なに? お前さん、化物は何処だと訊きなさるか?
そうかいそうかい。
お前さんも化物殺って、天の船賃を稼ごうって腹づもりだな?
なに? 違うって?
後始末? 自浄作用だ?
なんだね、そりゃ? 言ってることが、てんで解らねえ。
いやいや、耄碌してるんじゃねえよ。
お前さん、化物は何処だと訊きなさったな?
ほら、ここだよ。 そう、俺らの頭の中。
こん中に蟲みてえな化物が棲み着いたってんで、今日あって明日ない身ってヤツなのさ。 本当は。
おいおい? なにを泣いてやがる?
これは、お前さんが悲しむ話じゃねぇ。
むしろ喜んでんだい、俺ぁ。
天か地か、どっちに転ぶかは知らねえが、ひょっとしたら死んだ古女房に会えるかも知んねえ。
ここはひとつ、大手を振って見送っておくんなさい。
………………。
いや、正直なところ魂消たぜ。
見ず知らず者のためによ? そんな風に泣いてくれる奴と、久しぶりに会ったってな。
これも何かの縁か……。
なぁ、別嬪さんよ? 化物に会いてえなら、あの山越えて墓場まで。縁起の悪い名前の村を目指してみな。
そこに、俺らの仇がいる。
いや、なにも仇討を所望じゃねえ。
村の者がまだ生き残ってるようなら、どうか救ってやっておくんなさい。
あぁ、ちくしょ。
俺も、もう少し若けりゃな……。 あんな化物の一匹や二匹。
あぁ、ちくしょう。
怖えなぁ……。 やっぱり怖え。
なにが怖えって、閻魔さまに会うのがな?
なに?
この世の閻魔さまは、本当に怖い?
おいおい? これから往生しようって者を、そう脅かすもんじゃねえよ。
なに? 自分は、閻魔さまの身内だ?
たはは! なんつー冗談……
いや、その目、本当だな?
いやいや。 今さら目溢しを強請むのも、あれだ、格好悪いってなもんだ。
堂々と胸を張って、閻魔さまの御前に出てやらぁな。
それはそうと、お前さんに似て別嬪さんかい? 閻魔さまは。
ははは。 ほれ見ろ。
まだまだ口は減らねえや。
こちとら、口から先に産まれたって、散々からかわれたもんよ。
この口八丁でよ? こう、閻魔さまを丸め込むのも、悪かねぇかもな。
あぁ、でも怖えなぁ……。
やっぱり、怖えや。
「それで、どうした?」
「ん。 その、縁起の悪い村? そこ行って、また化物と戦った」
「仕留めた?」
「や。 それがさぁ、逃げ足の速い奴で」
ささやかに地団駄を踏む姉の意気に倣い、黒髪の合間に帯電した神威の粒が、キラキラと遊んだ。
これに触発されて、自販機が誤作動を起こすのはいつものことだけど、今日は当たりが出ない。
「コンポタ……。 お父(荒)にあげよう」
「ん。 お父と言えば、次は一度、お父(和)と行ってみるよ。 化物退治」
「分かった。 また報告して?」
「おうさ!」
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