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午前の授業。爆豪は珍しく最初のうちは真剣にノートを取っていた。
ペンを握る手はいつも通り力強く、隣のデクがチラッと見て「かっちゃん、今日やる気だね」なんて小声で笑うくらい。
だが、睡眠不足は隠せなかった。
前日の訓練で寝る時間を削ってまで新しい必殺技のイメトレをしていたせいだ。
まぶたの奥が重く、頭がふわっとする。
――寝るなよ、寝たら負けだ。
そう自分に言い聞かせても、黒板の文字が滲んでいく。
教室の空気が温かく、窓からの陽射しがじんわり頬を照らす。
気づけば、ペンが手から滑り落ちた。
「……zzz……」
相澤がちらりと視線をやる。
(まったく……またか)
だが今日は、いつもと違った。
爆豪の呼吸は深く、まるで限界を超えた後のように静かで穏やかだった。
肩を軽く叩いても、まったく反応がない。
「……寝不足、か」
相澤はため息をひとつついて、それ以上は起こさなかった。
「今日のこいつは放っとけ。倒れるまで頑張るタイプだ」
クラスの誰もが黙ってうなずいた。
──授業が終わり、夕方。
みんなは宿へ戻り、荷物をまとめたり、談笑したりしていた。
相澤だけがまだ教室に残っている。
机に突っ伏したままの爆豪は、微動だにしない。
「……おい、爆豪。もう帰る時間だぞ」
肩を揺すっても、反応なし。
「ほんとに……寝やがったな」
彼は静かにしゃがみこみ、爆豪の顔を覗き込む。
普段は険しい眉も、今だけは力が抜けていて、どこか子どものような寝顔だった。
「……無理してたんだな」
少し考えたあと、相澤はため息をつき、ゆっくりと爆豪を抱き上げた。
筋肉質な体はずっしりと重いが、教師として慣れているのか、驚くほど安定した足取りで廊下を進む。
夜の校舎は静かで、足音だけが響く。
外に出ると冷たい風が吹き抜け、相澤は小さくつぶやく。
「まったく、手のかかる生徒だ」
宿に着くと、部屋の明かりがもれていた。
「先生、おかえりなさい!」と耳郎たちが顔を出す。
だが、相澤が腕の中の爆豪を見せると、みんな声をひそめた。
「爆豪くん、寝てるの……?」
「あぁ。起こすな。やっと眠れたんだ」
相澤は静かに爆豪の部屋に入り、ベッドの端まで歩く。
そっと布団をめくり、慎重に体を下ろす。
爆豪の表情は、まるで長い戦いから解放されたように安らかだった。
毛布を肩までかけ、髪を軽く整えると、相澤は椅子に腰を下ろす。
窓の外では虫の声が響いている。
「少しは休めよ、爆豪」
低く優しい声でつぶやいた。
時間が過ぎても、相澤はその場を離れなかった。
寝返りを打つたびに布団が少し動くたび、目をやって確認する。
教師としてというより――見守るような、親心に近い感情だった。
やがて夜が更け、ランプの明かりが淡く揺れる。
静かな部屋の中で、爆豪の寝息と、相澤のページをめくる音だけが響いていた。
──こうしてその夜、爆豪勝己は久しぶりに何の夢も見ず、ただ深く眠った。
そして相澤は、朝までそのそばを離れなかった
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
鳥の声が遠くで聞こえる。
窓から差し込む光がゆっくりと顔にあたって、爆豪は眉をしかめた。
「……っ、まぶし……」
体を起こそうとした瞬間、背中に柔らかい感触。
見慣れたベッドの天井。
「……あ? 俺、なんでベッドに……?」
昨日の記憶を辿る。
授業中――寝落ちした。
でも、教室で寝てたはずだ。
気づけばここにいる。
「……誰が運んだんだよ……」と頭をかくと、部屋の隅から低い声がした。
「目ぇ覚めたか。」
「……っ!?」
声の方を見ると、椅子に腰かけた相澤が、腕を組んでこちらを見ていた。
目の下には少しクマができていて、どう見ても徹夜明けの顔。
「せ、先生……なんで……ここに」
「お前が起きなかったから、抱えてきた。」
あくまで淡々とした口調。だが、その一言で爆豪は一瞬言葉を失った。
「はぁ!? 抱えて!? お、俺を!? マジかよ!!」
「大声出すな。朝だ。」
相澤は軽くため息をつきながら、カップのコーヒーを一口。
その横顔が、どこか安心したように見えた。
「……ったく。いくらなんでも寝すぎだ。あのまま倒れてもおかしくなかったぞ。」
「……別に、そんなヤワじゃねぇし」
「強がるな。お前、昨日の朝からろくに食ってなかったろ。」
図星だった。
爆豪は口を閉じ、視線を逸らす。
(見られてたのか……)
相澤は立ち上がり、机の上に置いてあったパンと温かいスープを指さした。
「作っといた。食え。」
「……っ、別に……」
「文句言うな。生徒を倒れるまで放っとく教師と思うか?」
一瞬の沈黙のあと、爆豪は小さく舌打ちしてスプーンを手に取る。
「……ありがとよ」
「聞こえねぇな」
「っ、ありがとって言ってんだよ!」
相澤はほんの少し口角を上げた。
「素直に言えたじゃねぇか。それだけで十分だ。」
爆豪はスープをひと口飲み、ふっと息を吐いた。
体の芯がじんわり温かくなっていく。
目の奥の疲れがやっと抜けていく気がした。
「……先生」
「ん?」
「昨日……ありがとな」
「別に大したことしてねぇ。寝坊助の面倒見ただけだ。」
そう言いながらも、相澤の声はどこか優しかった。
窓の外では朝日が昇り、光が二人を照らしていた。
穏やかな時間が流れる中、爆豪は少しだけ照れくさそうに笑う。
「……次は、ちゃんと自分で寝るわ」
「そうしろ。じゃねぇと、また抱えて運ぶことになる。」
「絶対やめろッ!!!」
その叫びに、宿の外からデクたちの笑い声が聞こえてきた。
「かっちゃん起きたねー!」
「うるせぇぇ!!!」
朝の空気の中、いつもの爆豪が戻っていた。
そして相澤は、静かにコーヒーを飲み干しながら呟いた。
「……ほんと、手がかかる奴だ」
でもその目は、どこか誇らしげに微笑んでいた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
食堂には、朝のにぎやかな声が響いていた。
トーストの焼ける香り、スープの湯気、誰かの笑い声。
そんな中、爆豪は不機嫌そうに食堂へ入ってきた。
「……おはようございます、爆豪くん」
おっとりしたお茶子の声。
「おう」
ぼそっと返す爆豪。髪はまだ少し寝ぐせが残っている。
その瞬間――
「かっちゃん、おはよ!」
デクが元気に声をかけた。
「昨日の寝顔、めっちゃ穏やかだったね!」
「はァ!?💢」
その一言で、食堂が一瞬静まり返ったあと……爆笑に包まれた。
「爆豪くん、めっちゃ気持ちよさそうに寝てたよね〜」
「先生、あのまま抱えて運んでたんだって!」
「まるで子どもみたいでかわいかった〜!」
耳郎、芦戸、上鳴が笑いながら話している。
爆豪の顔が一瞬で真っ赤になる。
「てめぇら……誰がかわいいだとォ!?」
「おっ、照れてる〜!」
「うるせぇぇぇ!!!」
机を軽く叩いて立ち上がる爆豪。
だが、その様子を見てデクたちはさらに笑いが止まらない。
相澤は奥の席でコーヒーを飲みながら、静かにその様子を見ていた。
「お前ら、ほどほどにな」
「はいっ!」
と言いつつ、誰も止まらない。
飯テロレベルの笑顔で芦戸がスマホを出す。
「ねぇねぇ先生、ちょっとだけでいいから寝顔撮らせてくださいってお願いしたら、ほんとに見せてくれたんですか〜?」
「してない」
「え〜残念〜」
その瞬間、爆豪は机をバンッ!と叩いた。
「撮ってねぇよな!? 撮ってねぇよな!?」
「撮ってない撮ってない!安心して!」
「……ったく、クソが……」
腕を組んで座り直し、パンをちぎって口に放り込む。
頬をふくらませて食べるその姿に、また全員クスッと笑う。
デクがにこにこと言った。
「でもさ、かっちゃん、ちゃんと寝れてよかったよ。前の日ほとんど寝てなかったでしょ?」
爆豪は少し沈黙して、視線をそらす。
「……まぁな。もう寝落ちはゴメンだ」
「うん、それがいいと思う」
相澤が立ち上がり、食堂の出口で言った。
「今日の訓練は午後からだ。今のうちに体を休めとけ」
「へいへい、先生〜!」
「わかりましたー!」
とクラス全員が返事する中、爆豪は小声でぼそっと言う。
「……先生」
「なんだ」
「昨日……ありがとな」
一瞬、相澤の目が細くなった。
「気にすんな。お前が真面目に寝るなんて、めったに見れねぇからな。」
「二度と見せねぇ」
「そう言えるうちは大丈夫だな」
そう言って相澤は部屋を出ていった。
食堂にはまだ笑い声が響いていた。
でも爆豪の心の中は、不思議と静かだった。
あの夜、自分を放っとかずに運んでくれたこと――
それだけで、どこかあったかい気持ちが残っていた。
そして彼は、パンをもうひと口食べながら小さく呟いた。
「……ま、悪くねぇ夜だったな」
𝒇𝒊𝒏𝒊𝒔𝒉
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爆豪勝己の寝落ちでした。
リクエスト𝐖𝐞𝐥𝐜𝐨𝐦𝐞です!
見てくれてありがとうございました!
ばいびー