。
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うんざりなほどに暑い夏の日。
いつものように、スクールバスから降りて、数分歩き見慣れた病院へ向かう。
暑くて3分も経たない間に汗をかいたので、朱色の豚の刺繍がついたハンカチで額を拭う。
できるだけ日陰を通り、自販機で緑茶を購入し1口喉を潤す。
ブブッと通知を知らせるスマホをポケットから取り出し、慣れた手つきでパスワードを入力する。
「今日のお昼ご飯」
と同時に、病院飯が送られてきた。
時計を見るともう3時だ。
恐らく、寝ていたのだろう。
「美味しかったか?」
と返すと、うん!というスタンプが1つ。
くすりと微笑み、止まっていた足をまた動かし出した。
コンクリートと靴がトントンとぶつかり合い、次第に病院が見え始める。
ブブッ。
通知がまた鳴り、スマホを取り出す。
「みっけ。」
そして、病院の入口に立つ彼を遠くから撮った写真が送られてきた。
ちらりと上を見上げる。
不自然に大きく開いた窓から、見慣れたアイツがこちらを見下ろしていた。
彼は大きく手をあげて、振った。
そんな毎日は、猛暑さえも忘れるほどに楽しかった。
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「やっほ、ci。」
「tn!!待っとったよ!!」
ciは手すりを頼りにこちらに近寄ってきた。
tnは咄嗟にciを支えて、ベットに誘導する。
「ん。あんま動くな、危ないやろ。」
「えーっ、でもリハビリしてんで?」
「リハビリはリハビリん時にやれ。今は安静にしてろ。」
「はぁい。」
ベットに大人しく横たわったciの額を撫でる。
「今日は、調子良さそうやね。」
「うん!!退院も近いかな!?!?」
「そうは…どうやろ。」
綺麗にキラキラと輝く向日葵に見とれてしまう。
「んふふ、tn俺見すぎ!!なんや、惚れた?」
「はは、だいぶ自分にご自信があるようで。」
「んふふっ、tnは中身で選ぶ奴やもん!!俺、優しいやんか!!惚れるんちゃう?」
「はあ、自分で優しいって言うか普通…。まあ、でもな綺麗な向日葵は好きや。」
ciはこてんと首を傾げた後、カーテンを開けて指さした。
中庭に咲いている向日葵の小さな花畑を。
「向日葵ってあれ?あれ好きなんか?」
「うん。でも、好きなのは綺麗で優しくて、努力してて…。俺が1番見てきた向日葵。1輪だけなんやで。」
「ふうん。」
日が落ちていき、橙色に成りゆく空と、風に揺られる向日葵の橙色が、重なり始めた。
「じゃ、そろそろ帰るわ。」
「うん!!またな!!」
「おう。」
静かに、病室の扉を閉じた。
窓から見える向日葵はゆらゆら揺れていた。
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慢性閉塞性肺疾患、またの名をCOPD。
想像しやすいのは、気管支喘息だろうか。
喘息と似た、気管支系の病気だ。
ただ、違う点は、COPDは進行性という点。
喘息は、アレルギーが関係しているが、COPDは喫煙が関係している。
ciの母親は、タバコ依存症でありずっと喫煙をしていた。
ciの父親は、喘息持ちであった。
つまり、幼い頃からリスクを背負い、遺伝によりciは幼くしてこの病気を患った。
進行性であることから、小学生の頃まではtnと共に学校へ行っていたが、中学生になり本格的に症状が出始め、入院することになった。
少し移動するだけで息切れしてしまうし、大きな声を出したり興奮すると咳き込んでしまう。
それが現状だ。
そのため、ほとんどベットか椅子に座っているので、リハビリとしてストレッチをしたり、体を少し動かしたりもしているのだとか。
ciの病室には、小さな本棚がありそこに沢山の図鑑が置いてあった。
鳥や、花など。
その本棚の上には、tnとの写真も飾っていた。
花の図鑑を取り出し、向日葵を探す。
窓の隙間から入り込む風に吹かれながら。
向日葵の花言葉「私はあなただけを見つめる」「憧れ」
その文字を見つけ、ciはくすりを微笑んだ。
tnが好きな理由がなんとなく分かった気がしたからだ。
窓から中庭を見下ろす。
沢山の向日葵が太陽を追いかけるように咲いていた。
「…私はあなただけを見つめる、かぁ。」
くふふと笑い、スマホを取り出す。
向日葵をアップして、写真を撮った。
その写真をtnに送る。
「tnの好きな向日葵、今日も綺麗やで。」
そう、文字を付け足して。
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「ci、おはよう。」
今日は学校が休みなので、tnは朝からやってきた。
ciは朝早いため、まだぐっすりと眠っていた。
閉じきったカーテンを少し開けてやる。
それから、ベットの隣にパイプ椅子を出して、腰をかけた。
すやすやと寝息を立てるciをぼんやりと見つめる。
時々ゴホゴホと咳き込むので、tnはその度に、頭を撫でてやった。
「…ci…、変わってやれたらなぁ。」
そうぽつりと呟くと、tnの手にぽんっと手が置かれた。
「変わらんでええよ?」
ciが目を擦りながら身体を起こした。
「おはよう、tn。朝から来てくれたんや!!」
「ああ、暇だったし。」
ふわふわと暴れる寝癖を、tnは優しく撫でる。
ciは嬉しそうにそれを受け入れた。
「ほんま、tnが居ると幸せやなぁ。」
「嬉しいこと言ってくれるやないの。」
「くふふっ、当たり前やん!!」
ケラケラ笑うciは、小さく咳き込んだ。
tnはその丸くなった背中をぽんぽんと摩った。
「大丈夫か、また進行してるんちゃう…?」
「ヒュッ…、ヒュ、ど、どうやろね。」
tnの方に傾き、肩に頭を乗せる。
辛そうな息が、tnの不安を煽った。
「ほんまに、大丈夫やろうな?お医者さん呼ぶ?」
「大丈夫やってば!!げほッ…ん"ッ。」
「とりあえず、寝転がり?」
tnは自身の肩に乗ってるciの頭を触ろうとすると、ギュッと防がれた。
「いやや…このままがええ、」
小さな声でわがままを言うciが、どうしても可哀想に見えてしまう。
「どうしてや、この姿勢キツイやろ、」
「ええねん、tnと少しでも近くに居たい。するとな、安心して落ち着くんよ…?…俺、tnと離れるの、嫌やねん、怖いねん。」
そんなことを言うciを、tnは抱き締めた。
強すぎない力で、ciが安心できるように。
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「ゴホッ…ゴホッ…、ヒュッ…、ぅ"、」
キリキリと痛む肺に顔を歪める。
カーテンの隙間から見える空はもう真っ暗だ。
ciは額に溢れる汗を手で拭った。
震える身体を抑えて、手すりを頼りに立ち上がり、窓の外を見る。
向日葵は暗い中でも綺麗に咲いていた。
ああ、tnが好きな理由がよく分かる。
ciはぼんやりと向日葵を見つめた。
ぽろぽろと涙が零れて、視界がぐにゃりと滲んでも、向日葵の橙色は綺麗に見えていた。
「ヒュッ…ぅ"、ん"ッ…ゴホッ、ゴホ。」
ぼふんとベットに倒れる。
ciは自分が終わりに差し掛かって来ていることを知っている。
tnもの別れが周りの皆よりも早いのも。
tnには友達が沢山いるから、きっと早く別れてしまう自分の事なんて忘れてしまうだろう。
そう、夜はマイナスな考えに支配されていた。
ああ、tnの声が聞きたい。
きっともう、聞こえなくなってしまう。
それは嫌だ。嫌なのだ。
自分は生きていたい。
大人になって、tnと沢山遊びたい。
叶わない願いも、きっとを願って考える。
自分を産んでくれた母親と父親には感謝している。だけれども、どこかで恨んでいる。
そんな自分を自分が理解出来なくて嫌いだ。
tn。会いたい。
今、猛烈に会いたいよ。
ciは歪んだ視界と震える身体に戦いながら、tnとの写真を手に取った。
ああ、この人はいつまでも自分を見てくれるのだろうか。
自分は、きっとこの世から消えてもこの人を見ているだろうに。
やだなぁ、まだ、生きていたいなあ。
ちっぽけな沢山の願いは捨ててでも、この大きな1つの願いだけ叶えてくれないだろうか。
生きてさえいればいいのに。
生きていたら。
そう考えていると、ふとこう思った。
死ぬのなら、この人にこれを。
ciは手すりを掴んで立ち上がった。
窓から見える向日葵は下を見ていた。
それから、ゆっくりと足音を立てないように病室を抜け出した。
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tn「…、ci。」
夜中、嫌な夢を見たような気分になり目を覚ました。
tnはスマホをちらりと見た。
ciからの連絡はないようだ。
今日は調子が悪そうだったから心配だ。
tnはリビングに行き、緑茶を取って口に含んだ。
ふう、と息を吐き気持ちを落ち着かせる。
…向日葵見たいなあ。
tnの大好きな向日葵は、もうすぐ消えてしまう。
そんなこと、知りたくないのに知っている。
それはもう身近に感じられないのに、そうと結論付けられている。
向日葵が、見れなくなるのは寂しい。
それは、長い夏が終わるのとは違う。
もっともっと長いのだ。
長い友情関係が崩れてしまうのだ。
ああ、もっと長くなれ。長く長く。
永遠にさえなってくれればいい。
そう思っていると、吐き気がしてしまい残った緑茶を流した。
自分の部屋に戻ると、tnのスマホは着信音が響いていた。
ciだろうか?
そう思いながらスマホを取ると、着信先は「○△ 病院」と表示されていた。
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tn「ci!!」
荒くなる息を無視して、とにかく走る。
送ってくれた母親を置いて、とにかく走る。
そこには看護師がいて、tnを落ち着かせた。
tnは落ち着けずにいて、荒い息を必死に出していた。
「あのッ…なにが、あったんですか!!」
「…ciくんが、病室を抜け出して外に居たんです。急に体力を使ったからと、ヒートショック…と呼ばれる症状によって意識不明の重体…に。」
「…ひーと、しょっく。」
聞いたことがあるような気がする。
急激な寒暖差が心臓、脳の血管や血液の流れに影響を及ぼすと、突然死することがある。
この寒暖差によって起こす症状を、ヒートショック、そう呼ぶ。
この猛暑、夜も暑いのだ。
ciが暑くないようにと病室はクーラーが付いていて涼しい。
急に外に出て、暑くなったことにより、ヒートショックを起こしてしまったのだ。
「ぁ"…ぁぁ、」
tnの口から、歪んだ声が漏れる。
「それと…こんな物が握られてたんです。これ、きっとtnくんに上げようとしたんじゃないですかね。」
看護師は、tnにそっと何かを渡した。
それは、1輪の向日葵だった。
強く握りしめたのだろうか、花の茎の部分はぐにゃりと曲がっていて、花はもう気力のないように萎れていた。
向日葵。
俺が好きだと話たからか?
tnは混乱し、向日葵を抱き締めた。
tnが好きなのは向日葵だ。
だが、この向日葵じゃない。
tnが好きなのは、ciの瞳の向日葵だ。
ciの瞳は非常に綺麗で、まるで向日葵のようだった。
tnは、そんな向日葵が好きだった。
「tnくん、そしてtnくんの保護者様…こちらに。」
医者が出てきて、扉を開けた。
tnはすぐさま走って中に入る。
そこには、向日葵を閉ざしたciがいた。
口には呼吸器を付けていて機械によって、呼吸をさせたり心臓を動かしているようだった。
「一応助かりました。ですが、もう自分で動いたり自分で呼吸をしたりが難しい状態です。凄く弱っています。面会は少しの間、禁止になるかもしれません。」
機械音に合わせて、上下に動くciの胸を、tnはぼんやりと見つめる。
ciの手のひらに、ぽつりと向日葵の花びらが握られていた。
「…ciッ、」
なんでこんなことをしたんだ。
まるで、自ら死に行くようなことを。
「それと、ciくんの慢性閉塞性肺疾患の状態が進行しています。…終末期の症状も見られました。末期状態で、こうなってしまったので、もう亡くなるまで呼吸器が外れないでしょう。」
こんな結果になってしまい申し訳ありません
と、医者と看護師が深々と頭を下げた。
tnはボロボロとダムが崩壊したように涙を流した。
ciのうっすら冷たい手を繋いで声をかけた。
「ciッ…向日葵見せてやッ、なぁッ、なぁっッ!!」
長い夏は、幕を閉じた。
綺麗な向日葵は、萎れて消えた。
主です!!ここまで長々と読んでくれてありがとうございます!!
いやあもう、暗い話になってしまいました。
私は遺伝?として気管支喘息を持っているんですけど、進行性のある慢性閉塞性肺疾患(COPD)を知って自分は楽な方なんだなと思いました。
そして、ヒートショック。
ヒートショックは名前だけ聞いたことあるなあくらいだったんですけど、本格的に調べましたね。
だから、寒暖差って凄く危険なんですよね。
物語はぐちゃぐちゃで複雑になってしまいました。
好きに考えたり、考察?をしたり、感想をコメントしてくれると主は喜びます✨️
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「ぜぇッ…ぜぇッ、ヒュッ…ぐッ。」
殴られたように痛い肺を無視して、なんとか中庭に辿り着く。
外は凄く暑くて、くらりとめまいがした。
吐き気がして、それすら耐えてなんとか向日葵の前に座り込んだ。
「ヒュッ…ヒュッ…ぁ"ッ、ゴホッ。」
やばいなあ。
死が近づいているのに、ciは冷静だった。
それから、向日葵を1輪掴んで、根元から引き抜く。
取れた。tnに、渡すんだ。
tn…。tnに…。
いやだなあ。
死にたくないな、これ自分で渡せないのかな。
ciは突然死への恐怖心が溢れ出した。
だが、もうその時には遅く、ふらりと地面に倒れ込んだ。
弱い力で必死に向日葵を掴む。
強い精神で必死に呼吸を繋ぐ。
生きたい。やっぱり、生きたかった。
でも、自分はどのみち、皆よりも早くここから消えてしまうんだ。
そんなので負けてしまうのなら、自分は自分を救ってくれた友人に、思いを伝えたい。
自分で、この思いが伝わるように伝えたい。
例え、それに犠牲が伴ったって。
自分の命が、もっと早く消えちゃったって。
このまま、地面に這いつくばって、ただただ生きるのはなんか癪だ。
もっと色んなことを知れるはずなんだ。
もっと楽しいことを体験できるはずなんだ。
なんで自分なんだろうか。
生まれたことは悪くないはずだろう。
ああ、神様は憎い。
こんな悲しい思いをするのなら生まれたくなかった。tnにも会いたくなかった。
いや…それは嫌かもな。
tnに会いたかった。それは、今もそうだ。
tn。tn。
最期に貴方の笑顔を見たい。
最期に貴方の体温に触れたい。
最期に貴方と抱き合いたい。
…ああ。全部どうせ叶わないんだろう?
なあ、そうだろう。そうだと言えよ。
生きたい。
今言った願いが叶わなくてもいいから、生きたい。
やっぱり、生きてたいよ。
死ぬのは怖い。辛い、目の前を見たくない。
ああ、ねえ。向日葵。
君は僕を助けてくれる?
そうか。ありがとう。
僕の思いを、彼に届けておくれよ。
向日葵。
夏は終わるよ。
僕と一緒に終わるよ。
向日葵。
君は僕と似ているね。
tnが向日葵を好きな理由、知りたいなあ。
ねえ、向日葵もそう思うでしょ?
この思いだけでも、届くだろうか。
コメント
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すみません💦受験勉強で見るの遅くなりました🙇♀️🙇♀️今回もとても感動するお話でした!目から涙が止まらないですぅ😭ココアビーンズさん気管支喘息なんですね…お体にお気をつけてください🙇♀️
やば … 泣く 向日葵と共にciくんが萎えていくの切なすぎる … 😭 tnさんが好きな向日葵はciくんの瞳っていうところがまた良い … ッ !! 自分に喘息の辛さは分からないんですが 、 絶対辛いですよね … ココアビーンズ様も気管支喘息を持ってらっしゃるんですよね … マシなんだなぁって思っても無理だけはしないでくださいね 。