テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「ねえ、今週の末から、移動遊園地が来るそうよ。」
「あら、めずらしいことね。」
「前に来たのはいつだったかしら?」
「子供たちに早速教えてやらなくちゃ。」
「喜ぶでしょうね。」
ふと、様々な足音に紛れてそんな会話が耳に飛び込んできた。
今日は朝からなんだか町が明るいと思ったら、そういうことだったのか。
僕の住む海辺の田舎町パトネゼ。
ここはほぼほかの街から孤立していて、
めったにやってこない商人たちとしかつながっていない。
だから、ここには普段、何の娯楽もない。
あるとすれば、その商人たちの来訪と、漁から帰ってきた漁船の収穫を確認するお祭り騒ぎだ。
いい年した大人たちが、ちょっとした魚たちの気まぐれで一喜一憂するのは、見ていてあきれる。
つまり、子どもの大きな娯楽というのは、一切ない。
この町の子供たちは、商人たちがやってきても限られた本やおもちゃしか手に入らず、皆で回してぼろになるまで遊びつくしてしまう。
そんなわけで、次に商人達が来るまでいつも猫にかまったり、ずっと海で泳いだりしている。
そんな場所に暮らす子供たちが、
たまには非日常の刺激を味わいたい!
と願うのは決しておかしくないだろう。
僕も例外ではない。
今日も暇を持て余し、隣家の屋根に寝転がって通行人たちの立ち話を聞いていた。
そこに、このニュースが飛び込んできたのだ。
移動遊園地がやってくる――――――。
遊園地は、ぼくらが夢に見る
『非日常』
そのもの。喜ぶどころの騒ぎではない。
胸の中で大きく膨らんだ風船のような気持ちを抱えながら、屋根を降り、駆け足で家へ戻る。
扉を破らん勢いで開けて、叫ぶ。
「母さん!移動遊園地がくるって、本当⁉」
「あら、あなたは本当に耳が早いわね。ええ、そうよ。友達と一緒に、行ってらっしゃい。」
やっぱり、ほんとうなんだ!
その日は、どうしても何も手につかなかった。
寝れずにずっと父と母に話しかけていたら、ついにはベッドにほうりこまれてしまった。
「早く寝ないと、週末にならないわよ。ほら、おやすみ。」
「!」
確かにそうかもしれない!寝ないと明日は来ないのだ。
急いで枕に顔をうずめる。
興奮したまま過ごしていたせいか、視界が暗くなると、幸いすぐに眠りは訪れてくれた。
待ちに待ったその日の朝、友達と一緒にいつもの広場に遊びに行くと、見慣れない大きな馬車が何台も止まっていた。
大勢の人。鮮やかな色彩。
そこには色とりどりの遊具やテントがどんどん組み立てられていた。赤や黄色の旗が風にはためき、遠くから聞こえる音楽まで、いつものあの町とはまるで違っていた。
「遊園地が来たんだ!」
思わず声が出た。集まってきた大人たちも、子どもにかえったようにみんな目を輝かせている。
大きな観覧車を見上げると、胸の奥がふわっと浮かぶようだった。
どの乗り物から乗ろう。何を食べよう。考えるだけで、じっとしていられない。
遊園地の開園は夜から。
そう伝えられていたのに、僕たちは遊園地の前を何度も行ったり来たりした。
これからしばらく、いつもとは全く違う時間がこの町にあふれる。
そんな予感がした。
5,830
145
#春馬のなんとかコンテスト
コメント
2件
二話ではQnチャン出すつもりです…展開遅くてすみません〜
みぴよさん、第1話読みました🌙 移動遊園地、来るんだね。この田舎町パトネゼの、何もない日常の描写がすごく沁みました。漁師たちの一喜一憂を「あきれる」って言う主人公の距離感、でも自分も非日常に飢えてるっていうギャップがいい。 「寝ないと明日来ない」って慌てて枕に顔うずめるシーン、子供の頃のあのワクワクを思い出して胸がきゅってなったよ。観覧車見上げる少年の目、眩しいくらいに輝いてて…。 これから何かが変わる予感、大事に読ませてもらいます🤍