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ねこむすび
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ねこむすび
タイトル「父が消えた日」
13年くらい前の12月の日かな
父は事故で死んで、12の俺と11の妹と母を残してあの世に逝った
葬式の時、父を轢いたトラックの運転手は土下座をなんどもしながら「すいませんすいません」って平謝りしてた
遺影の父の白黒写真が不気味に見えたような記憶がある
妹も俺も突然の事で実感が無くて、死んだって感じて泣いたのは葬式の翌日くらいだったかな
寒かった
好きなみかん餅も味がしなかったし、妹は若干引きこもりがちになった
遺骨は、父の実家に引き取られた
経済的余裕のない母子家庭で、遺骨を置くより、実家のほうが仏壇や墓に納めるのがスムーズだからと、母友が母にすすめたからだ
食卓に必ずいた4人が、3人しか居ないことに強い違和感を感じて、居心地が悪くなった
妹は失ったショックで母や兄の俺とケンカするようになった
テストの点数がどうの、置いてあったおやつがどうの、何でも無いことからすぐにケンカに発展した
三週間後、氷と雪で地面が見えなかった時
置き手紙に「帰らない」とだけ残して消えた
慌てて部屋に入ったら、いつも置いてある妹のPCと携帯と、リュックサック、財布だけが消えて、家出したとわかった
財布が消えてるんだから、バスで移動して、カラオケとかネカフェに居るんじゃないかって思って、片っ端から母と俺で電話しまくった
見つからなくて「誘拐」とか、「死んだ」とか、「県外」とか思ってしまって、神にすがる思いで警察に行こうとした
今はもう暗いし、明るい時がいいだろうかなんて考えながら、眠れない眼を強引に眠ったし、34の母も若い大人としてたくさん悩みながら眠った
そんで、母は警察に相談して、俺は近所に聞き回ったら、妹の恋人の武のおじいちゃんが
「お?なら、ウチにおるがな」
って言って
「武!!あのー、島田さんきたわ!!あのー、あのーほら、あのー……あ、珠子ちゃん!珠子ちゃん連れてけぇ」って声荒げて、武が手を引いて出て来た
「すいません。ウチのバカ妹が迷惑を掛けて」ってお辞儀する勢いで謝って、右手で妹の後頭部掴んで強制的にお辞儀させた
帰り道、母は泣きながら電話で怒鳴ってた
妹はそれでも変わらず口答えして一方的に電話をきった
「武がきてなかったら御前、御前何処行ってたんだよ。行く場所あるんか御前」
そう聞いても無視したんで「反抗期かな」って適当に流した
実際は反抗期じゃないけど、まあ、そうだろうなって
家に居たくないよなって思いながら、長靴越しでも感じる雪の冷たさを噛み締めてた
武は翌日に段ボールに入ったお菓子とか和菓子を持って「食え」って言って置いてきた
「にしても、節子さんや巧さんも大変でしたね」
って、妹から聞いたのか母の節子と俺の巧って下の名前を言いながら慰めてくれた
12歳の同い年の武が、「敬太郎さんが死んじゃったのは、まあ、なんて言うか…もう拭えないじゃないですか。じゃあ、前向くしか無いんじゃないですか?…いやまあ、当たり前ですよね、すいやせん…」なんてことを言って逃げるように帰っていった
なんか、武が兄みたいに見えた
事故って言う、不可逆的な事で父が消えて、数年後の8月の盆くらい
16歳の俺と、15歳の妹と、38歳の母は、盆の準備をしてた
蝉がなって、緑の木と青い空の炎天下の日
トラック運転手が帰ってきた
菓子折と謝罪文を持って
トラックのブレーキやサイドブレーキが利かず、パニックになってしまい、結果父とぶつかって死なせてしまった事に罪悪感を覚えて、数年間「謝るべきか?」「謝っても帰ってこない」「でも謝るしかない」「でもなんて言えばいいんだ」「顔を合わせられない」と散々悩んだ挙げ句、盆に来たと言う
母は怒鳴るでも泣くでも追い返すでもなく、客間に案内して茶とお菓子を用意して、ただただ話を聞いて、「罪滅ぼしとしてはなんですが……盆の準備を手伝ってもいいですか?」と運転手が聞くと、「どうぞ」とだけ答えた
運転手は昔から他人のせいで怒られても、「自分が悪い」と抱え込んでしまうらしい
それが余計に、生々しかった
盆の準備が一通り済んで、母も運転手も俺も妹も互いに無言のまま済んだ
まだ昼過ぎで、せっかくだしどっか行こうやと誘って、山が見えるヒマワリ畑を妹と散歩した
アイスを食べながら、時折聞こえる車の音や鳥の鳴き声や子供の声を聞きながら、抹茶のアイスをただ食べてた
まだ苦く感じて、まずかった記憶がある
失ったものは、どう足搔いても謝っても怒っても帰ってこない
遺族や死者に対して、どう向き合えとかに正解はないと思う
トラックの運転手だって、誠実だと見る人も居れば、逃げたと見る人も居る
変な学生時代だった
春夏秋冬、父が消えて、ギクシャクしてたのに、自然と立ち直れた
忘れた訳じゃない
理解した上でだ
ーENDー
作:ねこむすび
※フィクションです
実在の財団、人物、組織とは関係ありません
コメント
9件
事故で亡くなった人の葬式と、突然病気や老衰で亡くなった人の葬式の雰囲気って、似てると思う。 当然過ぎて理解が追いつかない。 皆突然過ぎて泣くことの出来ない人が多いと思う。俺もそうだった まるで暗い森をとぼとぼと歩いていたら、後ろから猛獣に襲われた感じ。 突然の出来事過ぎて声もあげられない 此れから向き合っていく現実と、昨日迄傍に居たあの人が居なくなった現実 其れが辛くて仕方無いんだよね
ねこむすびさん、第1話「父が消えた日」読みました…。 すごくリアルで、胸がぎゅっとなった😢 特にトラック運転手が盆に謝りに来たシーン、母が怒鳴らず受け入れたところが印象的で、正解のない喪失に向き合う家族の姿に涙腺やばかったです。 妹の家出→武のじいちゃんの「お?ならウチにおるがな」の方言で一気に救われた気持ちになりました…。 「忘れた訳じゃない。理解した上でだ」というラスト、めっちゃ沁みました。 ねこむすびさんの優しい視点が伝わる素敵な作品でした🌸