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第二十五話 最後の桜
「別れは終わりじゃない。大切だった時間を、未来へ持っていくための瞬間だ。」
三月末。
桜が咲いた。
一年前。
まだ少し寒さの残る春の日。
湊はこの場所で、初めて紬の写真を撮った。
あの日の紬は。
どこか寂しそうで。
自分の世界に閉じこもっていた。
でも今。
目の前にいる紬は違う。
桜の下で笑っている。
*
「綺麗だね。」
紬が空を見る。
淡いピンク色の花びらが、風に揺れている。
「うん。」
湊はカメラを持っていた。
でも。
すぐには撮らなかった。
この景色を。
この時間を。
ちゃんと覚えたかった。
「撮らないの?」
紬が笑う。
「撮る。」
湊は答える。
「でも。」
「今は見ていたい。」
紬は少し嬉しそうに笑った。
*
その日。
四人は最後の春休みを一緒に過ごした。
蓮は相変わらず騒がしく。
美桜はそんな蓮を笑いながら見ている。
「本当に変わらないね。」
紬が言う。
「うん。」
湊も笑う。
でも。
変わったこともある。
四人とも。
出会った頃の自分とは違う。
*
夕方。
駅。
紬が海外へ出発する日。
見送りに来たのは三人だった。
「向こうでも無理するなよ。」
蓮が言う。
「蓮が言うと説得力ない。」
美桜が笑う。
「でも。」
美桜は紬を見る。
「絶対、夢叶えてね。」
紬は頷いた。
「うん。」
そして。
湊を見る。
*
二人だけ少し離れた場所へ移動した。
駅の音。
人の声。
その中で。
二人の時間だけが
少しゆっくり流れているようだった。
「神崎くん。」
「ん?」
紬は小さなカメラを取り出した。
「これ。」
湊が驚く。
「カメラ?」
「うん。」
「向こうでも写真撮る。」
「神崎くんみたいに。」
湊は笑う。
「俺みたいに?」
「うん。」
「でも。」
紬は続ける。
「神崎くんとは違う写真を撮る。」
「私が見た景色。」
その言葉が嬉しかった。
「楽しみにしてる。」
湊は言う。
「送って。」
「もちろん。」
*
出発時間。
別れの時間が来る。
「じゃあ。」
紬が言う。
「またね。」
その言葉。
普通なら寂しい。
でも。
湊には少し違って聞こえた。
終わりじゃない。
続いていく言葉。
「またね。」
湊も返した。
*
紬が離れていく。
湊はカメラを構えた。
でも。
シャッターを切る前に、一度下ろした。
そして。
最後に一枚だけ撮る。
遠ざかる背中。
でも。
寂しい写真ではなかった。
未来へ向かう写真だった。
カシャッ。
*
夜。
湊は写真を見返す。
一年間。
たくさんの写真。
たくさんの思い出。
最後の一枚。
紬の背中。
湊は小さく笑う。
「また撮ろう。」
いつか。
同じ場所で。
また。
📷 Photo.025『最後の桜』
撮影日:3月30日
離れていても、
同じ空を見ることはできる。
思い出は、
距離なんかには負けない。
コメント
4件
わ!ほんとですか! 私もみぅさんの言葉すごく共感してましたし、心にくるものがありました! そうなんです!今この瞬間を大切にしたかったんでしょうね! 今を生きてるからこそ得られる感覚でもありますし!写真の中では絶対得れないものだから! そうなんです! お別れの言葉ってたくさんあるはずなのに、 どれを使うかによって意味が全く異なってしまう、、ほんと日本語って奥深いです🤭 そうなんですよ!絶対どこかで繋がってます! みぅさんのコメントを読ませてもらって、写真の偉大さに改めて私も気付かされました! ほんとにありがとうございます! 私もコメントからたくさんの気づきを得れたので、ありがとうございます!
うわあ…第25話「最後の桜」、読了しました…(涙) 湊くんが「今は見ていたい」って言ったところ、すごく好きです。一枚の写真じゃなくて、この時間そのものを覚えたいって気持ちが伝わってきて。紬ちゃんがカメラを持って行くシーンも、湊くんみたいに、でも自分だけの景色を撮るって言葉が、二人の関係性をちゃんと未来へつなげてて…。 「またね」が終わりじゃなくて続いていく言葉って感じられたのが、この作品の優しさだと思います。写真って、距離に負けないんだなあ…。